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【WEB版】この宮廷付与術師、規格外につき〜人類唯一のスキル「言霊使い」で、俺は世界に命令する〜【コミカライズ】  作者: 日之影ソラ
第一章

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29.それでも君は勇者だ

「これが俺の真の姿だ。ただのワーウルフだと思わないでくれよ? 俺は獣を束ねる狼王だ」


 王と名乗るだけの迫力が、アスタルから感じ取れる。

 三メートルを超える巨体から発せられる圧も、秘めている魔力量も桁違いだ。

 迫力だけでいえば、アービスを上回っている。


「この姿をみて戦意を喪失しないか。戦うだけ無駄だというのに健気だな」

「無駄かどうか、やってみないとわからないだろ?」

「そういう意味じゃないさ。仮に君が勝ったとしても手遅れなんだよ」

「……どういう意味だ?」

「知らないようだから教えてあげる。もう終わってるかもしれないけど、今頃王都は大変なことになっているよ。何せ俺と同じ幹部の一人、アービスの奴が攻め込んでいるからね」


 アービスの名に小さく反応する。

 アスタルは得意げに語る。


「あいつは女を弱々しいとか言ってすぐ殺すからな~ 正直あいつのことは好きじゃないけど、実力は本物だからね。まぁでも、どうせなら制圧する前に声をかけてほしいよね。王女様も可愛いらしいじゃないか? ぜひ俺のおもちゃに加えたいよ」

「……そいつとは、仲が悪いってことか」

「ん? ああ、悪いね。連絡も最低限しか取り合わないし、前に話したのは何年前だったかな?」

「そうか」


 今の話でわかったこと。

 アスタルには、アービスが倒されたことが知らされていない。

 まだ伝わっていないんだ。

 だからあいつは、俺のことも知らなかった。

 

「良かった。お前たちの仲が悪くて」

「何?」


 俺は懐から黒い箱を取り出す。

 無限に物が収納できる魔道具だ。

 ここには王都から持ってきた武器や道具の数々が収納されている。

 あのとき、アービスを倒した千本の剣も――


「開門」

「これは剣? 何だこの数は」

「知らないようだから教えてあげるよ。アービスなら死んだ」

「は? 死んだ……だと?」

「そう。俺が倒したんだ。こうやって――」


 自身に拡声を付与。

 そのまま大声で叫ぶ。


「『聖属性』!」


 千本の剣がアスタルを襲う。

 突き刺さった剣から流れ込む聖なる力に、アスタルは悲鳴を上げる。


「ぐ、ぐおおおおおおおおお――何だこれは!」


 思った通り、聖属性はアスタルにも有効らしい。

 的もでかいから当てるのは簡単だ。

 このまま千本全部刺して、アービスのように討伐する。


「くそがあっ!」

「っ――」


 アスタルは身をよじり、腕を大きく振るった。

 生じた風圧で剣が吹き飛ばされてしまう。

 刺さったのは半分以下、剣は地面に突き刺さったり転がってしまう。

 バラバラに散らばった剣を操るのは難しい。


「だったらこれだ」


 弓と矢を取り出し、アスタルの側面へ回り込む。

 矢に聖属性を付与し、弓の連射で追い打ちをかける。

 

「図に乗るなよ人間がぁ!」


 アスタルが地面を蹴り上げ、一瞬で目の前に迫る。

 振り下ろされた拳を何とか躱したが、衝撃で後ろに吹き飛ばされてしまう。


「くっ、なんて力だ」


 殴った地面が抉れている。

 まともに受けていたらぐちゃぐちゃにされていたな。

 それに……

 聖属性の攻撃は効果がある。

 ただ、アービスのようにはいかない。

 アービスは肉体を捨て、力の塊をむき出しにしていたけど、今回の相手は違う。

 聖属性の通りが悪いのかもしれないな。


「長期戦は不利だな。一気に終わらせる!」


 多少の無理は通すしかない。

 俺は弓を構えながら、転がっている剣も同時に操る。

 ただでさえ細かい操作が難しい思念駆動を使いながら、矢を放ち相手の攻撃も躱す。

 簡単なことが一つもないぞ。


「どうした? 動きが鈍くなってきたようだが?」


 徐々に攻撃の間隔が広がり、間合いをつめられる。

 純粋なスタミナ不足だ。


「所詮は人間なんだよ。頑張ったところで結果は同じだ!」

「くっそ」


 攻撃を躱しきれず、地面に叩きつけられる。

 覆いかぶさるように立つアスタルが、拳を振り上げていた。


「終わりだな」

「――なっ」


 一瞬、俺は驚いてしまった。

 それと同時に、不甲斐なさも感じてしまったけど、それはきっと同じなのだろう。

 

「そうだったね」


 一人じゃない。

 弱さを見せても良いし、守られたって良い。

 君は女の子なんだから。

 だけど――


「それでも君は、勇者なんだね」

「は? 何を――」


 気付くのが遅れた時点で、アスタルの敗北は決まった。

 月を背に、聖剣を振るう彼女の姿を捉えた時が、アスタルの見た最後の景色になる。


「エイト君は殺させない!」

「馬鹿な、なぜ……」

「勇者だからだと思うよ」


 呆れるほどに、彼女は勇者であろうとしている。

 アスタルの敗因を挙げるとすれば、彼女を勇者としてではなく、自分のおもちゃになる弱い女と思っていたことだろう。

 

 聖剣で切り裂かれたアスタルの身体が燃え上がる。

 倒された悪魔は、皆こうして消えていく。 


「終わった……か」

「エイト君!」

「アレクシア。助かったよ、ありがとうぅ?」


 勢いよく抱き着いてきた彼女に、思わず声が裏返ってしまった。

 俺もフラフラだから、勢いに負けてしりもちをつく。


「良かった。エイト君……無事で良かったよぉ」

「……うん。俺も、アレクシアが無事でいてくれて、良かったよ」


 互いの無事を確かめ合う。

 その身で、声で。

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