25.毒見は勇者の仕事?
未開拓地域で見つけた小さな村。
人口は二百人ほどで、その七割が女性だった。
「運が良かったのでしょうねぇ、ここには悪魔なんて一人も来ませんでしたよ。時々モンスターが出るくらいです」
話してくれたのは村長のお婆さん。
話によると、ここは昔から女性がよく生まれる村だったらしい。
男性のほとんども成人すると、出稼ぎで村の外に出てしまうから、村に残るのは女性ばかりになるそうだ。
「もしよければ、今晩はこの村に泊っていきませんか? 部屋なら余ってますので」
「本当ですか? それは助かります。みんなもそれでいいかい?」
ユーレアスさんが尋ねると、全員がこくりと頷く。
一週間は野宿だったから、屋根付きの場所で寝泊まりできるのは久しぶりだ。
その夜は、村長さんの計らいで、村人全員を集めて楽しく食事をとった。
「お兄さん背が高くて格好良い~」
「そうかい? 君たちは見る眼があるね~」
ユーレアスさんの周りには女性が集まっていた。
それを離れた場所から俺たちが見ている。
「楽しそうですね」
「鼻の下が伸びて変な顔」
「ああ、お前はあんな風になるなよ? エイト」
「気を付けます」
二人の冷めた視線が怖い。
こんな眼で見られてしまわないように、俺はわきまえよう。
目の前には料理が並んでいる。
お酒や飲み物も用意してもらってた。
「食べないんですか?」
「まだ駄目だ。こんな場所だぞ? いくら親切に感じても、最初から信用してたら騙される。毒でも入っているかもしれない」
「そ、それはさすがに大丈夫じゃないですか? 村の皆さんも食べているし」
「甘いわね。私たちにだけ入っている可能性もあるのよ」
レナさんがそう言った。
確かに、そういう可能性もゼロではないのか。
ここは悪魔領に近い村。
もっと疑ってかかるべきなのだろう。
とはいっても、せっかく出された料理に手を付けないのも、良くない気がする。
そう思っていると――
「そんじゃ頼むぞ、アレクシア」
「はーい!」
アレクシアは手をあげて元気よく返事をした。
そのまま料理に手を伸ばし、何の躊躇もなくパクリと食べる。
「え、ちょっ……」
「うん、美味しいよ!」
さっきまでの話は何だったんだ?
と疑問に思うくらい清々しく、美味しそうに食べているアレクシア。
それを確認して、アスランさんが言う。
「毒はないみたいだな。よし、オレたちも食べるか」
「そうね」
「はい。いただきましょう」
当たり前のように三人も食事を始める。
俺だけ置いてきぼりをくらっている感じだ。
「お前も食って良いぞ」
「あの……」
「ん? ああ、さっきのは毒見だよ」
「毒見? 普通に食べて大丈夫なんですか?」
「だいじょーぶ! ボクは勇者だからね!」
えっへんとドヤ顔を見せるアレクシア。
まったく説明になっていなくて、俺はキョトンと首を傾げる。
「アレクシアには毒が効かないのよ。聖剣を持っているお陰でね」
すると、レナさんが代わりに答えてくれた。
さらにフレミアさんが続けて言う。
「聖剣には害ある物を退ける力が備わっています。所有者は聖剣から流れてくる力を纏い、危険から身を守っているのです」
「強力な耐性を持っている、ということですね」
「はい。その通りです」
フレミアさんがニッコリと微笑む。
「どうどう? ボクって凄いでしょ? 勇者だからね!」
「また始まったな、アレクシアの勇者自慢」
「相変わらず子供ね」
「可愛らしくて良いと思いますよ?」
三人とも子供を見守っているみたいな視線を向けている。
アレクシアは、それに気づいていない様子だ。
「毒見って普通、勇者の役割じゃない気もするけどね」
「そんなことないよ? みんなが食べるものが安全か確かめる! そうすれば誰も傷つかないし、苦しい思いをしなくて済むでしょ? それはボクの役目だよ!」
「なるほど」
そういう考え方も出来るのかと、俺は密かに感心した。
「みんなはボクが守るからね! エイトも頼りにしてくれていいよ!」
「ああ、ありがとう」
「それは良いけど、何も考えず敵に突っ込んだりするのはやめてくれよ?」
「うっ……」
「援護するのも大変なのよ?」
「うぅ~」
「怪我の治りが早いといっても、無茶しすぎも良くありませんからね」
「……ごめんなさい」
途中からみんなに説教をされる流れになったアレクシア。
その様子を見て、俺は王城で初めてあった日のことを思い出していた。
あの時も確か、みんなの制止を聞かずに一人で王都へ駆け戻ってきたんだっけ?
守ると決めたら一直線で、なりふり構わず突き進む。
それが彼女なのだろう。
そして、まっすぐな彼女を助けるために、俺たち仲間がいるんだな。
「まさか、食事で再認識させられるとはね」
その一方で、ユーレアスさんは女性と楽しく食事をしていた。
あちらは毒見していないけど大丈夫なのだろうか?
見た感じ何ともなさそうだし。
「あれはほっといて良いぞ」
「そうね。いっそ痛い目を見たほうが良いと思うわ」
「即死する毒でなければいいですね」
ユーレアスさんに向ける視線と、アレクシアを見守る視線。
天と地の温度差を感じる。






