24.真剣な顔でどこ見てるんですか
目の前には浄化された男が倒れ込んでいる。
紫色の炎は完全に消滅したから、もう大丈夫だろう。
「ビックリしたなぁ……」
「そうか? オレにはずいぶん冷静そうに見えたけど?」
「うんうん! 僕も冷静に見えたな~」
アスランさんとユーレアスさんにツッコミを入れられた。
「い、いや驚きましたよ。まぁでも、城で初めて対峙した時よりはマシだったというか。流れで聖属性付与しちゃっただけです」
「流れ!」
なぜかアレクシアが元気に反応した。
フレミアさんが倒れている男を見ながら言う。
「それはそうとして、この方はどうしましょうか」
「放置で良いでしょ」
レナさんが即答した。
慌ててアレクシアが否定する。
「だ、駄目だよ駄目! ちゃんと手当てしてあげなきゃ」
「でもこいつアービスに乗っ取られてたわよね? 間違いなく悪い奴よ」
アービスが憑依できるのは、相応の負の感情を抱いている相手だけだ。
俺を恨んでいたカイン同様、この人もアービスに目を付けられるだけの激しい何かを持っているに違いない。
「そ、それはそうだけどぉ……」
アレクシアが俺のほうに視線を送る。
俺も何か言ってくれ、とでも伝えたいようだ。
「とりあえず手当はしてあげましょう」
「そうだね。村の人たちにも聞いてみようか? もしかすると、この村の住人かもしれない」
ユーレアスさんも付け加えてくれた。
レナさんは面倒がっていたけど、フレミアさんは進んで手当てをしてくれた。
その後、村の人に話をすると、ユーレアスさんの予想通り村の住人だったらしい。
諸々の事情を考慮しつつ、処遇に関しては村の人に任せることになった。
王城へ知らせることも考えたが、ここまでは距離もあるし、いつまでも同じ場所で留まってはいられないから。
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アービスと遭遇した村を出発し一週間。
俺たち勇者パーティーが進んでいるのは大陸の西方、どの国にも属さない未開拓地域だ。
大陸の六割を占める人類国家。
一割は未開拓地域であり、どの国にも属していないエリアがまばらに存在する。
そして残る三割。
大陸の西側は悪魔領と呼ばれている。
言葉通り、悪魔たちが支配しているエリアであり、魔王が居を構えている。
「今の魔王が誕生する前までは大人しいものだったよ。それがここ二年足らずで急成長を遂げた。元は悪魔領も今の半分くらいしかなかったんだ」
「半分ですか……侵略を続けて、今の三割まで増えていると」
「そういうことだよ。ちなみに侵略を受けて西側にあった人類国家の一部は滅ぼされてしまっている」
道中、俺はユーレアスさんから今までの戦いや、魔王軍について教えてもらった。
ほとんど噂でしか知らなかったことだけど、知るほどに緊張感が増していく。
「今いる未開拓のエリアは広い。ここを抜ければ、いよいよ悪魔領に入る。よりいっそう過酷な旅になるだろうね。その前に君を引き入れられたのは幸運だったよ」
「役に立てるよう頑張ります」
「ああ、大いに頑張ってくれたまえ」
期待に応えられるように頑張ろう。
そう思いながら進んでいくと――
「あっ! ねぇあそこ! 誰かいるみたいだよ!」
アレクシアが指をさす。
生い茂る木々の隙間に、女性の人影が見える。
少し近づくと、他にも何人かいて、建物もあるようだ。
村があるように見えるが……
「ここって未開拓地域ですよね?」
「ん? そう珍しいことじゃないよ。未開拓というのは国から見たらってだけだから、普通に住んでる人はいるね」
「なるほど」
「ただまぁ、ここは悪魔領に近いし、何の被害も受けていないとは思えないけど」
ユーレアスさんが不吉なことを口にした。
俺はごくりと息を飲む。
さらに近づくと、数軒の家々が建った小さな村があった。
「あら? 旅のお方ですか?」
「はい。冒険者をしているものです」
とユーレアスさんが答える。
勇者一行であることは、基本的に話さないようにしているらしい。
話すことで巻き込んでしまったり、悪魔側に動向が悟られないように。
「みんなー! 外からお客さんよ~」
「えっ! 外から?」
「久しぶりね~」
声をかけるとたくさんの女性が集まってきた。
この村は女性の比率が多いようだ。
見た所老人や子供いるが、圧倒的に若い女性が多い。
「ほうほう、なるほど」
「ユーレアスさん」
「気づいたかい? この村の女性……みんな可愛いよ」
「え?」
真剣そうな顔つきで何を言い出すかと思えば……
「それに見てよ。みんな胸が大きい!」
どこ見てるんだよこの人。
すると、横からアスランさんとレナさんが、冷たい視線で言う。
「無視でいいぞ、無視で」
「そうね。馬鹿がうつったら大変よ」
「酷いな君たち! 僕のどこが馬鹿なのさ!」
「「黙れ女たらし」」
「ふおっ……エイト君助けてくれ! 二人が僕を虐める!」
「い、いやぁ……ごめんなさい」
ここは関わらないほうが良さそうだな。
悪魔領手前だというのに、緊張感の欠片もない。
こんなんで本当に大丈夫なのだろうか?






