23.出オチですね
「よいしょっと」
武器庫で眠ってしまったアレクシア。
硬い地面と鞘の枕でも気持ちよさそうに眠っている。
「慣れてるのかな?」
彼女たちが旅をしているのは、魔王軍の侵略の被害を受けてしまった場所ばかりだ。
きっと野宿なんて当たり前で、慣れっこなのだろう。
ただ、せっかくお城にいるというのに、こんな場所で眠るのは勿体ない。
何より勇者だって女の子なんだ。
そう思って、俺は彼女を抱きかかえて、部屋のベッドへ案内した。
移動中に起きるかと思ったけど、気持ちよさそうな寝顔に変化はない。
「こうしてみてると、やっぱりただの可愛い女の子だな」
勇者様……か。
こんな小さな体で、人々の期待を背負っている。
元気に明るく振舞う姿を思い出して、少しでも助けになりたいと思った。
部屋について、彼女をベッドにおろす。
ゆっくりおろして布団をかけた。
「おやすみなさい」
一言だけ添えて、俺は部屋を出た。
起こさないよう扉もゆっくりと閉める。
「よし」
「あら? エイト」
その声は――
「姫様」
「こんばんは」
姫様はニッコリと微笑み、俺のいた部屋を確認した。
そして意地悪な笑顔で言う。
「こんな時間に、女性の部屋でいったい何をしていたのですか?」
「え、いや、やましいことなんてしてませんよ?」
「本当でしょうか? アレクシアは可愛いですからね」
「ち、違いますって!」
「ふふっ、冗談ですよ。大方あの子がどこかで眠ってしまって、エイトが運んでくれたのでしょう?」
凄いな。
ほとんど正解だ。
「はぁ……勇者とはいっても、彼女はまだ子供ですからね。エイトにも苦労をかけると思いますが、どうかよろしくお願いします」
そう言って、姫様は深く頭を下げた。
「や、やめてくださいよ姫様! 俺みたいな庶民に頭なんて下げちゃダメですって」
「ふふっ、前にもこんなことがありましたね。ですが、今の貴方はわが国の未来を担う戦士の一人です。私は貴方が、この国を救う英雄になると信じています」
「姫様……」
「エイトの力は、必ずアレクシアたちの助けになります。どうか自信をもってください」
「……はい。頑張ります」
俺はハッキリと、背筋を伸ばして返事をした。
こうも期待されてしまったら、不甲斐ない姿は見せられないな。
「こうして、エイトとゆっくりお話しする機会も、しばらくお預けですね」
「そう……ですね」
「それは少し……いいえ、とても寂しいです」
「姫様……」
「ですから、なるべく早く終わらせて城へ帰ってきてくださいね? 待っていますから」
「はい。頑張ります」
こうして夜は更けていく。
結局準備は最後まで終わりそうになくて、最低限で済ませた。
武器の調整や収納はできたから、一先ず何とかなるだろう。
そして翌朝。
出発の時間がやってくる。
「エイト君! 準備はバッチリかな?」
「ああ」
「良かった~ ボク昨日は途中で寝ちゃったからさ~」
えへへ~と申し訳なさそうに頭に手を当てるアレクシア。
「おいアレクシア、まさか邪魔したんじゃないだろうな?」
「邪魔なんてしてないよ! 酷いなぁーアスランは。ボクは手伝ったんだよ!」
「途中で寝たら結局意味ないでしょ」
「うぅ……」
レナさんに図星をつかれ、アレクシアはむくれてしまう。
これから戦地へ戻ろうというのに、微笑ましい光景だ。
「姫様、明日には騎士団長が戻られるんですよね?」
「はい。その予定です」
「では、騎士団長に伝言をお願いできますか? 倉庫の武器を一部お借りすることと、付与した効果順に整理しておいたので、確認してほしいと」
「わかりました」
宮廷付与術師として、やれるだけの備えは残しておいた……つもりだ。
それでもやっぱり不安ではある。
「そう心配しなくて良いよ。今回はこれを置いていくから、何かあれば一瞬で王都まで戻って来られる」
「何ですかこれ?」
「転移の魔道具だよ。旅の途中で手に入れてね。ちょうど戻ってきたのだし、片方をここに置いておこうと思って」
見た目は丸い水晶だが、これと別にもう一つの水晶があって、二つの地点を転移できるらしい。
その片方は、王都へ戻る前に立ち寄った村に隠してあるそうだ。
今からこの魔道具の力を使って、戦地へと戻る。
「では、いってらっしゃいませ」
「はい」
「いってきまーす!」
別れの言葉は簡単に。
話したいことはたくさんあるけど、それは全部が終わってからだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
とある村に、一人の男がフラフラと立ち寄る。
みすぼらしい格好の男は、紫色の炎を瞳に宿していた。
「くそ……まさかワシが負けるとは」
そう。
この男には、アービスが憑依している。
彼は慎重な悪魔で、もしもの時のために身体の一部を別の個体に憑依させておいたのだ。
「だがワシは終わってはおらん。万全の状態まで回復したら、今度こそ王城を落とす。いや、いいやその前にあの男だ! 忌々しい付与術師を灰にしてくれるわ!」
恨みの炎を宿し、彼が見つけたのは村の端にある小さな小屋。
ボロボロでもう使われていないように見える。
隠れ家として利用するつもりのようだ。
「ん? これは……転移の水晶? なぜこんなところに……」
アービスが手を伸ばした。
その瞬間、水晶が光り輝く。
「な、何だ!?」
「ホントに移動できた! すごいねこの水晶! ねぇエイト!」
「そうだね。これなら王都で何かあっても――ん?」
目と目が合う。
互いに見覚えのある顔と、炎だった。
「お、お前は……」
「……『聖属性』」
「ぐ、ぐえああああああああああああああああああああああああああ」
アービス最期の悲鳴がこだまする。






