21.一緒に魔王を倒そう!
朝日の眩しさに起こされたその日。
早朝から仕事場へ向かう途中、姫様に声をかけられた。
話があるから来てほしいと言われ、案内された部屋には、勇者様たちが待っていた。
何事かと緊張する俺に、姫様は真剣な眼差しを向ける。
「エイト、あなたには勇者パーティーへ参加して頂きたいと思っています」
「……え?」
完全に虚をつかれて、気の抜けた声が出てしまった。
言葉の意味はわかるけど、理解はできなかった。
「えっと……あの……どういう意味でしょう?」
「言葉通りの意味だぜ」
そう言ったのはアスランさんだった。
彼は爽やかな笑顔を見せ続ける。
「オレたちと一緒に、魔王討伐の旅に出ようって話だ」
「お、俺がですか?」
「他に誰がいるのよ? 鈍い男ね」
呆れ顔を見せるレナさん。
やれやれと両手でジェスチャーする。
今度はフレミアさんとユーレアスさんが続けて言う。
「突然のお話で驚かれていますね」
「無理もないさ。ここは一つ、こうなった話の経緯を説明しようじゃないか」
「それは私から説明しましょう」
「姫様がそうおっしゃるなら、お任せしますよ」
姫様はニコッと微笑み、俺のほうへ視線を向ける。
「実は昨日の夜、皆さまとお話をさせて頂きました。主に現在の戦況についてです」
姫様はこう続けた。
勇者一行は現在、魔王軍の幹部を二人撃破し、今回の一件で三人目が倒された。
順調ではあるものの、魔王軍の勢いは衰えていない。
むしろ幹部が倒されたことで緊張感が増し、より手強くなっているという。
アービスが今頃になって王城を襲撃したことも予想できず、後手に回ってしまったこともある。
「それに魔王軍の間では、不穏な動きが増えているそうです。強力な兵器の完成も近いと、敵の悪魔が話していたと」
「強力な兵器……ですか?」
「詳細は僕たちにもわからない。ただ話しぶりからして、完成すれば人間界なんて一瞬で支配できる、みたいな強さらしいよ」
とユーレアスさんが補足した。
そんな兵器が本当に開発されたら……
「そこで君だよ! エイト君」
「はい。エイトの力は本物です。それは私や、騎士団の皆さんが知っています」
「君の付与術について聞かせてもらったよ。結論から言ってしまうとね? 君の付与術は明らかにおかしいんだ」
「おかしい?」
「そう、おかしい。別に悪い意味じゃない。普通の付与術とは明らかに違う。付与できる効果の種類はもちろん、効果時間が永久なんて聞いたことがない。まず第一に、触れてもいない対象に付与できるなんて君くらいだよ?」
「しかも人にも付与できるんだよな?」
「は、はい。できますけど」
「付与術は人には使えないわよ、普通ならね」
アスランさんとレナさんが続けてそう言った。
最近特に感じることが多くなったけど、俺の付与術の認識は、一般的な物とは大きくずれている。
効果が持続するのは最大でも一日程度で、付与するには対象に触れる必要があって、物や道具にしか出来ない。
それがみんなの知っている付与術らしい。
対して俺の付与術は……確かに全然違うな。
「異常……何でしょうか?」
「僕は才能だと思うけどね?」
「才能?」
「そうさ。君の中には、自分でも気づいていない才能が隠れているのかもしれないよ」
俺の中に……才能が?
「エイト、あなたは強いです。それは助けられた私が一番知っています」
「姫様……」
才能があるとか、君は強いとか。
そんな言葉は、俺なんかとは縁遠いものだと思っていた。
思えば姫様と出会ってから、俺の人生は大きく変わったな。
昔の俺なら、自分を信じるなんてことは言えなかったし、思いもしなかっただろう。
だけど今は、こうして認めてくれる人がいる。
必要としてくれる人たちがいる。
「エイトさん!」
アレクシアが俺の手を握り、めいっぱいの笑顔で言う。
「ボクたちと一緒に世界を救いに行こうよ!」
勇者が、仲間になってほしくてこちらを見ている。
温かくて小さいけど、聖剣を握り続けている強い手で、俺の手を握りしめている。
もう答えは考える必要もなさそうだ。
「はい。俺なんかでよければ喜んで! 皆さんの力になれるよう頑張ります!」
こうして俺は、勇者パーティーの一員になった。
新しい旅が、これから始まろうとしている。






