20.憧れの人たちに
「いやはや、ここまで戻ってくるのは疲れたよ」
赤魔術師ユーレアス。
国内最高最強の魔法使いと呼ばれる人であり、界隈では有名な女好きの遊び人でもあるらしい。
飄々とした性格と風貌から、軽薄でロクデナシと呼ばれることもしばしば。
しかし魔法使いとしての腕は誰もが認めており、これまで数々の新魔法も開発している。
「お前が魔法使うのは面倒とか言うからだぞ。使ったほうが早かっただろ」
槍使いアスラン。
元騎士団所属で、魔槍ゲイボールクを持つ国内随一の槍使い。
口調や態度は乱暴だが、困っている人がいると放っておけなかったり、勇者に似た優しい男。
騎士団長さんと仲が良いらしい。
「どうでも良いけど、その槍長くて邪魔よ」
「何だとレナ!」
アスランと言い合いをする彼女は、精霊術師レナ。
見た目は幼い少女だが、もう成人しているらしい(本人談)。
大地の精霊と契約していて、周囲の地形を自在に操って戦う。
実は勇者パーティーの中で一番の力持ち。
「まぁまぁ、お二人とも姫様の前ですよ? もう少し落ち着いてください」
お淑やかに笑うのは、白魔術師のフレミア。
天啓という特殊な力を持っており、天からのお告げを聞くことが出来る。
魔王誕生を知ったのは、彼女の力によるものだという。
そして――
「あははは~ とにかく合流出来て良かった良かった!」
と能天気に笑う勇者アレクシア。
そんな彼女を見て、四人全員が大きなため息を漏らす。
「何で!?」
このやり取りだけで何となく、彼らが普段から苦労しているのだろうと察した。
勇者パーティーは仲間というより保護者に近いのかな?
そういうパーティーの形もあるのかと、一人で感心していると、ユーレアスさんと目が合った。
「君がアレクシアが言っていたエイト君かい?」
「は、はい。宮廷付与術師のエイトです。勇者様御一行とこうしてお話ができるなんて夢のようです」
「そう畏まらないでくれ。僕らは別に貴族でも王様でもない」
そう言われても緊張するだろう。
相手は国の未来を担う勇者パーティーだ。
俺とは違う世界の住人だと思っていた人たちが、こうして目の前にいる。
いやでも緊張で硬くなるよ。
今度はアスランさんが俺に言う。
「聞いたぜ。アービス倒してくれたんだってな?」
「え、あ、はい」
「ありがとな。オレたちの代わりに城と姫様を守ってくれてよ」
「い、いえそんな……運が良かっただけですから」
「それはないんじゃない? 運で倒せるほど、魔王軍の幹部は甘くないわ」
アスランさんに続けてレナさんがそう言ってくれた。
要するに自分の実力だと。
「レナさんの言う通りです。エイトさん、私からも感謝を」
「僕からもお礼を言わせてくれ。あれは本来、僕らが倒すべき相手だった。何度も取り逃がして困っていたんだ。本当にありがとう」
本当に何だろう。
偉大な人たちから感謝されている。
こんなこと、以前の自分なら考えられなかったな。
それに感謝されるのは恥ずかしくて、一生慣れることはなさそうだ。
「ねぇエイトさん! どうやって倒したの? 教えてほしいな!」
「え、えっと」
「それはオレも聞きたいな。参考までに教えてくれないか?」
他の皆さんも興味はある様子。
俺は照れながら、自分の付与術についてや、アービスとの戦いについて語った。
その後は勇者様たちから冒険の話を聞かせてもらった。
そして夜になり、俺はベッドで横になる。
勇者様たちが教えてくれた旅路の話は、聞いていて興奮を隠せなかった。
俺が知らない場所、見たことのない景色を見て、体感している。
戦いは大変で、辛いことも多いだろう。
だけど、未知に遭遇するワクワク感はやっぱり魅力的だった。
思えば冒険者になったばかりの頃は、俺も新しいことを知るたびにワクワクしていたな。
「冒険……か」
宮廷付与術師になったことに後悔はない。
だけど今日、冒険への思いが強くなってしまったことは否めない。
そんなことがあった翌日。
だからこそ、俺は今までで一番驚いたんだ。
「エイト、あなたには勇者パーティーへ参加して頂きたいと思っています」
「……え?」
姫様からの提案に、俺はしばらく黙り込んだ。






