19.勇者パーティー続々到着
「あ、改めて自己紹介します! ボクはアレクシア! 今年で十五歳です!」
十五歳?
俺より五つも下じゃないか。
「彼女が噂の……」
「はい。聖剣エクセリオンに選ばれし勇者です……一応」
「一応ってひどい姫様! ボクは誰がどう見たって立派な勇者だよ!」
えっへんと自分で言わんばかりに胸を張り、ドヤ顔で誇らしげにそう言った。
正直、まるで子供みたいだなと思った。
どう反応して良いか困ったので、視線を姫様に向けると……
「おそらくエイトが思っている通りです」
「ああ、なるほど」
勇者アレクシア。
王家に代々伝わる聖剣エクセリオンを引き抜いた唯一の人間である。
今から二年ほど前の話だが、聖剣は元々、英雄の丘と呼ばれている場所に突き刺さっていた。
王都からも離れた草原を越え、小高い丘の中心にあった聖剣は、誰も触れることすら出来ず、抜くことも叶わない。
念のために警備の兵が配置されていたが、どうせ誰も使えないからと、警備の兵も油断していたらしい。
当時はただの村娘だったアレクシアがこっそり入り込み、聖剣を抜いてしまったそうだ。
偶然その瞬間を目撃した警備の兵は、顎が外れそうになるくらい驚いたという。
そんな事件があった日と同じく、はるか遠い大陸で魔王が誕生した。
誰もが運命だとすら感じただろう。
アレクシアは魔王を倒すために選ばれた勇者となった。
しかし、彼女はまだ幼かった。
戦いの経験はもちろん、広い世界の知識もない。
故に一部の者からは、成り上がり勇者とか、未熟者と言われているらしい。
という話を、一緒に城の中へ戻る途中にこっそり聞いた。
公にはされていない情報も多い。
それを知ることが出来るのも、宮廷付きの特権だな。
「王城に来るの久しぶりだな~」
「楽しそうですね」
「うん! キラキラしてておっきくて好き!」
勇者様は無邪気に笑いながら、クルンとその場で回る。
こうしていると、確かに聖剣に選ばれた勇者には見えないな。
どこにでもいる元気な女の子だ。
見ていてホッとする。
「アレクシア」
「はい! 何ですか? 姫様」
「皆さまのところへ戻らなくても良いのですか?」
皆さまとは、勇者パーティーの仲間たちのことだろう。
そういえば何で一人なのだろう?
「大丈夫ですよ! みんなこっちへ向かってると思いますから」
「そうなのですか?」
「はい! ボクが一番速いから先に来たんです!」
「そう。ならしばらく待ちましょうか」
俺は姫様と勇者様に連れられ、午後のティータイムをご一緒することになった。
会食用のテーブルに並んだ椅子。
その端っこに三人だけが座り、使用人が紅茶を注いでくれた。
王城の紅茶は、街で出される物とは格が違う。
貧乏舌の俺にも、味の違いがわかるほどだ。
「美味し~ 落ち着くな~ こんなにのんびりできるの久しぶりだよ~」
「だらしないですよ」
だらーと怠ける勇者様に、姫様は呆れ顔だ。
「このまま寝ちゃいたい」
「もう、エイトもいるんですよ?」
「良いじゃないですか。勇者様も長い旅と戦いで疲れているでしょう。俺だってアービスと戦った後は一日寝てましたからね」
見た目は普通の女の子で、勘違いしてしまいそうになる。
だけど彼女は勇者で、今までずっと魔王軍の猛者たちと戦ってきたんだ。
きっと、想像を絶する困難にも、何度もぶち当たったはずだ。
たった一回だけ戦った俺には、到底想像もできないほど過酷な旅だと思う。
「アービス……そうだ! アービスが城に攻め込んでくる!」
「それはもう終わりましたよ」
「へ? そうなんですか?」
「ええ。エイトが倒してくれましたか」
「エイトさんが?」
「ええ、まぁ」
ちょっと照れながら答えると、勇者様はいきなり目を輝かせ、飛び跳ねるように顔を俺に近づけてくる。
「凄い! 凄いよ! アービスをやっつけちゃうなんて!」
「ちょっ、近いですって」
「ボクたちが何度も取り逃がした相手なんだよ! どうやって倒したの?」
全然聞こえてないな。
互いの呼吸すら感じられるほど近くに顔を寄せ、興味津々に尋ねてくる。
さっきまで眠そうにしていたとは思えないほど興奮しているようだ。
するとそこへ――
「おやおや? 何やら楽しそうだね」
聞き覚えのない男性の声が聞こえてきた。
柔らかく優しい声だ。
俺は誰だろうと扉へ視線を向ける。
「皆さま」
「あ、みんな!」
二つの反応を見て察した。
扉から入ってきた四人の男女。
この人たちが勇者様と一緒に旅をしている仲間たちだ。
「姫様、お久しぶりです」
薄緑色の髪をした優しそうな男性が姫様に挨拶をした。
さっき声をかけてきたのも彼だ。
その隣には、ちょっと怖そうなツンツン頭の男性が、片手に槍を持っている。
「遅かったね」
「お前が速すぎるんだよ。ったく他人の制止も聞かず突っ走りやがって」
「ホントよ。お陰で汗をかいたわ」
と言ったのは、黄色い髪をした小柄な少女だった。
見た目は勇者様より幼いけど、彼女も仲間のようだ。
そして、最後に美しい桃色の髪で、白い修道服に身を包んだ女性がニッコリと微笑む。
「皆さんそう言わずに、こうして合流出来て良かったです」
「フレミアは甘いのよ」
「そうだぜ。こういう時はちゃんと言わないとな」
「うん。まぁわかっていたけど、偶には僕たちの話も聞いてほしいね」
彼らの会話から察するに、どうやら勇者様は一人で勝手に飛び出したようだ。
それを後から、彼らが急いで追いかけてきたと。
姫様も察したのか、勇者様を見て……
「アレクシア?」
「うっ……ごめんなさい」
「はははは……」
何だかこの二人は、姉と妹みたいだな。






