2.新天地を探します
パーティーを追い出された俺はひとしきり落ち込んで、一週間が過ぎた。
その間、特に何をするわけでもなく、ただダラダラと一日を過ごしていた。
このままではいけない。
俺は荷物をまとめてから宿屋を出た。
向かったのは雑貨屋だ。
色々と考えた結果、俺はここ王都を出ることにした。
行先は特に決まっていないけど、とにかく王都を離れたかった。
理由は簡単だ。
王都は俺を追い出したパーティー【ルミナスエイジ】の活動拠点だから、ここにいれば嫌でも彼らと顔を合わせることになる。
きっと惨めな思いをするだろう。
だから、どこへでも良いから旅立つことにした。
「いらっしゃい! 何をお探しですか?」
「大きめの布ってありますか? このくらいの」
店に入った俺は、店員にわかりやすくジェスチャーで伝えた。
俺がほしいのは、大人が寝そべっても余裕が出るくらい大きな布だ。
「絨毯でも良ければありますよ」
「それでお願いします」
説明を理解してくれた店員が、店の奥から絨毯を持ってきてくれた。
クルクルにまかれた絨毯を置いて、店員は俺に尋ねる。
「あなた冒険者ですよね? 絨毯なんて何に使うんです?」
「馬車は高いですからね」
「馬車?」
キョトンとした表情を見せる店員。
俺は彼に、見ていればわかりますよと言い、店の外へ出た。
「『飛翔』、『思念駆動』」
俺は巻いてある絨毯に二つの効果を付与した。
一つは空を飛ぶための『飛翔』、そしてもう一つの『思念駆動』は、念じるだけで物を動かしたりできる。
二つを合わせれば――
「よいしょっと」
こうして絨毯に乗ったまま、空を自由に飛び回れる。
「なっ……ぬ、布が浮いてる?」
「これで移動が楽になりました。ありがとうございます」
「い、いやいや! あんた何者なんだ?」
「ただの冒険者ですよ。それじゃ」
俺はお辞儀をして、彼の元から飛び立つ。
空飛ぶ絨毯に乗って、俺は王都の街並みを見下ろす。
田舎の村から冒険者を目指して王都へやってきのが二年前。
「二年も経ってたのか……」
お世話になった街だ。
出来ればこんな形で去りたくはなかったけど、二度と戻ってくることもないだろう。
少なくとも彼らがいるうちは、戻りたくても気が引ける。
「さようなら」
俺は一言だけ口にして、王都を出発した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「さて、どこへ行こうかな」
空飛ぶ絨毯の上、俺は世界地図を広げる。
王都を出発して一時間弱。
俺は今、王都の南方にある広大な森の上を飛んでいる。
ほとんど勢いで飛び出したからな。
行先もまだ決まっていない。
どこか行きたい場所があるのかと問われれば……
「特にないんだよな」
行く当てもない。
生まれ育った小さな村に帰っても、今さら俺の居場所なんてないだろうし、そもそも冒険者の依頼すらこない。
今後も冒険者を続けるなら、王都と同じくらい大きな街を拠点にすべきだろう。
ならばいっそ、このクラレス王国を出て、別の国に行くというのも悪くない。
「このまま南へ進むか」
一先ず進路だけ決め、ひたすら南へ向かうことに。
そして三時間後。
すっかり日も暮れ、月明かりが綺麗な夜になった。
「ぅ……さすがに夜は寒いな」
空の旅を堪能していた俺だったけど、夜になると一気に気温が下がる。
特に上空は地上よりも寒い。
身体を震わせながら、降りられる地点を探そうと下を覗き込んだ。
そこで――
チカッ、ドカーン!
一瞬の光の後に爆発音が聞こえた。
「今のは魔法か?」
自然現象ではなさそうだ。
高度を下げて目を凝らすと、誰かが戦っているのが見える。
あれは……王国の騎士?
街道に馬車が一台停まっている。
暗くてハッキリとは見えないけど、装飾もされていて相当豪華な馬車だ。
きっと位の高い貴族が乗っているに違いない。
「襲われてるのか? 相手は……アンデッド?」
さらに高度を下げ、今度はハッキリと見えた。
大量のゾンビが馬車を取り囲んでいる。
騎士たちが奮闘しているが、ゾンビに斬撃は通じない。
どうやら魔法使いも不在で、炎で焼き払うことも出来ないようだ。
ジリジリと間合いを詰められている。
「このままじゃ……」
俺は咄嗟にカバンの中身を漁る。
支援に役立つからと携帯していた変形弓と矢。
弓には『連射』と『射程距離増加』が付与されている。
「『不死殺し』、『自動追尾』」
矢のほうには対アンデッド用の付与を施した。
この矢を連射で降らせれば、ゾンビの群れを一掃できる。
「間に合ってくれ」
俺は空飛ぶ絨毯から、弓を構える。
「我々が盾になる! 姫様だけでも逃がすんだ!」
「いけません皆さん! 命を捨てるようなことは――」
「いくぞ!」
騎士たちが意を決して突破を試みる。
そこへ降り注ぐ無数の矢。
「な、何だ?」
「空から?」
誰もが夜空を見上げる。
星空の中に一人の影を見つけて、全員が唖然とする。
「大丈夫ですか?」
「い、今のは……」
俺が空から降り立つと、馬車から水色髪をした綺麗な女性が降りてきた。
慌てた様子で俺の元に駆け寄り、質問をしてくる。
「今のは一体なんですか? どうやってアンデッドを倒したのですか?」
「え?」
突然のことに困惑して、すぐには答えられなかった。
ただ、彼女の瞳から切羽詰まる思いを感じ取り、俺は答える。
「えっと、俺は付与術師なんです。『不死殺し』を付与した矢を使ったので、アンデッドも倒せます」
「付与術師……そ、その力があればリッチーも浄化できますか?」
「リッチー? ええ、出来ますけど」
「……」
俺がそう答えると、彼女は考え込むように口を閉ざす。
しばらく沈黙が続いた。
「あの……お名前を教えて頂けませんか?」
「エイトです」
「エイト様、助けて頂き感謝いたします。私はクラレス王国第一王女、フェリア・クラインベルトと申します」
「だ、第一王女?」
お姫様だったのか。
「エイト様、助けられた身でありながら無礼を承知でお願いがございます」
「え、お、お願いですか?」
「はい。どうか……そのお力を、お貸し頂けないでしょうか?」
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