18.勇者参上!
「そうですか。ちゃんとお話できて良かったです」
「こちらこそありがとうございます。俺の我儘を聞いてもらって」
「いいえ。私たちを救ってくれたエイトは英雄ですから」
「英雄ってそんな、大げさですよ」
「大げさではありませんよ。魔王軍の幹部を討伐するなんて、勇者様以外で初めての功績ですから」
姫様はニコリと微笑み俺を褒めてくれた。
褒められることが増えていく日々に戸惑いながらも、嬉しさが勝って表情が綻ぶ。
「ところで、これが戦いのときに使っていた剣ですか?」
「え? あ、はい。そうですよ」
俺と姫様がいるのは、騎士団隊舎に隣接する武器庫の前だ。
武器の手入れと確認をしているところに姫様がやってきて、こうして話をしている。
目の前にはアービスを倒したときに使った剣が並んでいた。
「騎士の方々の話では、剣を魔法のように操っていたと聞きましたが」
「魔法のようにですか。まぁ間違いじゃないですけどね」
付与術も魔力を使うし、広義でみれば魔法の一種ではある。
「この剣には『飛翔』と『思念駆動』が付与されています」
そう説明しながら、実際に剣を操って見せる。
宙を舞う剣を見て、姫様は感心していた。
「剣が自在に宙を……好きなように動かせるのですね。これが思念駆動」
「はい。かなり便利ではあります。ただ、あくまで動かしているのは俺の頭なので、一本や二本ならともかく、複数になると単調な動きしか出来ません」
千本も動かしたときは、頭が焼き切れるかと思ったよ。
「それに付与した本人にしか操れないので、結局は俺専用の飛び道具になりますから、騎士団の皆さんにはあまり役立てませんね」
「それでも十分に凄いと思いますが……実際どの程度なら動かせるのですか?」
「えっと、そうですね」
興味津々な姫様のために、ちょっと頑張って剣を動かしてみる。
俺が細かく制御できるのは、四本くらいが限界なのだが、今は見栄を張って八本動かしている。
そんな俺を、城門の上から見下ろす人物が一人。
「あれは……姫様危ない!」
「え? ちょっ――」
動かすことに集中していた俺は、突然目の前に現れた誰かに驚いて、大きく後ろへ飛び避けた。
「今の声は……アレクシア?」
アレクシア?
どこかで聞いたことのある名前だけど……
「お怪我はありませんか? 姫様」
「やっぱりアレクシアなのですね? でもどうしてここに?」
「魔王軍の幹部が城を襲撃するつもりだって聞いて、急いで戻ってきました! 間一髪でしたね!」
魔王軍の幹部?
アービスのことだろうか。
というより、今の会話から察するに……この人はまさか勇者様?
「ボクが来たからにはもう安心です!」
「い、いえ待ってください。アレクシア、貴女は勘違いを――」
「さぁ卑怯な悪魔め! ボクの聖剣エクセリオンの錆にしてあげるよ!」
やっぱり勇者様か。
神々しい剣は噂の聖剣エクセリオンだった。
いやちょっ、ちょっと待って?
どうして戦う流れなんだ?
まさか勇者様……俺がアービスだと勘違いしてるとか?
そんな馬鹿なことあるか?
「覚悟しろ! 悪憑魔アービス!」
「ホントに勘違いしてる!」
「待ちなさい! 勇者アレクシア!」
「っ! ひ、姫様?」
姫様がビックリするほど大きな声で叫び、驚いた勇者様がビクッと反応して止まった。
俺もかなり驚いた。
姫様にあんな声が出せるのかと。
「落ちいてください。あの方は悪魔ではありません」
「へ?」
「よく見てください。王宮付きの印が見えるでしょう?」
「……あ」
勇者様が俺のほうをじーっと見つめ、胸についた紋章に気付いたようだ。
「わかりましたか? わかったらちゃんと謝ってくださいね」
「うぅ……ご、ごめんなさい」
「私にではなく彼に謝ってください」
「ご、ごめんなさい! あ、焦ってたから悪魔と勘違いして……良く見たら全然悪いオーラも出てないね」
「それはまぁ……人間ですからね」
「そ、そうだね……本当にごめんなさい。えっと……」
「ああ。俺はエイト、宮廷付与術師です」
「エイトさん、いきなり襲い掛かってごめんなさい」
勇者様はペコペコ頭を下げる。
申し訳なさそうにションボリした表情を見せながら。
「良いですよ。別に怪我はしなかったですし、姫様を守ろうとしてくださったんですよね?」
「う、うん」
「だったら怒れませんよ」
「……」
俺がそう答えると、勇者様は珍しいものを見つけたような顔で俺を見つめていた。
すると姫様が横から言う。
「エイトは優しいですね。では私から代わりに注意します。アレクシア」
「は、はい!」
「心配して駆けつけてくれたのは嬉しいですが、もう少し冷静に、まず他人の話を聞くようにしましょうね」
「はい……ごめんなさい」
勇者様、親に怒られている子供みたいだ。
燃えるような赤い髪は長く、透き通るような肌の女の子。
そう、勇者様は女の子だったんだ。
イメージしてたガタイの良い男とは正反対の、どこにでもいるような普通の女の子だったことが、一番の驚きだった。