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17.ちゃんと謝れたんだね

 幸福な夢を見る。

 フカフカの布団に包まって、暖かくて心地良い。

 ずっと、このまま眠っていたいと思うけど、眠りはいつか覚めてしまう。

 訪れるのは憂鬱な朝か?

 いいや、最近はそうでもないな。


「ぅ……」

「気が付きましたか?」


 目を開けると、見慣れない天井があった。

 知っている天井ではある。

 王城の中にある、俺の部屋ではないというだけだ。


「姫様?」

「心配しましたよ。急に倒れてしまわれて」

「すみません」


 戦いが終わった後、俺は意識を失ったようだ。

 姫様と話してからの記憶がない。


「お医者さんには、魔力の使い過ぎと言われました。休めば回復するだろうとも。どうですか? お体の調子は」


 俺は手をグーパーさせ、力が入るか確認した。

 魔力も随分回復しているようだ。


「問題ないと思います」

「そうですか。良かったです」

「あの……どれくらい寝ていたんですか?」

「ほんの一日ですよ」


 一日も寝ていたのか。

 まさかと思うけど、その間ずっと姫様が見ていてくれた……なんてことはないか。


「あれからどうなったんですか?」

「怪我人なら無事助かりましたよ。エイトが早く決着をつけてくれたお陰で、治療が間に合いましたので」

「そうですか」


 俺はホッとする。

 カインに刺されてしまった騎士も、無事に一命は取り留めたらしい。

 魔王軍の幹部に攻め込まれて怪我人だけで済んだ。

 まさしく奇跡だっただろう。


「奇跡ではありません。エイトが掴んだ確かな勝利です」

「勝利……俺、勝ったんですよね」


 魔王軍の幹部アービスに、俺が勝利したんだ。

 この手に掴んだ勝利だというのに、あまり実感がわかない。

 まだ夢を見ているみたいにフワフワしている。


「そうだ! カインはどうなったんですか?」

「彼はまだ眠っています。命に別状はありませんが、身体を乗っ取られていた負荷は大きかったようですね。しばらくすれば目を覚ますでしょう」

「そうですか。で、その……どうなるんですか?」

「彼の処遇については検討中です。ただ、乗っ取られていたとは言え、王城に侵入してしまったという事実は……」


 姫様の口ぶりからして、重い処罰が下される可能性がありそうだ。

 まぁハッキリ言って、カインの自業自得ではある。

 アービスは強力な負の感情を抱いた者にとりつくそうだ。

 それだけの悪意……憎悪を抱いたカインにも非はあると思う。


「……あの、姫様。お願いがあります」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 翌日。

 身体もすっかり回復して、俺は宮廷付与術師としての仕事に戻っていた。

 アービスを倒すために使った剣の回収がまだ終わってないらしい。

 千本もばら撒いたことは申し訳なく思う。

 何本かは駄目になってしまったので、新調して付与し直さないと。


「エイト」

「ん?」


 作業中、後ろから声をかけられた。


「カイン」


 声の主はカインだった。

 身体を乗っ取られていた時の負荷で、まだ眠っていると聞いていたけど。


「もう起きて大丈夫なのか?」

「あ、ああ……身体は問題ない」

「そう」

「……エイト」


 カインは言葉を詰まらせた。

 そして突然――


「すまなかった!」


 膝をつき、地面に頭を伏せ、謝罪の言葉を口にした。


「カイン?」


 カインが謝った。

 しかも土下座までして?


「乗っ取られていた時の話を聞いた。お前が助けてくれたことも……オレの処分が保留になったのも、お前が姫様にお願いしてくれたからなんだろ?」

「まぁ、そうだけど」


 目覚めたその日に、俺は姫様にお願いをした。

 カインに猶予をあげてほしい。

 操られていたとは言え、王城へ攻め入った罪は確かなものだ。

 彼自身にも非はある。

 それでも彼は、誰も殺していないから……と。


「お前が庇ってくれなかったら、最悪オレは死刑だったかもしれない。アービスに乗っ取られたのはオレの心の弱さが原因だった。お前に劣っていると……認めたくなかった。勝手に怒って、勝手に恨んで……」

「カイン」

「本当にすまなかった」

「カインって、ちゃんと謝れたんだね」


 カインの謝罪を聞いて、俺は正直な感想を口にしていた。

 そんな反応をされるとは思わなかったのだろう。

 カインは拍子抜けしたような表情で、俺のほうを見上げる。


「いや、だってさ? カインが他人に頭を下げてる所なんて初めて見たから」

「そうだな……」

「気にしなくて良いよ。操られている間、カインは誰も殺していない。それは事実だからさ。でも傷つけた人たちにはちゃんと謝ってよ」

「ああ。もう謝ってきたよ。不思議と誰も怒っていなかった。今のお前と同じように、気にしなくて良いと言ってくれた」

「そうだろうね」


 騎士団の人たちはみんな優しい。

 恨みや憎しみで、他人を責めたりはしない人たちだ。


「みんなが気にしなくて良いと言ってるなら、それでいいんじゃないの?」

「そうはいかない。オレがしたことは……罪だ」

「そう。そう思うなら、今後は気を付けることだね」


 俺はカインに背を向ける。


「カイン。俺は……パーティーを追い出されたことを、今までかけられた言葉を、たぶん忘れないと思う」

「……」

「だけど、俺は俺で……新しい居場所を見つけられたから、今はそれで良いと思っているんだ」


 過去は消えないし、忘れられるほど短い時間でもなかった。

 決して、幸福な時間だったとも思えない。

 

「俺もここで頑張るからさ。カインたちも頑張ってよ。いつか、昔は一緒に冒険してたんだって、そう自慢できるくらいの大物パーティーになってくれたら、俺は嬉しいかな」

「エイト……」


 これが今の俺に言える全て。

 今まで通りには戻れないけど、俺たちは人間同士だから、敵じゃないんだよ。


「ありがとう」


 謝罪の言葉の次は、感謝の言葉か。

 これも……彼の口から聞いたのは初めてかもしれない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょっと違和感が拭えない程、180度変わりすぎな気がする 溺愛してたのがふられてストーカー殺人になったりすることもあるし、 人間てそんなものなのかな
[一言] カインは侵入したんじゃなくて知り合いだからってことで騎士が連れてきてたんじゃ?
[良い点] に [気になる点] な [一言] な
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