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16.付与術師の本気

 カインの装備には、俺が最後に付与した効果が残っていた。

 『状態異常耐性』と『嗅覚鈍化』。

 それを付与したのが俺だと、アービスが気付いていなくて助かった。

 対策されていなかったお陰で、カインの身体から追い出すことが出来たぞ。


「ここからだな」


 依代をなくせば戦えなくなるのかと期待した。

 どうやらそんな期待は、しないほうが良かったらしい。

 カインの身体から離れた後のほうが、圧と凄みが増しているように見える。


「ワシを肉体から引きはがした程度でいい気になるなよ! こやつの身体など、忌々しい結界を抜けるために利用したに過ぎない! 結界の中に入りこめた時点で、ワシの計画はほぼ完成してる!」


 アービスの炎が膨れ上がる。

 燃え盛る炎に実体はなく、物理攻撃は通じない。

 それこそ聖剣でもなければ、邪悪な力の塊であるアービスは倒せない。

 と、俺も最初は思っていた。


「さっきの付与が効いて良かった。これで勝機が見えてきたよ」

「勝機? 勝機だと? まさかとは思うが、聖属性を付与した武器なら、ワシを倒せるとでも思っているのか?」


 アービスは豪快に笑いながら答える。


「残念だったな人間! 効果はあっても、あの程度の力ではワシを倒すことはできん! このまま城ごと取り込んでやろう!」

「そうだろうね。一つや二つなら」

「何だと?」

「王城で働くようになってから色々試した。時間もたっぷりあったんだ。まさか、何の備えもしてないと思ったか?」


 聖属性が通じるとわかれば、打てる手はあるんだよ。


「『拡声』」


 俺は自分自身に付与を施した。

 『拡声』によって、俺の声は何十倍にも増幅される。

 騎士団隊舎まで距離があるからな。

 この状態で叫べば届いてくれるだろう。

 俺は大きく息を吸い、思いっきり吐き出しながら叫ぶ。


「騎士団隊舎の武器庫を開けてください! 大至急!」


 俺の声による振動で、周囲がわずかにピリつく。

 判別は出来ないけど、届いてくれたと信じてやるだけだ。


「何の真似だ?」

「開けたら扉から離れてください! 今から剣を取り出します!」

「剣?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 騎士団隊舎には、鎧や剣などを保管する武器庫が併設されている。

 予備も合わせれば、剣だけで一万本が保管できるほど大きな武器庫だ。

 

「今の声はエイト殿?」

「さっき爆音が聞こえた! エイト殿が戦っているんだ!」

「扉を開けるぞ!」


 騎士団隊舎付近にいた騎士数名に、エイトの声は届いていた。

 瞬時に意図を察し、重く硬い扉を開ける。

 完全に開けきる前に、エイトの扉の前から退くようにという指示が聞こえた。


「い、急げ!」

「おう!」


 武器庫の扉が開く。

 すると、中からガタガタと金属音が鳴り響く。

 武器庫の中には誰もいない。

 しかし、金属音は激しさを増し、次の瞬間――


「け、剣が飛んでいる!」


 無数の剣が宙を舞い、武器庫の扉を潜っていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「そろそろ来るぞ」

「何を言って――」


 俺は人差し指を立て、空にかざす。

 視線誘導の先には、無数の剣が宙を舞う。


「何だこれは?」

「『飛翔』と『思念駆動』」

「何?」

「剣に付与されている効果のことだよ。宮廷付きになってから暇だったからね。色々試したし、色々準備したんだ」


 そのうちの一つ。

 騎士団隊舎の武器庫に保管されている武器の中には、ほとんど使われてない剣や鎧があった。

 予備の予備や、そのさらに予備として用意されていたものだ。

 どうせあまり使っていないのならと、有事の際は俺の武器となるように付与をしておいた。

 この組み合わせは、空飛ぶ絨毯の時に使ったものだ。


「数は全部で約千本。これが俺の武器だ」

「なるほど。だが所詮はただの剣、ワシには効かん」

「忘れたのか? さっきどうやって、カインの服に付与したのか」


 施されている付与は二つ。

 効果が永久に持続する限界個数。

 ただし三つ目も、限られた時間であれば効果を発揮する。

 そして、『拡声』によって増幅された声量があれば――


「『聖属性』!」


 全ての剣に聖属性を付与できる。


「なっ……」

「これだけあればお前を倒すには十分だろ!」

「させるか!」


 アービスは咄嗟に離脱を試みる。


「もう遅い!」


 それよりも一瞬早く、聖なる千本の刃が降り注ぐ。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

「聖剣がなくてもお前は倒せるんだよ」

「ふざけるな、ふざけるなふざけるなぁ! こんなことがあああああああああああああ」


 悲痛な叫びが王城に響き渡る。

 聖属性が付与された剣が地面に突き刺さり、アービスの炎を消していく。

 大きく燃え上がって的を大きくしていたことも仇となったな。

 千本全ての剣が地に突き刺さった時、アービスの悪しき炎は完全に消滅していた。


「ふぅ……何とかなったな」

「エイト!」


 後ろから声が聞こえた。

 姫様の声だ。


「姫様」

「大丈夫ですか? 魔王軍の幹部が現れたと聞いて」

「ええ、でも倒しましたよ」

「本当ですか? エイトが?」

「はい」


 俺がそう答えると、姫様がホッとしたように笑顔を見せる。

 その笑顔を見た途端に俺も気が抜けたのだろう。

 膝から崩れ落ちて、片膝をつく。


「エイト!?」

「大丈夫です。さすがに千本一気に操るのは魔力が……。それより怪我人がいます。手当てを優先してください」


 その言葉を最後に、俺は意識を失った。


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[良い点] こんな事もあろうかと準備してた、ってワンマンアーミーできる規模なんですけどw [気になる点] 単騎で大ボス立て続けに倒しちゃってるんですが。 弱点属性を付けられる連続攻撃持ちってどこからど…
[良い点] 騎士達の主人公に対する信頼度が馬鹿高くなってる [一言] リッチ戦もあったので今更だが、 パーティの補助役と言うより、一人でも無双してるよね ソロで冒険者やってた方が経験値も金も効率良かっ…
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