13.勇者ってどんな人ですか?
「エイト殿」
「何です?」
「その、よろしかったのですか? 何だかあまり良い雰囲気ではありませんでしたが……」
雑貨屋からの帰り道、護衛に同行してくれた騎士が、申し訳なさそうに尋ねてきた。
声をかけるタイミングが悪かったのかと心配しているようだ。
「気にしないで下さい。彼らとはまぁ、いろいろあって仲があまり良くないんですよ」
「そうなのですか」
「はい。むしろ声をかけてもらって助かりました。あのままだと、いっそ喧嘩になりそうでしたから」
「エイト殿が喧嘩をしている姿など、私には想像できませんね」
「そうですか?」
「はい。エイト殿は普段から落ち着いていらっしゃるので。怒ってる所を見たことがない。きっと心の広い方なのだろうと、仲間たちも話していますよ」
騎士の間ではそんな風に思われているのか。
姫様や団長の前だと緊張して、失礼のないよう意識的に表情を作っているだけなんだけどな。
「買い被りですよ。俺だって……怒ることくらいあります。ただ城での生活は楽しいので、怒る暇もないだけです」
「なるほど。姫様が聞いたらお喜びになられますよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
城に戻った俺は、購入した道具をテーブルの上に並べた。
金属で出来たアクセサリー類が多い。
今までは武器や防具、道具に付与をして、相手に合わせて書き換えたりもしていた。
だけど騎士団員は多い。
全員分を毎回書き換えたりするのは手間だから、色々と工夫を考えている。
例えば剣には予備があるので、あらかじめ使えそうな付与を施しておいたり。
リッチー戦で付与した『嗅覚鈍化』とかは、別に鎧へ付与しなくても、アクセサリー類に付与して身につければ効果を発揮できる。
どの効果が有効なのかは、今から調べないといけないけど。
「もはや魔道具の域ですね」
「ですね~ って姫様?」
「はい」
「い、いつからそこにいたんですか?」
「少し前からです。ノックしたのに気づいてもらえなかったので、入ってきちゃいました」
ノックしてくれていたのか。
全然気づかなかったし、急に隣から声が聞こえて焦ったよ。
「随分集中されていましたね」
「ええ、まぁ」
「新しい付与を考えていたのですか?」
「はい」
「……何かありましたか?」
「え?」
姫様と視線が合う。
心配そうな表情をされていた。
「何だか元気がありませんね」
「……そう見えますか?」
「はい」
凄いな。
姫様にはわかってしまうのか。
普段通りに対応したつもりだったんだけど。
「実はさっき街へ出たんですが、そこでその……俺を追い出したパーティーメンバーに会ってしまって」
「そうだったのですね。まさか何か言われたのですか?」
「まぁ……はい」
この際だから、正直に話してしまうことにした。
姫様には俺が追い出された経緯も話したし、隠す必要もないだろう。
「という感じで」
「……無責任ですね」
「ええ、俺もそう思いましたよ」
腹も立ったし、悲しくもあった。
俺が抜けたことがパーティーに影響しているのなら、今まで俺が頑張っていたことの証明でもあるはずなんだ。
少しくらい、認めてくれても良いじゃないか。
あんなの……俺を道具か何かだと思っているみたいだ。
「私は、助けてくれたのがエイトで良かったと思っていますよ」
「姫様?」
そんな俺に、姫様は優しい言葉をかけてくれる。
「エイトの力がではなくて、エイトだから良かったと思えます。きっと、あなたに助けられた人は、皆そう思っているはずです」
「そう……ですかね」
「はい」
そうだと良いな。
姫様の励ましは、俺の心を落ち着かせてくれた。
「暗い話になってしまいましたね。今から良いお話をしましょう」
「良い話? 何かあったんですか?」
「はい。先ほど勇者パーティーの皆様から、お手紙が届きました」
「勇者から」
確か、魔王と討伐の旅に出ているという。
聖剣に選ばれた勇者と、国を代表する戦士たちのパーティー。
冒険者の間でも、その活躍を耳にする機会が多かった。
「何て書いてあったんですか?」
「はい。なんと先日、魔王軍の幹部を倒したそうですよ」
「幹部をですか。それはすごい功績ですね!」
「はい。お陰で侵略を受けていた街を取り戻すことも出来たと」
さすが勇者一行。
魔王軍には強大な力を持つ八人の幹部がいるという。
すでに一人は倒されたと聞いていたが、これで二人目か。
「あの、勇者様ってどんな方なんですか?」
「面白い人ですよ。いつもニコニコしていて、困っている人がいたら放っておけない。そういう所はエイトに似ていますね」
「そ、そうですか?」
俺ってそんな性格だったかな?
しかし面白い人か。
どんな風に面白いのか、ちょっと見てみたい気もする。
「いつか会ってみたいですね」
「それはぜひ! きっと仲良くなれると思いますよ」
「だと嬉しいです」
人々の希望を背負って戦う勇者。
どんな人なのか。
きっと、俺が想像できないような偉大な人なのだろうな。