12.付与してほしいなら国へどうぞ
最悪だ。
一目見て、初めに浮かんだ感想がそれだった。
気になっていたのは事実だよ。
仮にも二年間、一緒にパーティーを組んでいた仲間だったんだ。
リッチー討伐に失敗したと聞いた時も、内心でも殺されてしまったんじゃないかと心配した。
倒したアンデッドの中に姿がなかったから、ちゃんと生き延びれたんだと安心もしたよ。
でも、それだけなんだ。
別にまた会いたいとは思っていなかった。
むしろ……会いたくなかったよ。
「……」
だって、何を話せばいいんだ?
俺はわからなくて、互いに顔を合わせたまま、しばらく固まっていた。
向こうも偶然出会ってしまっただけなのだろうか。
こんな時間に王都にいるのは珍しい。
普段なら、依頼で外に出ている頃だというのに。
「ひ、久しぶりだね」
沈黙に耐えられなくて、俺は口を開いていた。
すると、シークが一番最初に反応する。
「ああ、久しぶりだな」
「元気そうだね」
「何だか少し……雰囲気も変わりましたね」
リサとライラも続けて話しかけてきた。
ライラのいう雰囲気とは、きっと俺の服装のことだろう。
外出時でもわかる人にはわかるように、姫様から貰った制服を着ている。
真っ白でよく目立つから、道中はいろんな人にチラ見されたよ。
「こ、こんな所で会うなんて奇遇だね? 依頼はいいの?」
「あ、ああ、今日はオフなんだ」
またシークが答えてくれた。
どういうわけか、カインは一向にしゃべらない。
ただじっと俺のことを睨むように見つめているだけで、正直かなり怖い。
目を合わせたら襲われそうな気さえして、俺は意識的に視線を逸らす。
「お、お前こそどうしているんだ? 宿屋は引き払ったと聞いたぞ」
「え、あーうん」
宿屋に寄ったのか?
つまりそれって、俺を探していたということなのだろうか?
どうして今さら……
と、疑問に感じたとき、黙っていたカインが口を開く。
「おい、エイト」
「は、はい」
高圧的な口調に緊張して、思わず背筋をピンと伸ばす。
パーティーを組んでいた頃を思い出して、少し嫌な気分になった。
そして、次のセリフを聞いて、もっと嫌な気分にさせられる。
「戻って来いよ。今なら許してやる」
「……え?」
思わぬ提案を聞いて、俺は呆気にとられる。
戻って来い?
いや、それはまだ良いとして、問題はその後のセリフだ。
許してやるって何だよ。
「どうせ一人じゃ何もできなくて困ってるんだろ? 仕方ねぇーから、またお前をパーティーに入れてやるよ」
圧倒的な上から目線。
その態度は以前と何ら変わらない。
俺のことを見下して、利用しようと考えている目だ。
「感謝しろよ」
「……」
感謝?
何に感謝をしろっていうんだ?
「おら、さっさと返事をしろよ」
一度は追放しておいて、今さら戻って来い?
それも何だよ。
せめてもっと言い方はあるだろう。
追い出したことを全く悪いと思っていないって丸わかりじゃないか。
そうか。
だったら、俺の答えはこうだ。
「……申し訳ないけど、戻るつもりはないよ」
「は?」
「聞こえなかったの? 戻らないって言ったんだ」
「てめぇ……嘗めてるのか」
「こっちのセリフだよ。いい加減、この格好を見て気付かないかな?」
俺はわかりやすいように、カインに向って胸の紋章を見せる。
王都に住んでいれば、誰もが見たことのある王家の紋章。
それを見たカインは、ハッと驚く。
「そ、それは……王家の?」
「そう。今の俺は宮廷付きの付与術師なんだ」
「宮廷付き……だと?」
「信じられないって顔だね。まぁ無理もないけどさ」
あれだけ見下していたんだから。
「リッチー討伐、失敗したんだってね?」
カインを含む全員が、ビクリと反応する。
「あれは王国からの依頼だった。俺には黙っていたみたいだけど……安心してよ。リッチーは代わりに俺が倒しておいたから。お陰で楽に宮廷付与術師になれたよ」
「な、お前が? 嘘にきまってるだろ!」
「そう思うのは勝手だ。だけど間違えないでね? 俺は別に、パーティーへ戻りたいなんて微塵も思っていない。むしろ戻ってきてほしいのはそっちだろ? 知ってるよ? リッチー討伐以降も、依頼に失敗し続けてるって」
実はこの店に入る前、別の用事でギルド会館を訪ねた。
知り合いばかりでヒヤヒヤしたけど、運よくカインたちはいなくて安心したらこれだ。
その時、カインたちのよくない噂もたくさん耳にしたから知っている。
「次の依頼に失敗したらBランク降格なんだよね? 後がなくなったから、俺に頼るつもりで探していたんじゃないのかな?」
「っ、うぬぼれんなよ。誰がてめぇなんかを頼るか」
「そう」
だったら尚更、俺の答えは変わらない。
必要ないと言われてまで、助けたいとは思わない。
空気がピリつく。
カインは俺を睨むように見ていて、他の三人は戸惑っている様子だ。
「エイト殿、必要な物は揃いましたか?」
そこへ騎士が一人やってくる。
今日は付与術用の道具を買いに来たのだが、一人で来たわけではなかった。
いや、最初は一人で行こうとしたのだけど、護衛として一人騎士が同行することになった。
「む? この方々は?」
「冒険者時代の知り合いです。もう話も終わりましたし戻りましょう」
「そうですか、わかりました」
騎士は礼儀正しく、彼らにも一礼する。
「あーそうだ。もしも付与してほしいなら、俺じゃなくて国に直接申請してね? 一応これでも城の人間だから、勝手は出来ないんだよ」
「……」
返事はない。
ただ俺を睨み続けている。
「それじゃ」
もう、今度こそ会うことはない。
会ったとしても、話すことなんてない。
たった数分で、何も変わっていないとわかったから。
今度こそ、さようなら。