11.久しぶりですね【追放側視点】
ルミナスエイジBランク降格間近。
その噂は瞬く間に冒険者同士の間で広まっていた。
ついにここまで来たか。
やっぱり実力なんてなかったんだな。
心無い声が聞こえる中、本人たちは今も隠れるように生活していた。
宿屋の一室で明かりを一つ。
薄暗い部屋で集まり、部屋の暗さよりも一層暗い空気が漂う。
そんな中――
「なぁ……提案があるんだが、聞いてくれるか?」
槍使いのシークが、改まって口を開いた。
おそらくこの時点で、カイン以外の二人はシークが何を提案しようと考えたのか察しただろう。
一人だけわかっていないカインが聞く。
「何だよ?」
「……あいつを呼び戻さないか?」
「……あいつ? あいつって誰だよ」
「わかるだろ。エイトだ」
その名前を口にした瞬間、カインは額に血管が浮き出る程に表情をしかめた。
「ふざけてるのか?」
「そう思うか? この状況で、ふざけられるわけがないだろう?」
「ふざけてねぇなら嘗めてるのかよ」
「嘗めてるのはお前だよカイン!」
今度はシークが大きな声で怒鳴るようにそう言った。
普段から物腰穏やかで、あまり怒ったり声を荒げることがないシークだったが、この時ばかりは違ったようだ。
「いいかげん理解しろよ。我々はもう後がないんだ! 次に指定される依頼を失敗すればBランクに降格する。そうなれば今までしてきた苦労が水の泡だぞ!」
「くっ……」
「本当は……俺だって一度追い出した奴を頼りたくはない。だけど……」
そう、彼らは気づき始めていた。
自分たちの失敗の原因が、どこにあったのか。
今までの成功の影には、必要ないと切り捨てた付与術師の尽力があったのだと。
シークや他の二人はもちろん、冷静さを失っていたカインですら、少しずつ考えるようになっていた。
それでも口にしなかったのは、単なる意地だろう。
しかし、ギリギリまで追い込まれ、後がなくなったことで、誰かが言いださなくてはならなくなった。
シークが言いださなければ、他の二人が提案していたかもしれない。
「ならどうするんだよ。頭でも下げるのか? やっぱりお前が必要でした。謝るので許してくださいって?」
「そこまでする必要はないだろう。向こうも追い出され一人、途方に暮れているに違いない。遺恨は残るが、我々の誘いを断りはしないだろう」
「……」
だとしても、一度捨てた人間を頼るのはプライドが許さない。
そう言いたげな表情を見せるカインを、シークたちは何とか説得した。
駄々をこねる子供をあやす様に。
「……わかった」
カインからその一言を聞けた三人は、心の中でホッとする。
「ならさっそくあいつを探そう。まだ王都にはいるだろうからな」
「宿屋に行ってみるってのはどう?」
「そうですね。案外ふてくされて、ずっと宿屋に引き籠っているかもしれません」
「そうだな。カインもそれで構わないか?」
「……ああ」
話がまとまり、彼らは揃って宿屋を後にする。
彼ら四人は同じ宿屋を利用していた。
ギルド会館からも近く、周りには飲食店が豊富にあり、快適に過ごせるいい宿だ。
対してエイトが泊まっていたのは、格安で泊まれる街はずれの小さな宿屋。
依頼の報酬は分配されているものの、当時からエイトに配られる報酬は少なくしていた。
出来高制とか適当なことを言って、自分たちへの分配を多くしていたのだ。
エイトはそれに気づいていたが、最前線で戦う彼らのほうが危険な目に合うのだからと、文句も言わず受け入れていた。
宿屋へ向かう道中、そのことを今さら後ろめたく思い始める面々。
「エイト君? 彼なら数日前に出て行ったわよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ。今までお世話になりましたって。丁寧に挨拶してね」
「ど、どこに行くとかは聞いていませんか?」
シークが尋ねるが、宿屋のおかみさんは首を横に振る。
「申し訳ないけど詳しくは知らないよ。何だか寂しそうだったね~」
「そ、そうですか……ありがとうございます」
彼らは宿屋を後にした。
エイトはもう、この街にはいない。
その事実を知り、今度は彼らが途方に暮れる。
「い、いや、まだこの街にはいるかもしれない」
「そうね! 宿屋を替えただけかも!」
「他も探してみましょう」
一抹の希望を頼りに、彼らは王都の街をぐるっと回った。
ギルド会館から離れた宿屋を一軒ずつ巡り、エイトの影がないか確かめる。
もちろん、彼はそこにいるはずもなく、無駄足を踏むだけだった。
次第に口数も減り、どんよりとした空気が漂う中、一軒の雑貨屋に立ち寄る。
エイトがよく、素材の買い出しで訪れていたという店だ。
宿を引き払ったのにいるはずもないだろうと、完全に諦めかけた時――
「すみません。この瓶とランプってまだありますか?」
聞き覚えのある声に、全員が一斉に振り向く。
そこには、白い服に身を包んだエイトが立っていた。
「ん? あ……」
熱い視線に気づいたエイトが、彼らの存在を視認する。
途端、微妙な表情を見せるのだった。