第二巻発売記念SS
本日第二巻発売です!
それを記念した特別SSになります。
虚ろに見える誰かの姿。
ここはどこで、今は何時だろうか?
俺にはわからない。
わかるのは、柔らかくて温かい感覚が両腕を掴んでいること。
「エイト君」
「アレクシア?」
右腕に抱き着いているのはアレクシアだった。
なぜか裸で。
「エイト」
「レナ?」
左腕にも一人抱き着いている。
レナもなぜか裸で、うっとりとした顔をこちらに向けている。
「え、え?」
どういう状況だ?
頭の中は混乱して、変な汗が流れ出る。
裸の二人がどうして一緒にいるのか。
一人ならまだわかる。
二人を相手にした記憶なんてないはずなのに……
と思っていたらもう一人。
俺の足元から這い寄り、さわっと胸を撫でる彼女は予想外。
「ひ、姫様!?」
この時点でさすがに気づいた。
三人が裸で迫っているなんて状況はあり得ない。
つまり、これは夢なのだと。
我ながらなんて罪深い夢を見ているんだ。
「エイト」
姫様の顔が目の前に。
笑っているわけでもなく、怒っているわけでもない。
真剣な眼差しを向け、俺に尋ねてくる。
「心は決まりましたか?」
「え……」
「私たちの中で、誰を選ぶのか」
「それは――」
◇◇◇
ずしっと身体が重たい。
さっきまでと違うリアルな重量感に目を覚ます。
布団も数枚重なれば重い物だ。
「やっぱり夢だったか」
「どんな夢を見ておったのじゃ?」
「酷い夢だよ。なぁ俺が全部悪い……ってルリアナ!?」
「む? 今さら何を驚くのじゃ」
独り言のつもりで話していたら会話が成立していたことに?
なぜかルリアナが俺の部屋にいた。
とりあえず裸じゃないし、夢の続きではないとわかってホッとする。
「随分お寝坊じゃったからのう。妾が起こしにきてやったのじゃ」
「そうだったのか」
「うむ。それにしてもうなされておったのう? そんなにも怖い夢じゃったのか?」
「怖いというか~ うーん……」
ルリアナには話しても大丈夫かな?
別に隠すようなことでもない。
形は違うけど、俺とルリアナは家族みたいなものだし、悩みを相談する相手にはピッタリか。
そう思って、夢の内容と見てしまった理由を話した。
「エイトはスケベじゃな」
「うっ、そこに反応されると困るな」
「事実じゃろ? 三人も女子を誑かしておったとは、妾も驚いたのじゃ」
「誑かしては……いやそこは合ってるか。我ながら情けないよ。みんなから向けられる好意にあぐらをかいて、結論を出せずにいるんだ」
だから夢にまで出て来たのか。
いつか姫様に言われたこともひっかかっているし。
三人の好意に優劣なんてつけられない。
それでも選ばなきゃいけない。
選ぶべきだと思いながら、結論を先延ばしにしている。
「何を難しく考えておるのじゃ? そこまで悩むことでもないじゃろう」
「悩むことだよ」
「それは人間の尺度でしか考えておらんからじゃ。エイトは人間じゃが、妾と同じ魔王でもあるのじゃ。小さいほうじゃなくて、大きいほうの物差しで考えれば良いのじゃ」
「大きいほう……魔王らしくってことか?」
強欲になれ、とでも言いたいのだろうか。
その先の結論は一つしかない。
ただそれを選んでいいのか……
「あーもう、うじうじ悩んでおるのは魔王らしくないのじゃ! そんなに不安なら本人たちに直接聞けばよいじゃろ!」
「え、それはさすがに」
「心配いらないのじゃ。どうせ妾が思った通りの返事が返ってくるだけじゃから」
「思った通りって、どんな返事なんだ?」
「ふっ、それは今から聞けば良いのじゃ」
そう言って強引に、俺の腕を掴んで引っ張り出す。
悩みなんて馬鹿らしいと言わんばかりの笑顔で。
「ほら行くのじゃ!」
「ったく」
強引な妹……いや、今は姉かな?
俺も見習うべきだろうか。
彼女のような強引で、まっすぐな意思を。
ご愛読ありがとうございます!
また本日、新作も投稿しました!
『婚約破棄してくれたしこれでやっと旅立てます(魔界へ) ~王族の癖に精霊使いの才能のない私ですが、魔物とのシンパシーはバッチリみたいですね。おや、私のお友達がお怒りのようですよ?~』
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