1.付与術師エイト、追放される
「エイト、お前には今日限りでパーティーを抜けてもらう」
「……え?」
いつもの酒場に呼び出され、席に着こうとした俺に、パーティーリーダーのカインが挨拶でもするように言い放った。
平然とした顔で、当たり前のように。
俺は突然のことで頭が真っ白になり、しばらく黙り込んでいた。
「おっつかれさま~ そんじゃバイバーイ」
「用件は済んだか? ならば我々も依頼へ向かおう」
「そうですね。あまり遅くなると評価に関わりますし」
すると、追い打ちをかけるように他の仲間たちが立ち去ろうとする。
我に返った俺は、慌てて問いただす。
「ま、待ってくれ! なんで突然クビなんだ? 俺が何か悪いことをしたのか?」
「は? そんなこともわからないのか?」
「え?」
本当にわからなかった。
俺には心当たりがない。
パーティーを追い出されるようなことなんて何も……
「戦闘では大して役に立たない。遠く離れた安全な場所で、付与術をかけるだけ。戦闘に参加も出来ない奴なんて、今のオレたちには必要ないんだよ。お前の付与なんてなくても、オレたちなら十分にやっていける」
「そ、そんな……」
カインにそう言われ、俺は身体が重くなる。
いきなりクビを言い渡されたことも悲しかったけど、それ以上に辛いのは、皆が俺のことをそんな風に思っていた事実だ。
これまで俺は、カインがリーダーを務める冒険者パーティー【ルミナスエイジ】の一員として、皆の役に立てるよう努力してきたつもりだ。
まだFランクの駆け出しだった頃から一緒に依頼を受け、二年かけてようやくSランクにまで上り詰めたことにも、少なからず貢献していると思っていた。
パーティーの出発前の夜に、全員の武器防具を集めて付与を書き換え、次の依頼に適した付与をし直していた。
ワイバーン討伐戦の時は、『竜殺し』と『貫通強化』を付与して、硬い鱗を貫けるようにしたり。
空中戦が出来るように、マントには『飛翔』、ブーツには『空中歩法』を付与した。
戦闘中は臨機応変に武器の付与を書き換えたり、『身体強化』とか『防御強化』みたいな簡単な付与なら言葉だけでも出来るので、後ろから支援したり。
確かに戦闘そのものには直接参加できないけど、影ながらパーティーを支えてきた……と思っていたのは、どうやら俺だけだったらしい。
今までの冒険が、まるで何もなかったかのように。
必要ないの一言で片づけられてしまったら、誰だって納得できないだろう。
「で、でも待ってくれ! 次の依頼はアンデッド退治だろ? それも相手はリッチー、アンデッドの王だ。『不死殺し』を付与し直さないとあれには勝てない」
アンデッドは不死のモンスター。
肉体は最初から死んでいて、倒しても何度も再生する。
攻略法はいくつかあって、聖水をかけるとか、炎も弱点だ。
一番効果があるとされるのは聖属性の浄化魔法だけど、今回の相手はノーライフキングと呼ばれるアンデッドの王リッチー。
リッチーには聖水や炎は通じない。
聖属性の魔法も、より高位の魔法でなければ効果はない。
そんな高等魔法が使える魔法使いなんて、世界にも数える程度しかいないんだ。
「聞き捨てなりませんね? まさか私の聖なる魔法が効かないとでも? 例えリッチーと言えど、私の浄化の前では無力です」
「そうだぜ。ライラの魔法は一級品だ」
いいや、彼女の浄化魔法は確かに強いけど、さすがにリッチーには効かない。
低位のアンデッドすら一瞬で浄化できないのに、リッチーを浄化できるものか。
以前にアンデッドと戦った時だって、俺が『浄化能力向上』を杖に付与していたからだ。
そのことをライラは忘れている。
あるいは白魔導士としてのプライドがそうさせていているのか。
どちらにせよ、彼女は勘違いしていた。
「さ、さすがにライラでも無理だ。リッチーの不死性は低級アンデッドとは比較にならない。せめて前みたいに俺の付与で――」
「必要ないと言っているんです。まだわからないですか?」
ああ、駄目だ。
何を言っても聞いてもらえない。
他の皆にも目を向けてみたけど……
「ねぇ~まだ~」
赤魔導士のリサはダラケながら早く行こうと急かす。
「しつこい男は嫌われるぞ。我々には関係ないことだがな」
槍使いのシークは、メガネをクイっと触り、呆れた表情でため息を漏らす。
カインは言わずもがな。
「いいかげん理解しろよ。お前の居場所はもう、ここにないんだよ」
「……決定事項なんだな」
「そう言ってるだろ?」
「……わかった。後から戻ってきてほしいとか言わないでくれよ」
今の俺に出来る最大限の意地を張り、俺は彼らに背を向ける。
「安心しろよ。それよりお前は自分の心配でもしてろ。お前は武器屋とかやったほうがいいんじゃないか? そっちのほうが向いてるぜ」
「言えてる~」
「それなら客として行ってやってもいい」
「さようなら」
引き留められないことはわかっていた。
悪いと思っている人なんて、あの中には一人もいない。
いっそ清々しいとさえ思える。
お陰で俺も、未練なく立ち去れるよ。
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』
ページ下部にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
リンクから飛べない場合は、以下のアドレスをコピーしてください。
https://ncode.syosetu.com/n2188iz/