玉伊さんは不器用 ~初めての休日デート~ (土曜日編)
これは短編第2作目です。第1作目の
玉伊さんは不器用 ~年下作家と編集者~
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を先に読んでいただくと更に楽しめますので、是非目を通していただければ幸いです!
「もう読んだよ」って方は、どうぞ心ゆくまで2人のイチャイチャをお楽しみください……
「なんで今日に限って電車が遅れるのかなぁ」
玉伊は、息を深く吐き、とぼとぼと肩を落としながら、初デートだというのにも関わらず約束の時間に間に合わなかったことを後悔しながら駅前の集合場所へと足を進めた。
同じように恋人と待ち合わせをして、期待に胸を膨らませているだろう若者たちの間を、針を縫うように避けて、ようやく集合場所へとたどり着いた彼女だったが、かなり気分が落ち込んでいた。
しかし、そんな彼女の憂鬱な気分は、一瞬にして、どこかへ吹き飛んで行ってしまう。
灰色のジャケットに、真っ白なシャツ、黒いギャザーパンツを着込んだ本日のデートのお相手が、今か今かと時間を気にするかのように時計に目を向けている姿を見せながら待ってくれているのを見つけたのだ。
少し渋めで、どちらかと言えばもう少し年上の男性が好むであろうゆったりとしたファッション。上司の編集長みたいな、おじさんが着ていても似合うことは似合うのだろうが、やはり若さには敵わないのだろう。
「ビバ……年下男子っ」
思わず先日のように口に出してしまった玉伊だったが、小さな声だったため他の人には聞こえていなかったようだ。そして、彼の元に駆け寄る。
「ごめんなさい、電車が遅れちゃって」
「いえいえ、大丈夫ですよ。きちんと連絡くれたんですし、電車とかが遅れるのは誰のせいでもないですから」
ぶっきらぼうな返事ではなく、優しく諭してくれるような彼の発言に玉伊は瞳の中にハートを浮かべて、彼の手を取った。
「じゃあ、デートしようか」
年上の余裕を見せつけようと、咄嗟にとった行動だったが、逆に恥ずかしくなってしまって、それを隠そうと、彼の顔を見ることなく町へと繰り出そうとした彼女だったが、固く握られた右手に意識を取られ、振り向くと……
「はい」
顔を真っ赤にして、恥ずかしそうな年下男子がそこに居た。あ、駄目だ、萌えた……五感全てでそう感じた彼女は、ちょっと強引かもしれないと自分自身でも思いながらも、その手を引いて彼とのデートを始めるのだった。
◇◇◇
デートの行き先は映画館。よくあるデート先ではあるのだと、2人とも分かってはいたけれども、やっぱり外せないということで話題のアクション映画を見ることにしたのだった。
ただ、他に多くのお客さんがいると分かっていても、真っ暗な部屋の中で肩を寄せ合いながら、意外と緊張してしまうもので、
ホップコーンを取るときに、少し体の位置を調整しようとしたときに、
そして、隣に座っている相手の横顔を見てみたいと気迷ってしまったときに、
肩が触れ、目が合うとお互い顔を真っ赤に染め上げてしまい、映画のストーリーがまるで頭に入ってこなかったのだった。
映画が終わった後映画館から出て、スパゲッティでも食べに行こうとしている2人だったが、1つ大きな問題があった。映画のラストスパート、『今話題』の名に恥じない躍動感ある最高のアクションシーンに盛り上がり…自分たちでも気が付かないうちに手を重ね合い、今も繋いでしまっているのだった。
玉伊は内心自分が、自分から待ち合わせ場所で手を繋いだことを思い出し、赤面していた。そして、佐々木は、手を繋いでいることを指摘したら、玉伊さんがどんな顔をするのかを考えてしまい、自分自身が嫌いになりそうになりながらも、手を繋いでいることを嬉しく思い、更に強く手を繋いでしまうのだった。
そんな中、佐々木が小さく声を絞り出す。
「玉伊さん……また、2人で来ましょうね」
本心から出てきたであろうその言葉に玉伊は更に、顔を赤く染める。
「やっぱ、好きだわ」
そしてまた本心を溢してしまった。
「え、玉伊さん、今なんて?」
「……」
固く口を閉じて黙りこんだ、玉伊に、佐々木は更に追い打ちをかける。
「たーまーいさん♪もう一回、言ってくれませんか?」
「……『好き』って言ったの」
勿論始めから聞こえていた佐々木はにっこりとした笑顔を浮かべる。
「僕も大好きですよ」
そっとその言葉を耳元で囁かれた玉伊は
「尊い」
とだけ一言口にして、繋いだ手を更に強く握りしめるのだった。
お前らもう結婚しろ!