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吸血姫シリーズ

吸血姫 ~堕ちる時~

作者: りんどう

短編「吸血姫」の花霞紫郎目線のお話です。


「そろそろか…」


強い日差しを煩わしく思いながら歩く制服を着た男、花霞紫郎は日傘をさして歩く女性をちらりと見ながら呟いた。

通りすぎてゆく日傘を差した女性は知り合いではなく、彼の頭の中には死にそうな顔をした小柄な少女の顔が浮かんでいた。このような日差しの強い日は彼女はいつも日傘をさしてふらふらと歩いており、何となく目が彼女を探してしまうがどこにもいない。

太陽が苦手な彼女のことだ。

おそらく早めに家を出たのだろう。

体調が悪く無理をしている彼女の顔を思い浮かべると自然と口角が上がる。

そして自分を待っているであろう彼女のもとへと足を早めるのだった。



同じく登校してきた生徒達でごった返す廊下を歩きながら彼女のいる教室を覗くとすぐに彼女、若月ひらりを見つけることができた。

他の生徒よりも細くて小柄な彼女の横顔は青白く、今にも倒れそうな様子に心の中でそっと笑う。


「ひらり」


なるべく優しさを含んだ声で彼女の名前を呼ぶとすぐに気が付いたようで、彼女は怯えた目を向けてきた。

その様子がおかしくて顔がにやけてしまう。

さらに近付くと彼女は彼から逃れるようにしゃがみこんだ。


「ひらり、無理はいけないよ?さ、保健室に行こう」

「…やだ、いかない」

「駄々をこねるのはダメだよ。ほら、皆にも迷惑がかかるから。ね?」


周りのクラスメイト達も保健室に行ったほうがいいと心配しており、彼女の細い腕を取り抱き上げた彼を誰も止めない。

むしろ彼が来たことによってホッとしている様子だった。

きっと無理している彼女をどうやって保健室に行かせようか悩んでいたのだろう。

助けを求めるように視線をさ迷わせた彼女はそんなクラスメイト達をみて諦めたように顔を俯かせた。



あいつらじゃお前を助けられないだろ?



目線を合わせない彼女を見ながら喉の奥で低く笑った。






保健室に着くとちょうど誰もおらず、鍵を閉めてから彼女をベッドへと放り出した。

白いシーツの上に黒くてきれいな髪の毛が広がる。

少し捲れたスカートから覗く太ももは白くてきっと滑らかな触り心地なのだろう。

自身のシャツのボタンを何個か外して彼女に覆い被さると口と鼻を押さえて顔をそらされてしまった。

怯えたように肩を揺らしているが、こちらを見るその瞳に一瞬だけ怯えではないものがうつったのを彼は見逃さなかった。


「大分弱ってるみたいじゃないか。今回は大分頑張ったもんな?」


まだ抵抗する彼女の頭を優しく撫でるとそのまま後頭部に手をまわし自身の首もとへと近付ける。


「いや…っ!!」

「駄々をこねるな。欲しいんだろ?俺が許可してるんだ、拒む必要はない」

「…あなたには、分からないっ!!」


そう言って彼女はその細い腕を突っ張って彼を押し退けようとするがびくともしない。

そんな弱々しい力では何もできないだろう。

彼女の頬を流れる涙を指で掬いながら彼は甘い声でゆっくりと囁いた。


「素直になれよ、ひらり」


ようやくこちらを見た彼女の瞳が葛藤に揺れており、思わず笑ってしまう。

そのままもう一度自身の首に彼女の口もとを近付けようとしたが往生際悪く彼女が抵抗するため、仕方なく親指を噛んだ。

本当は彼女からがよかったのだが仕方ない。

それに指から流れ出る赤い液体から目を離せない彼女を見て苛立っていた気分がすぐに霧散した。


「体は素直みたいだな」


ようやく怯えではない感情をその目にうつした彼女に笑いが込み上げる。


「良い子だ、ひらり」


誘うように指を近付けると彼女はその小さな口を開いてそれを含んだ。

ざらりとした感触が傷口をなめる。

もっと欲しいと両手で彼の腕を取る彼女の頭を優しく撫でた。


「それでいいんだよ、ひらり…」


まだ足りないと傷口に牙を当てたまま固まる彼女がいじらしくて、彼の方から指を牙に押した。

溢れ出る血に食いつきながらまた彼女は涙を流す。

そしてきつく目を閉じ、開いた時にはもう僅かな葛藤さえも残っておらず、ただ欲に溺れどろりとした赤い瞳がそこにあった。



そんな彼女の姿を見つめながら、彼は言い様のない気持ちが沸き上がり、楽しくて仕方ないと笑う。


これだ。


真面目な彼女が欲に溺れて自身を求める姿を見たくて仕方なかったのだ。


なれもしないのに普通の人になりたいと体調を崩してまで我慢する彼女が今、自身を求める様が愚かで愛おしい。


吸血してしばらくは吸血衝動に耐えることができるみたいだが、やはり長くなると彼女でも難しいらしい。

ただ普通の人の血の匂いなら彼女もまだ頑張れただろう。

我慢できなかった原因は彼の血にもあった。

他の人とは違い彼の血は吸血鬼達にとっては別格と言える程美味しいらしい。


我慢強い彼女が吸血をしてしまう程に。


だから彼は一番彼女が血が欲しくてたまらない時期に近付くのだ。そのほうが彼女の葛藤する姿をより見られる。


「そんなに美味しいか?」


吸血に夢中な彼女に問いかけるとちらりと視線を向けられた。

潤んだ瞳と上気した肌、たまに指にかかる吐息が少しこそばゆい。


「ぁ…んっ……もっ、と……」


「ん?よく聞こえないな」


物足りないと訴えるその瞳を見ながら空いているほうの手で彼女の白い太ももを撫でる。

やはり想像していた通りの滑らかな感触が伝わり、そのまま上にと手を動かすとスカートが捲れて黒いレースの下着が見えた。

シャツの下の方にも手を入れると黒いキャミソールとブラジャーを着けており、透けやすいのによく黒を身につけたなとどうでもいいことを考える。


華奢な彼女に見合った小ぶりな胸を隠す物を外そうとホックに手をかけているとガタガタと保健室の扉を動かす音が聞こえた。

誰かが入ってこようとしているのだろうが彼は無視して手を動かす。

しかし、その手は振り払われてしまい吸血されていた手も離されてしまった。

彼女を見ると体を起こして乱れた服を押さえながら枕元の方に逃げている。

さらに先程まで欲に溺れていた瞳は消え去っており、変わりに怒りをうつしながら彼を強く睨み付けていた。

その様子に彼は小さく息を吐くと彼女に布団を被せて保健室の扉を開けにいった。

後ろからごそごそと音がしたため急いで身なりを整えているのだろう。


鍵を開けるとよく見知った養護教諭が立っていた。


「あら、もしかして若月さんが来てる?」

「はい、朝から体調が悪かったみたいで。眠れるまで静かにさせたかったから鍵を閉めてました。すみません」

「もう…気持ちは分かるけど他の生徒も利用したくて来るんだからだめよ?」

「はい、すみませんでした。気をつけます。それとひらりをよろしくお願いします」

「はいはい、分かったから行きなさい。授業始まるわよ」


背中を押されて保健室を追い出される。

自身と彼女に噛まれた指はすでに止血されており、傷跡だけが残っていた。


こちらを睨み付ける彼女の姿を思い出され自然と口角が上がる。



「さて、次はいつ頃にするか…」



彼は傷跡にそっと唇をつけるとその場を去ったのだった。





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