後編:佳乃
こんばんは、遊月です!
今回は佳乃編です! この物語はこれにて完結となります。
いったい佳乃が謝り続けている相手とは誰なのか、そして、佳乃の側から語られるふたりの蜜月とは……?
本編スタートです!!
初めてできた好きな人は、もう他の誰かの恋人だった。
どうしてあんなことをし続けたのかと訊かれたら、きっとそう答えるしかないと思う。だって、その人はきっとわたしのことなんて知らないし、きっと“今の”恋人と別れたって、すぐにまた次の恋人を作ってしまうに違いない――いや、実際に作っていた。
だから、あの人が恋人を作り続けるたびに、わたしの罪も増えていった……ううん、違う。それだとあの人のせいみたいになってしまう。
違う、そうじゃない、だって全部、わたしの選んだこと。
酒井沙耶さんのことを好きになったのは、わたしなんだから……。
* * * * * * *
沙耶さんと出会ったのは数年前、わたしが通学電車で痴漢に遭っていたとき。実際にされる痴漢は、よく言われるみたいに勇気を持って声をあげたらどうにかなるとは思えないものだった。
たぶん、声をあげたら何かされるかも、とかいうのすら後付けにしかならない。そのときのわたしはただ、お尻や腰回りに感じた粘つくような不快感と恐怖に萎縮してしまって、どうしたらいいかわからなくなっていて……。
そのときに、「何してるんですか?」と声をかけてきたのが、沙耶さんだった。
その痴漢はすぐに逃げてしまったけど、そんなことよりも、助けてくれる人がいたという事実が心に残った。他は、すぐ隣にいた人でさえチラチラ視線を送ってくるだけで何もしてくれなかったのに、明らかに人混みを掻き分けてきたかのような彼女の姿は、とても眩しく見えた。
そしてそれが、わたしの初恋だった。
恋をするって、きっとすごい力なんだと思う。
それまで誰かのことを知ろうともしなかった、ただ目の前のことを無難にこなせていたらそれでいいと思っていたわたしがその日、彼女のことを知りたいが為に初めて学校を休んだ。
知らない駅で降りて、知らない街を歩いて、知らないものをたくさん見て。そんなの、その日までの人生じゃ一片の関心も向けてこなかったことなのに。
彼女の会社を知った、彼女の名前もそのとき知った、彼女の笑い方も、その道中で知った。そして、そんな日々をしばらく続けているうちに、彼女の恋人の存在を知った。
仲のよさそうなふたりだった。
幸せそうで、互いが互いを想っているのなんて見てとれるようで。
わたし、何やってるんだろう? ふと、死にたくなって。
気付いたら、沙耶さんの隣にいた人とセックスしていた。
最悪な気分だった、初めてだったのに。同情させて、なんとなくそういう流れにして……痴漢は漫画やドラマみたいに立ち向かえないのに、男の人をセックスに誘うのは漫画やドラマそのままにできてしまった。
飽きるまでさせてあげて、それから今度は足腰が立たなくなるまでしてあげて、わたしに夢中にさせるだけだった……ううん、本当に夢中になっていたのは、きっとわたし。
だって、わたしの中に入っていたものは、沙耶さんの中にも入っていたものだから。沙耶さんはこんな形のもので感じていたんだ、こんな硬いもので掻き混ぜられていたんだ、こんな熱いものを浴びていたんだ……そう思うたびに、どんどん夢中になって。気がついたら、その人は沙耶さんと別れていた。
* * * * * * *
それからはその繰り返し。
何人に抱かれたのだろう、何人とキスしたんだろう、何人に舐められて、何人のを舐めたんだろう、口にも出されて、子宮に届くくらい突かれて、お尻にも入れてあげて、胸も、脇も、腿も、身体中全部が好きでもない味を覚えて、1度は手術までする羽目になって。
そうやってすり減らした心の分だけ、沙耶さんを愛してあげる。
「あ、やだ、ん――――、」
あんな人たちとは違うからね?
ちょっと他の人に言い寄られたくらいで恋人を裏切るような人たちとは違うの。だから、どこまでも深く、沙耶さんを愛してあげるから……だから……。
どうか、わたしを赦して。
『ごめんなさい』
あなたが今まで泣いたのは、わたしのせい。
『ごめんなさい』
きっとあの人たちには、裏切るつもりなんてなかったのに。
『ごめんなさい』
こんなわたしが、あなたの幸せな時間を奪ってしまった。
『ごめんなさい』
それでも、わたしはあなたを愛しているんです。
だから、誰にも渡さない。
わたしは一生、あなたに償い続ける――――愛して、愛して、絶対に離さない、そう叫ぶ真実の心で。
前書きに引き続き、遊月です!
今回はふたりの登場人物が、それぞれ双方の視点から話を進めていくというシンプルな形式となっておりました。
その分、なんとも言えず重苦しい百合になったのではないかな、と思います。
え、男との行為が描かれている時点で百合ではない? ……その辺りは、各人の意見かも知れませんね。
ということで、次作でお会いしましょう!
ではではっ!!