前編:沙耶
こんばんは、遊月です!
今回も“殺伐感情戦線”、参加させていただきます! テーマは贖罪ということで、あるひとつの罪……というか、償わなくてはならないことが出てきます。
まずは沙耶さんの視点から……
本編スタートです!!
ごめんね、ごめんね、ごめんなさい。
彼女はいつも泣きながら眠っている。
さんざん私を見つめて、甘い顔を見せてくれていたのに、どうしてそんなに悲しそうに眠るの? 指先に残る彼女の蜜が乾いていくのが我慢できなくて、彼女が私の知らない何かに苦しんでいるのに堪えられなくて、私は月の雫みたいなその涙を啜った。
ちゅる……っ
わかってる、そんなことでその涙は止まらない。
だけど、わかっていることは諦める理由ではないの。
きっと、私にいつか教えてね。
だって今は、私があなたの恋人なんだから……。
* * * * * * *
彼女こと小泉佳乃と出会ったのは、何人目かの恋人と別れた直後だった。雨が冷たく降る、春の足音が聞こえ始める頃の夜だった。
私は、はっきり言って男運がない。
決してモテないわけではないんだと思う……同級生と比べるとそれなりに告白もされているみたいだったし、あと付け加えるなら、彼女たちが遭遇するようなクズ男たちと出会うようなこともない。
私が付き合ってきたのは、みんな“普通の”男の人たちだ。それで私も、ちゃんと彼らと通じ合えていたと思っている。
けれど、どうしても半年くらい経つと距離が遠退いてしまう。
友達に相談したらセックスが足りないんじゃないかとか、貢ぐお金が足りないんじゃないかとか、まぁ様々な指摘を貰ってきた。だけど、彼らはみんなそこまで身体を求めるような人ではなかったし、お金だって自分でなんとかしている人たちだった。それでいて私のことを好きでいてくれた。私の方にもそんなに大きな問題があるとも思えないのに、どうしても長続きしなかった。
友達が冗談半分で「もしかして寝取られたんじゃないの?」と言っていたのもちょっと気にはなったけど、別にそんな出会う機会の多い人ではなさそうだったけどなぁ……。
もしかしたら、私って自分で思うより恋愛向いてないのかな。
そんな不安をどこかで覚え始めていて、やけ酒のような感じで、公園のベンチで缶ビールを飲んでいたとき。そういえば公園で缶ビールを飲むなんていうのも、確か最初の彼氏がしていたのを見てできた習慣だったな……と嫌悪感混じりに思い返していたときだった。
『こんばんは』
そう声をかけてきたのが、佳乃だった。
『ちょっと寂しそうだったので、声かけちゃいました。お姉さん、大丈夫ですか?』
どこにでもいるような、いや、そう呼ぶにはちょっと可愛げのあるように見える外見。たぶん今までの彼氏が寝取られるんだとしたらこういう娘に取られちゃうんじゃないかな……そんな風に感じずにはいられない可愛らしい娘だった。
私は、どんな顔をしていたんだろう。
自分じゃ酔っている時の顔なんてわかるわけもない。だけど、彼女はそんな私を見て、『いいですよ?』と笑いかけてきた。
何がいいの?
いいって何のことを言ってるの?
私のことなんて何も知らないくせに。
苛立ちばかりが心に募っていく。
何か怪しげな宗教勧誘か何か?とすら思えて、拒絶の意思を向けようとしたときに、まっすぐな瞳で告げられた。
『わたしは、あなたに一目惚れしました』
普段ならそんな言葉に転んだりしなかったに違いない。だけど、一方的に想い続けるだけの恋に疲れきっていた瞬間だったからだろうか、それとも何か、彼女に感じるものがあったから?
佳乃との初めてのキスは、涙の味しかしないキスだった。
* * * * * * *
あれから半年以上経っているけど、佳乃とは問題なく続いている。もしかしたら、本当の私はこっち側だったのかも知れない。日頃の生活でも気を遣うことは減ったし、生理のときも今までの恋人たちよりもわかってもらえるし。
佳乃から教わるようにして、女同士の愛撫のしかたも覚えた、どこが感じるところで、どこが嫌で……そういうことも、男の人にしていたときよりよっぽどわかりやすい。
だから、理想的な関係だと思うんだけど。
けど、ひとつだけ不満があるとするなら。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
寝言で泣くほど、あなたが誰かのことを思ってしまっていることだけは、我慢できない。あなたは私の世界を変えたっていうのに、あなたの世界はまだ私だけのものじゃないなんて。
ぢゅ……っ、
だから、今夜もまた、ひとつ。
無防備に曝し出された胸に、痕をつける。
そのうちいつか、あなたの世界も私だけのものにしたいから。
前書きに引き続き、遊月です!
続いては後編となります。
はたして、彼女は誰に対して謝り続けているのでしょう……?
後編でお会いしましょう!
ではではっ!!