7話
脚がふらつきそうになるのを悟られないように、殊更にゆっくりと礼を取った。
「ユリーリア様、お招きありがとうございます。このような見事な薔薇園を拝見できて、とても光栄です。」
まるで手足を縛られた生贄のような気持ちになる。ユリーリアが何を思って私を呼んだのか、わかり始めていた。残酷な茶会の女主人は、ゆっくりと立ち上がり、口を開いた。
「ようこそ、エマ様。来てくださってうれしいわ。」
匂い立つ薔薇達を背負った彼女にはいつにない迫力を感じる。彼女は凄絶なにこやかさを持って言葉を続けた。
「早速だけれど、わたくしの新しいお友達を紹介させて?海外から来てくださっているから、まだお話はあまり上手くないのですけど。」
そう言って、隣の女性を手で示す。女性は、ぴょこん、とでも擬音がつきそうな身軽さで立ち上がった。
「フランチェスカ、と、いいマス。ヨロシクお願いします、ね!ナカヨク、して、クダサイ!」
気が遠くなりそうだ。
先日殿下に謁見した際に感じたものに似た、しかしそれよりはるかに大きい疲労感が天から降ってきた。
なぜ、淑女の礼をとらない?なぜ、家名を名乗らない?ナカヨクしてくださいとは?そもそも、公爵令嬢の茶会に呼ばれる身分の者が、外国から来たとはいえ恥ずかしがる素振りも見せず片言で挨拶をしている?これは、いったい何事?
せめて通訳のできる侍女をつければ良いのではないだろうか。そしてマナーが全く身についていないのはどういうことなのだ。他国だからと言ってマナーが変わるわけではない。むしろ我が国の貴族は先進国であるロカマーナ帝国のマナーを積極的に真似ている。
このような珍妙……奇抜………いや、斬新?な挨拶は受けたことがなかったので、面食らってしまった。しかし、彼女があのフランチェスカ嬢だというのなら、冷静に丁寧に挨拶を返さなければならない。王太子殿下の婚約者として。
「はじめまして、フランチェスカ様。お会いできて嬉しく思っております。私は、エヴァンズ伯爵家のエマと申します。お見知り置きくださいませ。」
「わあ!ステキな方デスね!」
わあ!という叫びは初めて聞いた。庶民が驚いた時に発する声なのだろうか。
混乱しすぎてやっとの思いで微笑む私に、ユリーリアが心底楽しそうに声をかけた。
「とっても素直で、可愛らしい方でしょう?エマ様もきっと、仲良くしてくださると思ったの。」
なるほど、不作法者でも彼女にとっては単純で手駒にしやすいからそばに置いているのかもしれない。
そういえば、侯爵令嬢であるフランチェスカ嬢を伯爵令嬢の私に先に紹介したことになる。前方面に悪意と失礼をばら撒く彼女に安心感すら感じてしまうのがとても悔しかった。




