6話
唐突に王宮に呼ばれてから2日が経ったが、どうにも落ち着かない。主人の不安定な立場を感じ取った使用人たちも普段より騒ついている。私が婚約者の座から転落でもしたら、彼らの地位も下がるからだろう。
それでも、私には見せかけの平静を保つ義務がある。心が乱されていても、社交の場は待ってくれない。待たせてはいけない。懸念が有る時であればこそ、まっさらな、幸せそうな顔で方々を回らなければ。
今日はクレイライン公爵令嬢、ユリーリア・クレイラインの茶会に呼ばれている。公爵家の当主ともなると良識ある方が多いが、豊かな家でゆったり育てられたはずの令嬢の中には、稀に苛烈な性質を持つ者がいる。ユリーリアがそうだった。
自己主張が激しく、仲の良い令嬢以外にあからさまに辛く当たるという性格は、我が国の貴族には珍しい。公爵家の権力がある上に、色素の薄い髪と涼やかな青い瞳を持つ美しい女性。そんな彼女が自らの機嫌次第で振り回すのは、家格の低い令嬢達だ。たまに見ていて哀れになる。
私とは大して親しくないが、王太子の婚約者という身分から茶会に招待されることが多い。かつて同じ肩書を狙っていた彼女は、会えば毎回笑みを浮かべて私の粗を探す。
もちろん今は会いたくない相手だが、同時に会わなければいけない大事な相手でもある。
私とヴィンスの婚約が揺るがないこと、王太子の婚約者の座を他国からやってきた令嬢には渡さないことをアピールしなければならない。
公爵家へ向かう道すがら、自分の立場を噛みしめるように心の中で繰り返した。私は王太子の婚約者。婚約者でいられることが幸せ。この立場は揺るがない。
憂鬱を押し込めて豪奢な門をくぐり、使用人に導かれて庭へ向かう。珍しく晴れているため、茶会は自慢の薔薇園で開かれるのだろう。
公爵家のタウンハウスは重厚な煉瓦色をしているが、愛娘のために設けられた一角は趣が違う。ほっそりとした優美な白いアーチに蔓薔薇が絡みつく入り口。足を踏み入れれば、テーブルと椅子が何組か設置された小さなスペースが目に入る。周りには、形も様々な薔薇が咲き乱れている。
特筆すべきはその色合いだ。手前は可愛らしい薄紅色、奥に向かって少しずつ紅が濃くなるように植えられている。滑らかな色の移り変わりは、眺めているだけで圧倒される。
持ち主の性格はさて置き、薔薇園はあまりに見事で僅かに心を軽くしてくれた。
その中心に誇らしげな笑みをたたえるユリーリアがいることは当然だ。しかし、その隣にいる華やかな女性には見覚えがなかった。蜜色の髪。雨に濡れた若葉のように輝く瞳。
私の姿を認めると、女性は満面の笑顔を浮かべた。貴族には似つかわしくない、素直な笑顔だ。私と女性を見比べたユリーリアの口角が吊り上がる。
とても嫌な、動悸がし始めた。
なんとか今日中に投稿できた……
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