3話
やけに沈黙が長い。
不本意ながら婚約破棄は受け入れられていないようなので、まだ私は殿下の婚約者である伯爵令嬢という身分を保っている。
決して対等な身分ではないが、流石に殿下が話を中断させて沈黙し続けることは、私に対する侮辱と言っていい。
今まで婚約者への気遣いを忘れることのなかった殿下の態度を訝しんでいると、ようやく彼が口を開いた。
「…待ってください。それは全くの誤解だ。私は、フランチェスカ嬢と親しくしたかもしれないが、あなたを蔑ろにするつもりはない。彼女とは、少し話をしただけです。」
こちらが絶句する番だった。
しかし長い沈黙は、それこそ私には許されていない。
なるべく無礼にあたらない言葉で驚きを表現しなければ。
「では、お2人は特別な関係ではなく、フランチェスカ様を王妃にすることもない、と考えてよろしいですか。」
「そのようなこと、考えたこともありません。
私の行動によって君を惑わせてしまったんですね。私の特別な人は君だけです。」
「過分なお言葉、ありがとうございます……」
なんだそれは。本気なのかこのお方は。
私が婚約破棄されることと同じ程度に悪い。
誤解したのはもちろん私だけではないのだ。
王族が、婚約者以外の者を、特別な関係であると勘繰られる程度に近くに置く……
その意味を何も考えていない人が王位継承権を持っているという事実は、この国の弱点と言っていい。
しかも、フランチェスカ様は他国から来てまだ日も浅い。この国の国民ですらないのだ。
そのような女性を不用意にそばに置くことは殿下自らへの不信も招く。確かに政治的に危険の少ない我が国だが、それでももはや擁護は不可能だ。
「私との婚約を取り下げる理由は、それだけですか」
それだけ。それだけという認識なのか……。
「はい。差し出がましいことを申し上げました。婚約はこのまま続けることを、家の者にも伝えて参ります。」
ここで敢えて「家の者」に触れた意味をわかってくださるだろうか。……わかっていない。
表情から見て取れる。
不思議そうに眉を軽く顰めるだけで、何も推察できておられない。
こんなに鈍いお人だったか。
「わかりました。もう、下がっていいですよ。」
王位継承権を持つ婚約者の評価をかなり下げて、穏やかならざる朝の会見は終わった。
家に帰るのも気が重くなるというものだ。
そして、政治に深く関わる貴族の一員である私に、胸の奥の幼い私が問いかける。
────どうして、あのお方に聞けなかったの?私を置いて、他国から来た女の子とどんなお話をしていたの、って。
エタってないです。




