2話
翌朝私は、念入りに、しかし決してそれを悟られないように支度を済ませ、馬車に揺られて王宮へ向かった。
一昨日から草木を潤していた雨は今日は降っていない。
代わりに、白い曇り空が暖かな日差しを含んでやんわりと地面に光を漏らしている。
物憂げに光を浴びる白塗りの城を守る大きな鉄の城門は、王太子の婚約者のために大きく開かれていた。
真紅の制服の衛兵に見守られて通過すると、王太子殿下の側近が迎えてくださった。
慎ましやかな作法通りの挨拶を交わし、案内されて謁見の間に入る。
壁にも天井にも細かく彫り込まれた植物達は見事な芸術作品だが、見慣れているので感動はない。
重厚な臙脂色をした、これまた座り慣れたビロード張りの椅子に腰掛けて待っていると、まもなく殿下もお見えになった。
私は臣下の礼として、椅子を立ち、服の裾を摘み、頭を下げ、腰を落とした。
「顔を上げてください。一体、何があったのですか。
昨日の手紙といい、その態度といい、何の説明もなくその様にされては何もわかりません。」
昨日の手紙で「婚約を破棄したい」とはっきりお伝えしたはずだが、伝わらなかったのだろうか。
「殿下、私は弁えております。
もう殿下のお側に私は必要ない、むしろ妨げになることを理解しております。
今まで格別のお引き立てを賜り、ありがとうございました。」
「もう僕を、ヴィンスと、あなたは呼んでくれないのですか。
理由を聞かせてください。なぜ突然婚約を破棄したいなどと…」
殿下が声を詰まらせた。
理由がわからない?
不敬だけれど、本当はそんなこと、こちらが言いたいくらいだ。
殿下とかの方の逢瀬は事実であり、私が目撃しただけでなく裏もとった。
「フランチェスカ様のことは、不肖の臣下といえど把握しております。
殿下には、私などお構いなく想いを遂げていただきたいのです。」
そもそも婚約しているが、幼い頃からの約定でもない。
この国は小国とはいえ政治は安定しており、強大な力を持つ貴族などほとんどいない。
数少ない公爵家も皆穏和な当主を戴いており、この婚約は政略としてもほぼ意味はない。
ただ、年頃の高位貴族の娘を王妃に据えようとしただけなのだ。
だから、王妃の座を目の前に示された娘の小さな浮かれ、栗色の髪の精悍な王太子殿下への私の憧れを除けば、婚約者を替えることには何の支障もない。
小さく騒めいた胸を押さえつけながら、そっと王太子殿下の方を伺って、言葉を重ねた。
「殿下にとって好ましい方と結ばれることに、反対する気持ちはございません。」
プロローグでこの国の気候が6月に雨が多い、みたいな書き方しちゃったんですけど、無意識に日本の気候を当てはめていたみたいです。考えが浅いですね。今とても悔しいです。
ポイント評価していただけたら嬉しいです。




