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1話
エヴァンズ伯爵家に王宮からの早馬が届いたらしい。
私がヴィンセント王太子の婚約者だとはいえ、送った手紙に次の日に返信が来るのは初めてだ。
手紙を検める家令も警戒のせいか強張った顔をしていたと、若いメイドが無駄口を叩いて手紙を寄越した。
ヴィンスからの手紙はいつも上品にさり気なく香りづけされている。
しかし、封を開けた途端に、便箋からはっきりと柑橘の香りが立ち上った。
新しく侍従が増えたのだろうか?
それとも、焦って手紙を出した?
貴族らしい類推を始めながら目を通すと、手紙は登城を懇願するものだった。
私だって、王太子が婚約者に「懇願する」なんて表現がおかしいことは知っているが、この1つの手紙に3回も「願う」という言葉が書かれている。
普通の手紙とは明らかに違う文章だった。
「あまりに急な話ですが、明日、王宮へ上がることになります。準備をお願い。」
「畏まりました。どのようなドレスを召されますか。
どなたにお会いするご用事でしょうか。」
「ヴィンス…王太子殿下にお会いすることになります。でも、あまり華美過ぎないものにして。」
もう、彼の前では愛らしさも女らしさも表現しなくていい。してはいけない。
私は彼との婚約を終わりにすると決めたのだから。




