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第一話 前途多難


前途多難・・・これから、行く先に、多くの困難が待ち受けていること。


少しだけだった



ほんの少し、すぐ返せると思ったんだ



あの時の自分には必要だったんだよ


ああ、恋しい久美子よ...



それが父親の最後の談だった。

失踪した父は家庭を省みずに、風俗に入り浸る人だった。

そんな父が借金をしていたこと聞いても特に驚くことはなかった。

昼夜問わず、玄関先をうろつく厳つい風貌のおオニイサンたちのせいで友人は家に近づこうとせず、近づこうものならドラマさながらの「ちょっと顔貸せや、コラ!!」と連れて行かれるらしい。

そんなうそか誠か、ドラマじゃないかと思うような噂が立つと75日程度で消えるはずもない。

それどころか、一週間で周知の事実となっていた。


「悠斗<ユウト>、アンタさっきから何ボヤついているのよ!」


「んっ、ああ」


今呼んだのは、双子の妹の胡座千榎<アグラ・センカ>だ。

自分でいうのは何だが、ずいぶん対照的な兄妹である。


黒く艶やかな髪を腰まで伸ばし、アイドル級の顔立ちに品行方正、しかも成績優秀となれば、誰もが羨むクラスの委員長様だ。


わずか14分の差で生まれたとはいえ、何とか兄の威厳を保ちたいとこだが、

可もなく不可もないと称される顔は、告白されたことのない人生を物語っている。


とはまあ、そんな兄妹がこんな真っ昼間から大掃除と称して差し押さえられた我が家を追い出される準備をしているのだ。

誰か少しは助けてほしいものだ。


「三千万.....」


千榎がポツリと漏らしたのは、父が借りたヤミ金からの貸与額。

外国人パブ[黒船]の金髪碧眼の久美子さん(本名ロザンナ)に貢いだ金額でもある。


冒頭で久美子さんのことを母だと思いこんでいた人も多いだろう。

けど、母さんは数年前に他界しており、あんな金髪の母をもった覚えもない。

(ついでに、久美子さんは父と同時期に失踪したので本国に帰ったと思われる。)



そんな救いようのない自分たちの家のドアを叩く者がいた。


「あなたがアグラユウトさんでございましょうか?」


「はぁ、そうですが....」


ドアを開けると着物を着た和風美人と、父の借主である[朝倉組の組長]さんがいらっしゃった。


「あなたの借金、三千万を肩代わりすることになりました」


正確にはオレではなく父の借金だ。

それよりも.....


「いくら何でも、見ず知らずの人間は信じられません。

だいいち、三千万ですよ。

いくら何でも....」


実際は、見たことある気がするけど、オレにそんな美人な友人もいないし、

ここまで、着物を着こなす美人は見たことがない。


動揺を隠しきれていないオレに対して、彼女はニコリと笑って答えた。


「何度か、顔を合わせているとおもうんですけどね〜、悲しいです。

けど、うちの[組長]さんが

「本人ではないとはいえ、うち以外から借金されるのは癪だ」だとか何とか。

(…個人的に、ユウトさんに関心があるみたいですし....)

金利を含めた借金総額、三千百四十三万を確かに[朝倉学園生徒会]がお支払い致します」



彼女がきっぱり宣言すると、妹の千榎の顔がこれまでにないほどに引きつっていた。

彼女を押しのけるように、でっぷり太った朝倉組の組長さんが体を寄せてきた。


「ニイチャン、気を付けろよ。

あそこはウチより数倍、性質(タチ)が悪い。


逆らえば、屈辱的なやり方で最後を迎えることになるだろうし、

逃げれば、地獄の底まで回収にくる、そういう組織だ。

くれぐれも[組長]だけは怒らせるなよ!

じゃあな、あのクソ親父によろしくな。」


そう言うと、朝倉組の組長さんはドアを出て、黒いベンツに一礼するとさっさと帰ってしまった。


「では、私もそろそろお(いとま)させていただきますね〜」


彼女は着物をひらりと返すと、下駄ではなくスニーカーを履き始めた。

着物とスニーカーの組み合わせもおかしいが、自分と同じ年頃の女の子がヤクザまがいのことをしているほうがもっとおかしい。


「アンタは誰なんだ。

いくら何でも、借金の肩代わりなんてすごくいい人の範疇を越えてんだろ」


「バカ、悠斗。この人は....」


千榎が慌てたように悠斗を叩いた。


「いえいえ、いいんですよ千榎さん。

自己紹介、まだですし〜。」


彼女はつま先をトントンして一礼をすると....


「私は[極妻]こと、朝倉学園生徒会副会長仙石舞<センイシ・マイ>と申します。

以後、お見知りおきを」


仙石舞が挨拶を終え、半身を反らすと、庭先に黒いベンツが停めてあった。


悠斗が見るとゆっくり、スモークガラスが下がり始めた。


「そして、あちらにいらっしゃるのが[組長].....」



仙石さんの声が聞こえるなか、悠斗はふと、物思いにふけっていた。

平穏で平凡な暮らしが出来るのだと


この時、この出会いが悠斗を平穏で平凡な暮らしから大きく離れるとはまだ気づいていなかった...


もっとも、感づいていればあのようなことにはなっていなかっただろう


次回から主要人物紹介ページにしたいと思います...

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