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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第一章 悪役として転生してます
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エルとの出会い 7

良い子は絶対真似しないように(>人<;)

「きゃっ」


 ソフィアが驚く。

 残念! 届かず足下に落ちてしまったようだ。次こそは……

 私は弟子のエルから、彼女が作っていた泥団子を奪おうとした。けれど、エルは私から離れてソフィアに近づいている。直接ぶつけるつもりなのかしら?


「ニカが一緒に遊ぼうって。これを投げつけるらしい」

「……え?」

「は?」


 戸惑うソフィアにけしかけるエル。

 見ればいつの間にかたくさん作っていたようで、持っている(おけ)の中には泥団子がいっぱい。

 ――ま、まさか!


 当たっても痛くはないと知っている。でも、二対一なんて明らかに不利だ。どうして? ソフィアに意地悪するはずが、なんで私が標的に? 

 エルったら、弟子のくせに裏切り者め。

 こうなったらなりふり構っていられない。私は私で逃げ回りながら、泥団子を握る。

 中途半端な泥団子はまったく痛くないし、そこまで汚れない。なにせ、水をつけて固める暇がないのだ。ただの激しい砂遊びになってしまった。


 三人でキャーキャー言いながら、庭を走り回る。けれど、やっぱりバチが当たったみたい。投げようとした泥団子――というか、砂が目に入って私は目が開けられなくなってしまう。


「ニカ、こするといけない。よく見せて」


 けしかけた張本人のくせに、エルが私のすぐ横で心配そうな声を出す。痛む目を少しずつ開けると、私を(のぞ)き込む綺麗な顔が間近にあった。澄んだ紫色の瞳、罪のないその表情は天使のようにも見えて。

 私は痛みで涙を流しながら、なぜか変に緊張してしまった。うちのソフィアも可愛いけれど、エルも相当綺麗だ。これはうかうかしていると、悪役令嬢の私が将来一番不細工になってしまうのでは!?


「水で洗おうか。ソフィア、いい?」


 彼女の言葉を聞いたソフィアが、家に水を取りに行ったようだ。軽い足音が聞こえる。最近では、エルは私より義妹と仲がいい。私の弟子になると言ったのに……


 白薔薇ソフィアの魅力には、同性でさえ逆らえないようだ。周りはみんな可愛いソフィアに惹かれてしまう。そういう話だからと自分を慰めてみても、やっぱり時々何とも言えない気持ちになる。

 少しだけ泣けてきた。何か聞かれたら、砂が入ったせいだと言い訳しよう。


「心配しないで、ニカ。ほとんど流れ出たみたい」


 エルがよしよしという風に、私の頭を()でてくれる。たまにこうしてお姉さんぶるから、ひどく居心地の悪い思いをすることも。私は悪役令嬢なのだ。モブキャラや泥団子なんかに、負けている場合ではない。


 念のために水で洗う。

 エルとソフィアのお陰で、私の目は何ごともなく無事だった。だけど素直になれない私は、お礼を言えない。


「まったく、誰よ。こんな子供の遊びを考え出したのは。お陰でいい迷惑だわ」


 ……って、私だ。でも、ソフィアのスカートに当てるだけで良かったのに、合戦のようになるとは予想していなかった。しかも今回のことで思い知ったことがある。ソフィアは意外に逃げ足が速い。まあ、エルが彼女を庇って、安全な所に逃がしたというのもあるけれど。


「あたしは楽しかったわ」

「そうだね。だけど、誰かが傷つくのは嫌かも」


 ソフィアに続きエルがまともなことを言う。二人に怪我がなくて良かった。考えてみれば、ソフィアはまだ王子に会っていなかった。二人が出会うシーンまで、義妹に怪我をさせてはいけないのかもしれない。


 それよりも、悪役令嬢って実は命懸け? 前回の唐辛子入り果実水では喉が、今回の泥団子では目が、危うくやられるところだった。掠れた声の眼帯悪役令嬢……それはそれで似合うような気がする。でもやっぱり私は、番外編を迎えた時に挿絵通りの美しい姿でジルドに会いたい。

 



 と、いうわけで。

 反省した私は、後日ソフィアに怪我をさせないようにお肌に優しい『血のり』制作を進めている。これならぶつけるだけで汚れるし、びっくりさせられると思う。中身はザクロの果汁だし、顔にかかっても甘くて美味しい。

 材料は至って簡単。ウインナーの皮にもなったりする動物の腸に小麦粉でとろみをつけた果汁を入れて、紐で結ぶ。当てた時に破裂して、汚れる仕組みだ。硬さや投げ方にコツがあるけれど、密かに練習したから大丈夫。汚れてしまった自分のドレスは、見なかったことにしよう。


 お手製の『血のり爆弾』を木の桶に入れ、意気揚々と庭に運ぶ。室内で破裂させたら、高価な絨毯(じゅうたん)や調度品に飛び散ってしまう。さすがにそこまではできない。後々掃除が大変だし、果汁は汚れが落ちにくいから。私はただの悪役令嬢ではなく、環境に優しい悪役令嬢を目指しているのだ。


 この辺は原作では『ヴェロニカの数々の嫌がらせに、ソフィアは泣いてばかり』としか書かれていなかった。まあ、嫌がらせでページ数を割くことはできないんだろう。でもちょっと、作者の手抜きを疑わないでもない。

 さて、準備はできたからあとはソフィアを呼び出すだけだ。白薔薇が泣けば、今度こそ王子が現れるはず。


「ソフィアー、怖くないからいらっしゃ~い」


 できるだけ優しい声を出す。

 一応『一日一悪』と決めているから、食べかけのパンを横取りしたり、ソフィアお気に入りの絵本に落書きをしたりなんてことはしょっちゅうしている。ソフィアもソフィアで仕返しに私のデザートを食べたり、髪の毛を引っ張ってきたり。もちろん倍にして返すから、最近は結構嫌われ避けられるように。


「こういう時にエルがいたら便利なのに……」


 義妹は私よりエルに(なつ)いている。だから彼女が呼べば、ソフィアはすぐに出てくるだろう。

 ぶつぶつ呟いていたら、後ろから声がかかった。


「呼んだ? もしかして、待っていてくれたの?」


 振り向くと、エルがニコニコしながら立っている。彼女は今日も綺麗で可愛い。


「良かった! 丁度いいところに来てくれたわね。早速だけど、ソフィアを連れて来て」


 私は弟子に命令した。

 ところがエルは、先に理由を知りたがる。


「何のために? ニカ、また変なことを考えている?」

「変って失礼な。こうしないと、王子が現れないんだもの。ラファエル王子ってどんだけレアなの?」


 王子は本当にいるのかと、宮殿に行く機会の多い父にも確認したことがある。

 すると父は「もちろん。会えば驚くだろうね」と言うだけで、詳しいことは教えてくれなかった。ひょっとして、驚くほど性格が悪いとか?

 

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