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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第四章 めでたしめでたしの予定です
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運命の舞踏会 7

 想いを正直に告げた私は急に恥ずかしくなり、(まぶた)を伏せる。

 ラファエルは息を飲むと、私の(ひたい)に自分の額をコツンと合わせた。鼻がぶつかり、唇さえも触れそうな距離に私は戸惑う。  


「ニカ、嬉しいよ。すぐに応えてもらえるとは思わなかった」


 ラファエルの甘く(かす)れた声に、私の心臓は爆発寸前だ。一旦態勢を立て直さないと、たぶん()たないだろう。焦って一層強く唇を()みしめる私の(あご)を、しかし彼は持ち上げた。


「ダメだよ。君の愛らしい唇を、これ以上傷つけてはいけない。私が治してあげよう」


 治すって? 

 問いかけようとしたその瞬間、柔らかいものが私の唇に触れる。


 なっ、()め……!?

 確かに以前、ラファエルは私の腕の怪我(けが)を舐めて治してくれた。でも今は、噛んだだけで怪我なんてしていない。これだとただの口づけだよ?


「待っ……」

「待たない。可愛いニカ、ずっと前からこうしたかったんだ」


 こうしたかったって……もしかして、キスのこと? 

 観念した私は目を閉じる。けれど、全神経が唇に集中していくようで、却って逆効果だ。再び開くと、狂おしい程の情熱を秘めた紫色の瞳が、私を見ていた。途端に胸が苦しく息も絶え絶えになり、頭もボーッとなっていく。


 初めてのキスは、思った以上に長かった。彼の胸に手を置いて、はかない抵抗を試みるもあっさり却下。腰に手を回されて、さらに引き寄せられてしまう。

 しかもラファエルは、なかなか動きを止めてくれない。角度を変えた彼の唇、彼の舌が何度も私の唇を(ついば)みなぞっていく。噛んだ部分を癒すというより、最早(もはや)これは……


「……ラ、ラファエル」


 私は声をあげた。

 吐息のように小さな声しか出ないけど。

 だって、こんな感情は知らない。嬉しいけれど苦しくて、幸せだけどくすぐったくて。好きな人と触れ合える――ただそれだけで、こんなにも満たされた気持ちになるなんて!


「ニカ、好きだよ」


 ラファエルが、ようやく唇を離す。大きく深呼吸した私が息を整えていると、今度は優しく肩を押されクッションの上に横たえられた。彼はそのまま長椅子に足をかけると、なぜか(おお)(かぶ)さってくる。

 ギシッと鳴る音で正気に返った私は、慌てて飛び起きた。身の危険を感じたので手を突っ張り、必死に彼を止める。


「ま、待った!」

「どうしたの? ニカ。まだ軽くしか触れていないのに」

「いえ、もう十分よ。軽くとか重くとかじゃないし、婚姻前にこんなこと……。そろそろ戻らないと、舞踏会が終わってしまうわ」


 大広間はその後どうなったのだろう? フィルベールの起こしたボヤ騒ぎも、さすがにもう沈静化しているはずだ。戻らなければ、心配される。引き留めていた私が言うのも何だけど、王子がずっと不在なのは、おかしいと思う。


「舞踏会よりニカがいいな。もう少し、君に(おぼ)れていたい」


 好きな人の口から出る(つや)っぽい響きは、抜群(ばつぐん)の破壊力だ。ラファエルが色気たっぷりの笑顔を向けるから、ますます顔が熱くなる。でもここで、(うなず)くわけにはいかない。


「まったくもう! いい加減にして……」


 言い終わらないうちに、外から扉が開かれた。

 誰かと思えば噂の当人、護衛のクレマンだ。


「し、失礼しましたっ。まさかお二人がその……」


 まさか、とは? 

 護衛の言葉に、私は自分達を客観的に見てみることに。

 長椅子の上には王子と私。ラファエルは、上着を脱いでシャツを羽織(はお)っただけの状態だ。止めようとした私が、彼の裸の胸に手を置いて……

 違うから! 私が脱がせたんじゃなくて、彼が自主的に脱いだの。いい加減にしてっていうのは、やめてっていう意味よ!


「違っ……」


 手を引っ込めておろおろする私の横で、ラファエルが楽しそうにクスクス笑っている。そうかと思えば、クレマンの後ろからひょっこり顔を(のぞ)かせる者がいた。ソフィアだ!


「あら、ヴェロニカったら積極的ね」

「違うわ! これはその……」


 なんと言えばいいのかわからずに、私は口ごもる。義妹は笑っていて、()いているようには見えない。それどころか護衛と二人で顔を見合わせ、肩を(すく)めているようだ。護衛のクレマンもソフィアを止める様子はなく、微笑んでいる。それならやっぱり二人は……


「そうなんだ。ニカがなかなか私を離してくれなくてね」

「エル!」


 咄嗟(とっさ)に昔の呼び名で叫んでしまう。

 こんな時にふざけるのはやめてほしい。わざとらしく髪をかき上げたりなんかして、私が誘ったと勘違いされたら、どうしてくれるの!


「結婚の時期が決まったと思えば、もうそれ? 舞踏会を放ってまで二人でいちゃつくなんて、信じられないわ。せっかく今日は、私のデビューなのに」


 ぷうっと頬を(ふく)らませるソフィアはやっぱり可愛い。王子は本当にヒロインに未練はないのかしら? 見上げると、ラファエルと視線がかち合う。美しい紫色の瞳が、私を映した瞬間輝く。吸い込まれそうなその瞳に、私は目が離せない。

 すかさず、ソフィアの不満そうな声が飛んだ。


「ほら、見つめ合うのはあーとーで。エル、約束通りお父様に話してね? もちろんお母様にもよ。私としては、そっちの方が心配なんだけど……」

「こら、ソフィア。王子に対してなんて口をきくんだ。私が直接話すと言っただろう?」

「だって~すごく待ったんだもの。私だって早く幸せになりたいわ。エルは王子なんだから、彼のお墨付きがあれば十分でしょ?」

「だからといって無理にお願いするのは……」


 女の子らしく甘えた様子のソフィアと、苦笑交じりのラファエルの護衛。

 目にした不思議な光景に、私はポカンと口を開ける。普段いかめしい顔つきのクレマンは、ソフィアの前では表情豊かだ。一方ソフィアも彼の言葉にはおとなしく従うのか、それ以上反抗しないみたい。クレマンはソフィアが可愛くて仕方がないようだし、ソフィアも彼にぴったりくっついている。こうして見る限り、二人は意外とお似合いだ。


「大変失礼致しました。私達はこれで。どうぞごゆっくり」


 護衛のクレマンが挨拶し、会釈(えしゃく)した後ソフィアと共に姿を消した。それはいいんだけど、もしかして私、勘違いされたままなの?


「ごゆっくり、だって。じゃあニカ、続きをしようか」

「しません! 舞踏会に戻らないといけないわ。私達が二人になりたくて消えたのだと、みんなが誤解したらどうするの?」


 言ってて気づき青ざめた。

 二ヶ月後の挙式を宣言した直後、会場から姿を消した王子とその婚約者。二人きりで何をしていたのかと想像されでもしたら……


「もう遅いと思うし、このまま戻らなくても私は別に構わないよ?」

「私が構うの! こんなんじゃ、どこにもお嫁に行けないわ」

「そうだね。だからニカ、諦めて早くお嫁においで?」

 

 ラファエルの天使のような微笑みが、この時ばかりはなぜか悪魔のようにも見えてしまった。おかしいわ。どうしてこうなったの?

がっつきラファエル( `ー´)ノ(*ノωノ)。

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