表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第四章 めでたしめでたしの予定です
53/66

運命の舞踏会 5

 教会の荘厳なセレモニーとその後のことは、私にとってもいい思い出だ。翌日の二日酔いのことは、思い出したくもないけれど。


「羽のことを聞かれた時、私は考えを見透(みす)かされたのかと焦った」


 考えって、ソフィアを好きだってこと? 

 とっくに知っているんだけど。


「さっき話したように、王家の者には魔力がある。その大きさは、羽の大きさに準ずる」

「羽って……(あと)があるって噂は本当なの?」

「大抵の者はそうだ。だがごく(まれ)に、先祖返りを起こす者がいてね? 私がその最たる例だ。それだけに、一生を添い遂げる覚悟をした相手にしか見せてはいけない、とされている」

「自分の子を宿す者って、そういう意味?」

「そうだ。そして私は、既に見せている」


 急に胸が痛くなる。

 そうか。ラファエルはもうソフィアと……って、展開早過ぎない?


「はっきり言えば、見せた相手としか私は一緒になれない」


 このタイミングで婚約破棄?

 それならどうして、さっきみんなの前で結婚すると宣言したの?


「思い出して、ニカ。私はあの日、()()披露しているんだ」

「……え?」


 驚きで頭が真っ白になる。

 私はラファエルの背中を見たことがない。

 背中どころか、お腹だって……

 目を丸くする私を見た彼は、上着を脱いでクラバットを(ゆる)め始めた。次いでシャツのボタンを外す。


「ね、ねえ、今ここで脱がなくっても」

「実際に見た方が早いだろう?」


 細身の割には筋肉質だ。

 鍛えられた胸板と腹筋が、目に(まぶ)しい。

 恥ずかしいのに視線が外せず、ラノベの挿絵通りだと納得してしまう。でもどう考えても私には、ラファエルの羽の痕を見た記憶がない。このまま凝視するのは心臓にも悪いし、淑女としてもどうかと思う。明らかに人違いだ。


「勘違いよ、私じゃないわ」

「ニカ、君以外に誰がいる?」


 ラファエルは構わず服を脱ぎ、がっしりした上半身を(さら)す。

 次の瞬間、私は驚きに目を見開いた。


「……綺麗だわ!」


 思わず感嘆の声を上げてしまう。

 ラファエルは(あと)ではなく、天使のように大きな翼を持っていた。彼は私の顔を見据えたまま、翼を広げる。

 確かに私は、ラファエルの背中を見た覚えはない。けれど、純白の翼なら……あの夜の天使だ! 


「ラファエル、貴方は天使なの?」

「先祖返り、と言っただろう? 初代の王は『天使』と呼ばれていた」

「夢だと思っていたのに……」

「君はしたたかに酔っていた。私はそこにつけ込んだんだ」

「部屋に運んでくれた時のこと? それなら私を着替えさせたのって……」

「ごめんね、ニカ。それは私だ。どうしても君が欲しかった」

「……え」


 私は顔を引きつらせた。

 まさか、知らない間に子作りを?

 仰天した私を見て、ラファエルが苦笑する。


「違うよ、ニカ。さすがに酔った女性に手は出さない。私は君に翼を見せて、首元に印を刻んだ」

「印? じゃあ、この虫刺されって……」

「虫刺されというより、キスマークの方が近いかな? 魔力を使って所有権を主張する。君に危険が及べば刻印が守り、私に伝わる」


 さっきフィルベールが弾き飛ばされたのは、そのためなのね? それなら私はもしかして――


「私はもう、貴方のものなの? 他の人とは一緒になれないの?」


 知らない内にそうなっていたとは、あんまりだ。飲み過ぎた私が悪いんだけど、それだって元々は、ラファエルのことを考えていたせいなのに。

 眉を寄せた私を見て、ラファエルが一瞬泣きそうな顔をした。目を閉じた彼は息を吐き出し、再び目を開ける。


「そう、と言えればいいけれど。君は平気だし、一年以内に刻印も消える。だが私は……」


 何となくわかったような気がする。

 我が国の王家は、子供の数が少ない。

 魔力のせいかと思っていたら、羽の(おきて)のためだとは。印をつけた女性と夫婦になれなかったら、子供を持てないってことなのね? もしそうなら――


「ねえ、ラファエル。貴方、私と一緒になりたいの?」

「何を今さら。私は何度もそう言っている」

「で、でもあれは、からかっただけでしょう? 婚約者の演技や冗談で」

「演技をしたつもりも、冗談を言ったつもりもない。私は最初から、全て本気だった」


 いやいやいや、おかしいでしょう。


「それならソフィアは? 義妹との約束はどうなるの?」

「約束? ニカ、君の方こそ勘違いをしている」


 ここまで来てすっとぼけるなんて。

 それよりも、早く服を着てほしい。

 羽よりも裸の上半身が目の毒だ。そんなに大きな羽で、今までよく服が破けなかったと思う。

 私の視線に気づいたラファエルが、翼を畳む。


「気持ち悪くなかった?」

「いいえ、全然。それにしても美しい羽ね」

「魔力によるところが大きいから、飛べないし形だけだ。普段は身体の中にある」


 彼はそう言うと、翼をしまいシャツを羽織(はお)る。収納自由だとは羨ましい。ラファエルはやはり、本物の天使の一族だった。人間離れした美しさは、だからなのだろう。

 いけない。それより今は、ソフィアとのことを聞かなくちゃ。


「ねえ、勘違いって何のこと?」

「ニカ、ソフィアの相手を知っている?」

「ええ。以前ラノベで読んだし、本人からもしょっちゅう聞かされていたもの。貴方以外にいるとでも?」

「やはりそこからか。だから君は、ソフィアの名前をよく出していたんだね」

「えっ?」


 まさか違うの?

 だけどソフィアは、昔からずっとエルのことが好き。私の社交界デビューの日には、二人で抱き合ってもいたし。彼女から聞かされるのは、ラファエルのことばかり。ソフィアが天宮に通い続け、苦手だった勉強にも力を入れていたのは、彼のためだ。


 誘拐された時も真っ先に助けられていた。そのことに感激した義妹は、当時の様子を繰り返し私に語っている。

『胸の奥が温かくなったり、会えただけで苦しくなったり。彼が私に笑いかけてくれたら、それだけで生きていて良かったと思えるの』とはソフィアの言葉。『私には彼しかいない』と一途な愛を捧げてもいた。


 極めつけは、南部の教会から帰って来た日だ。天宮に引き返した私は、扉の隙間から言い合う二人を見てしまった。


『なぜ私達のことをお父様に告げてはいけないの?』


 必死なソフィアに対し、ラファエルが約束していた。


『舞踏会の後に必ず話す。だから私を信じて、待っていてほしい』


「全てをなかったことにしないで。いくら貴方でも、義妹の真剣な想いを(ないがし)ろにするなんて許さない!」

「ニカ、怒った君はますます綺麗だ。やはり明日にすれば良かったかな。あと二ヶ月も我慢するのは苦しい」

「そうやってごまかすつもり? 私はソフィアを蹴落としてまで、貴方と一緒になりたいなんて思ってないわ」


 ラファエルは私を見ながら、冷静に肩を(すく)める。


「それは残念。私は違うかな? たとえ周りを蹴落としてでも、君を手に入れたい」

「なっ」

「そうそう、ソフィアの相手の話だったね。もちろん私ではない。よく見ていればわかったことだ。彼女が好きなのは……」


 彼が告げた名に、私は固まる。

 ――完全に盲点だった。

さて、誰でしょう?


更新ペースちょっと落ちます。

大切に読んで楽しみにして下さっている方、すみませんm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ