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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第四章 めでたしめでたしの予定です
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運命の舞踏会 2

 舞踏会が始まった。

 大広間の天井から吊り下げられたシャンデリアが、(まばゆ)いばかりの光を放っている。幾何学(きかがく)模様の大理石の床には、緋色の絨毯(じゅうたん)が敷かれていた。絢爛豪華(けんらんごうか)な会場にいるのは、笑いさざめく貴族達。その誰もが王宮の舞踏会に出席するとあって、いつになく張り切り豪奢(ごうしゃ)な装いだ。


 コルセットをぎゅうぎゅうに締めつけているから? それとも、会場の色とりどりの衣装と人々が発する熱気のせい? なんだか、くらくらしてきたような気がする。


 けれどいくら気分が悪くても、私はここで退場するわけにはいかない。これからが本番で、物語の本編がもうすぐラストを迎えるから。この日のために私は、頑張ってきたようなもの。立派な悪役令嬢になろうと、そりゃあもう大変な努力をしてきたのだ。


 緊張している私は、(かたわ)らの婚約者を見上げた。金髪に紫色の瞳が特徴的なこの国の第一王子は、私と同じく十八歳。本当にいつ見ても綺麗な容姿をしている。


「どうした、ヴェロニカ。私の顔に何かついている?」

「いえ、別に」


 いつになく素っ気なく振る舞う私。でも別に、彼のことが嫌いなわけではない。というより、鼻筋の通った完璧な顔にかかった金色の前髪を、かき上げてあげたい衝動に駆られる。

 いけない、最後だからって気を抜いてはダメよね? 


 だってそれは、私の役目ではないから。彼の隣は本来、ヒロインである義妹(いもうと)のソフィアのもの。私は今から、彼に婚約破棄をされる身だ。それさえ済めば、今日を限りに二度と会うこともないだろう。彼には彼の、私には私の新たな人生が待っている。


 一瞬、胸に痛みが走る。

 そんなバカな! 感情を否定すべく、私は慌てて首を横に振った。


 私の相手は、王子ではなく看守なのだ。『水宮の牢獄』にいる年上で渋めの男性が、ずーっと前から決まっていた私の運命の人。元々彼に会うため、私は悪役令嬢を頑張ってきたのに。


 悔いのないよう、部屋もしっかり片付けてきた。牢獄にいつ放り込まれてもいいように、ここに来る前丹念に入浴も済ませてある。何を隠そう、身に着けているものも全て新品だ。準備はバッチリだから、これで心置きなく牢獄へ――本編終了後の番外編に行ける!


 ラファエルが、自分の腕に手を添えるよう身振りで私に(うなが)した。形だけとはいえ、一応私達はまだ婚約中。あと少し、ほんのわずかな時間だけれど。


 ――彼への想いはきっぱり諦めたはずなのに、やはり胸が痛い。私はどうすれば良かったのだろう。どうすれば、貴方に振り向いてもらえたの?


 婚約者と腕を組む私を、義妹がじっと見つめている。そう、彼が好きなのは私ではない。

 ごめんねソフィア、もう少しだから待っていて? まもなく王子は、完全に貴女のものになるのだから――


 ラファエルは、躊躇(ちゅうちょ)することなく私を連れて皆の前に進み出る。そして会場にいる人々を見回すと、凛としたよく通る声を響かせた。


「皆、よく聞いてくれ。私から重大な発表がある」


 ――思った以上に苦しくて、私は鋭く息を飲む。組んだ腕と反対の手を、爪が食い込むまで固く握りしめる。動揺してはいけない。最初から、わかっていたことでしょう?


 私は半ばやけくそ気味に、気持ちを奮い立たせた。

 いよいよね。待ってました、婚約破棄!

 この後私は、王子である彼に義妹への嫌がらせの数々と悪事を糾弾(きゅうだん)される。婚約を破棄されると同時に貴族社会からも追放され、牢獄へと連行される予定だ。

 悪役としての私は、捕まえられて終わり。


「長すぎる婚約は、互いにとって良くなかった。そのせいで、ここにいる私の婚約者は――」


 続く言葉を私はよーく知っている。


『信頼を裏切り自分の義妹を痛めつけ、悪事に手を染めた。よって、婚約を破棄する!』だ。




 今までのことを一気に思い返したせいなのか、ますます気分が悪くなる。耳を(ふさ)ぎたいけれど、ここは我慢だ。悪役令嬢として生きてきた私は、過去の(むく)いを正々堂々、自ら受けるべき。


 私の顔をチラリと見たラファエルが、笑ったようにも感じた。だけど問いかける前に彼は再び前を向き、大きな声を出す。


「――手に負えない程綺麗になった。よって、二ヶ月後には式を挙げようと思う。皆も盛大に祝ってくれ!」


 会場がシンと静まった後、一斉に祝福の声が上がる。歓声や拍手も聞こえてきたけれど、私は今のこの状況が全く理解できていない。


「嘘……」


 呆然とする私に、ラファエルが優しく語りかける。


「聞いての通りだ、ニカ。挙式は明日でも良かったが、思い直した。女性にはやはり、準備期間が必要だろう?」


 ……は?

 私にもわかる言葉で説明してほしい。

 祝辞を述べる国王には、機械的に挨拶を返す。何を言われたのかもさっぱり理解できず、上手くごまかせていればいいと思う。


 私達の婚約は、偽物だったはず。誘拐の証拠も提出したのに、なぜそういう話になるわけ? 


「どうして? 私はさっき証拠を渡して……」


 混乱したまま(つぶや)く。こんな展開、『ブラノワ』には絶対ない!


「証拠? 何のことだろう。不要な紙なら私がこの手で処分しておいた」


 ラファエルが、澄ました顔で答える。

 いや、誘拐をなかったことにしたらダメでしょう。


「そんな! あれは大事な……」

「気がつかなかったな。ここからは独り言だが……」


 言うなりラファエルは、私の耳に唇を寄せる。


「別室にいた令嬢達は、無事に保護し家に帰した。国外に行った者も手を尽くして探し出し、帰国の交渉中だ。主犯だけが逃げおおせているが、間もなく捕まる。君が攫われてくれたおかげで、事件はほぼ解決した」


 それは良かった……じゃなくて!


「私も一時仲間だったのよ? 悪いことをしたんだし、言い逃れはしないわ」

「ニカ、君の言う意味がよくわからない。攫われたのに、加害者のことを君は仲間と呼ぶの?」


 おかしいわ、話が全然通じない。それなら、一番大事なことを聞いてみよう。


「それならソフィアは? 義妹の気持ちを無視するつもり?」

「ソフィアの気持ち? どういうことだ」


 私は義妹に目を向けた。さぞやショックを受けて……。驚いたことに、ソフィアはまだ嬉しそうに拍手をしている。


「どうして? 貴方達は愛し合っているのでしょう?」

「私とソフィアが? まさか」


 ラファエルは、すぐに否定した。

 けれど私は、二人の親密な会話を聞いている。それについ先ほども、こちらをじっと見つめるソフィアの視線を感じていたのだ。


 ラファエルは大きなため息をつくと、強張った表情の私に手を差し出す。


「先ずは踊ろう。その後でゆっくり話を聞くから」


 納得できないものの、この場は彼の言う通りにするしかなさそうだ。

 国王夫妻を別とすれば、一番身分が高いのは彼だから。国王に踊るつもりがない以上、王子が踊らなければ舞踏会は始まらない。


 私は渋々ラファエルの手を取ると、広間の中央に進み出た。

コピペの中に真実が(*・ω・)ノ

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