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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第一章 悪役として転生してます
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エルとの出会い 4

 エルが番外編を知らないのも当たり前。彼女は私の話す『ライトノベル』という言葉も、初めて耳にしたようだから。先ほど『本』だと教えてあげたら、納得したみたい。だからこそ、本の世界に生まれ変わったと言う私を、変な目で見ているのだろう。

 ちなみにこの世界に、恋愛小説は存在しないらしい。義母も侍女も誰も知らないと言っていた。我が家の大きな図書室にあるのは学術書ばかりで、蔵書を隅から隅まで探してみても、それらしき本は出てこなかった。


 それにしても王子ったら、いったい何をしているのかしら? 影も形も見えないから、ソフィアを呼び戻すのはまだいいか。私は彼を待つ間、引き続きエルと話すことにした。


「番外編っていうのはね、本編――物語と直接関わらないおまけのようなものよ」


 それにはまず、本編を説明する必要がある。

 ヒロインのソフィアは銀髪で『白薔薇』と呼ばれていた。白薔薇のように汚れなく、美しく成長する。対するヴェロニカは黒髪で『黒薔薇』。こちらも美人だけど、腹黒くきついイメージだ。ラノベのタイトル『ブランノワール』は、そのまんま彼女達を表している。優しい司書が教えてくれたところによると、『白黒』という意味らしい。カッコ悪いので訳さずに、やっぱり『ブラノワ』で。


『ブラノワ』は、ソフィアと王子の恋物語だ。本編は彼らの出会いのシーンから始まる。

 ――公爵家の令嬢が、将来自分の結婚相手だと知らされた王子。彼はその子の八歳の誕生日に彼女に会いに行く。案内されて庭に行くと、銀髪で水色のドレスを着た可愛らしい女の子が、なぜか濡れて汚れている。幼いながらも可憐なその子に、小さな王子は目を奪われてしまう。


『ねぇ、何してるの?』

『何って……』

『君は誰?』

『私はソフィア。貴方は?』

『僕? 本当は名乗っちゃいけないって言われているんだけど……。君だけに教えてあげる。僕の名前はラファエルだ』


 その子が自分の相手だと思い込み、喜ぶ王子。ところが、二年後に婚約者として紹介されたのは、義姉のヴェロニカの方だった。王子はがっかりするものの、仕方がないと一度は諦める。けれど、偉そうに振る舞う黒薔薇に年々我慢ができなくなっていく。

 そんな時、側にいて彼を癒してくれたのは義妹の白薔薇だった。互いへの想いを心に秘めたまま、二人はどんどん惹かれ合う。


 黒薔薇ヴェロニカは、そんな王子と白薔薇の様子に気づいていた。


『みんなが私を愛さない。実の父親だけでなく、婚約者まで義妹に奪われるなんて!』 


 愛というよりプライドから、黒薔薇は二人の仲を裂くため策を練る。成長したヴェロニカは、幼い頃からのいじめに励むだけでなく、ソフィアを誘拐したり、男達に襲わせようと企んだり。そりゃあもう、真っ黒黒だ。でもそのたびに、王子が助けに現れる。


 そして、王宮での舞踏会当日。ソフィアが十六歳となり社交界デビューする日に、義姉のヴェロニカは婚約を破棄される。ソフィアへの嫌がらせと悪事を王子にバラされ、糾弾(きゅうだん)されるのだ。よくある勘違いなどではなく、全部本当のこと。証拠も全て(そろ)っていたために、ヴェロニカは『水宮の牢獄』に連行される。残った二人は結ばれて、めでたしめでたし。


「――っとまあ、ここまでが『ブラノワ』の本編よ。だけど私が好きなのは、その後に続く番外編なの」


 何のことだか全く意味がわからないはずなのに、小さなエルは私の話を熱心に聞いてくれる。時々(うなず)いてもくれるから、私は今とっても気分がいい。そういえば、このことを私はまだ誰にも話したことがなかった。だって前世を覚えていると言ったら、確実に頭がおかしいと思われてしまうもの。


 大丈夫よね? エルは主要人物ではなくモブだから。本編にも番外編にも出てこなかったはず。だから、エルに変だと思われようが私はちっとも困らない。それなら、と私はこの先の展開も彼女に話してあげることにした。


「王都は四つの地域に分かれていて、それぞれを(きゅう)と呼ぶの。北は王族が住まう天宮(てんきゅう)、この周りに貴族の屋敷も固まっている。それから南にある地宮(ちきゅう)、ここには一般の民が住んでいるわね。あとは西の火宮(かきゅう)で、処刑場や墓地がある。最後に一番大事なのが東の水宮(すいきゅう)、裁判所や軽犯罪者用の牢獄があるわ」

「よく知っているね」


 エルが目を丸くしている。知っているも何も、相当調べたんだから。私の知識は前世のラノベと今世の本で勉強して得たものだ。だから地理や時代背景も間違っていないはず。ただの妄想オタクではない。だけど褒められて嬉しくなった私は、素直にお礼を言ってみる。


「ありがとう。この話をしたのはね、水宮がすっごく素敵な場所だから」

「素敵? 裁判所と牢獄が?」


 あら、エルったら。一度聞いただけなのにすごいじゃない。裁判所と牢獄が、何をする所かわかっちゃいないでしょうけれど。まあいいわ、続きを聞かせてあげるわね。


「そう。特に水宮の牢獄は、滝のような大量の水に囲まれた場所。魔法で流れる水の勢いが強すぎて、囚人は出たくても出られないんですって」

「そりゃ、そうでしょ。牢獄だから」


 んまあ、エルったら生意気だわ! 

 少なくとも牢獄の意味は知っていたってことなのね。


「だけどね、そこの看守がすっごく優しくてカッコいい人なの。牢に入って彼に会いたい!」


 エルがしかめっ面になる。そうか、牢獄の意味を知っているなら憧れるのは変なのか。まして、子供の私がそこにいる大人を慕うというのは、すごくおかしいのかも。


「教えてあげる。あのね……」


 本編終了後の番外編で、私――ヴェロニカは連行先の牢獄で看守と運命的な出会いを果たす。彼の名はジルド。私より十歳年上だけど、すごくワイルドでカッコいい。『ブラノワ』は多くの人に借りられていたというだけあって、有名イラストレーターの挿絵がとても綺麗だった。もちろん、看守といえども例外ではない。


 ヒロインのソフィアが可愛くて、ヒーローの王子がイケメンなのは当たり前。でも、脇役達もみんな端整な容姿で、均整の取れた体つきをしていた。どこか陰のあるクールなジルドは、傭兵上がりの看守だ。ヴェロニカと接するうち、彼女に深く同情するように。


 表面的な愛情しか与えられず、実の父親からも婚約者の王子からも見捨てられた憐れな女性、ヴェロニカ。美しく誇り高い彼女は、誰よりも愛情を欲していた。そんな彼女と接するうちに、同情がいつしか愛情へ――

 ヴェロニカもまた、ジルドに対して徐々に心を開いていく。


「それでね、この後がとってもいいシーンなの」


 私はつい興奮して、前のめりになってしまう。


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