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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第四章 めでたしめでたしの予定です
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運命の舞踏会 1

 とうとうこの日がきてしまった。十六歳となったソフィアは今日、社交界にデビューする。

 一方私はこれから婚約を破棄され、牢獄に向かう。このために十年前から準備をしてきたのだ。王子を諦めるための努力もした。後悔なんてしていない――


 事前にラファエルから贈られたのは、真紅のドレスだった。不思議なことに私宛てで、ソフィアの分はない。義母が(あらかじ)め、ソフィア用の清楚な水色の衣装を用意していたためなのか。彼は直前で、義妹への贈り物を断念したのかも。

 ドレスは贅沢な生地で着心地も良く、装飾も豪華だ。スクエアカットで胸を強調するデザインだから、ちょっと恥ずかしい。恥ずかしいと言えば、首元の虫刺されがずっと消えずに赤く残っていて、パッと見キスマークのようだ。でも誰かにキスをされた覚えはなく、ずっと消えないのもおかしい。悪い病気でなければいいと思う。もう診てもらう暇はないのだから。




 天宮に到着した私とソフィアは、控室に通された。中にいたラファエルが、手を広げて歓迎の意を示す。さすがにソフィアも今日は緊張しているらしく、王子を見るなり膝を折り淑女の礼を取っている。私は彼を見た途端、胸が詰まって動けない。

 何も言えずに立ち尽くしていると、ラファエルの方から近付いてきた。


「ニカ、思った通りとても綺麗だ。君には赤がよく似合う」

「ごきげんよう、ラファエル。貴方こそ素敵よ」


 ラファエルの衣装、金糸の入った白の礼装姿は夢のように美しい。けれど素っ気なく振る舞うと決めた私は、感情を込めずに答えた。


「ソフィア、ようこそ。あの者に案内してもらうといい」

「ありがとうございます」


 え、それだけ? 

 二人共、なんだか堅苦しいような……

 ラファエルは、側にいた女官に頷きソフィアを託した。これからソフィアは国王に謁見するため、玉座の間に向かう。義妹に付き添って来たものの、舞踏会までの間私には時間がある。ラファエルと重要な話をするからと、わざと早く来たのだ。


「二人きりで話がしたいの。いいかしら?」

「君がそんなことを言うとは、珍しいね。もちろん歓迎するけど」


 私の希望を聞き入れた彼が、人払いを命じる。侍従や女官が出て行ったことを確認すると、私は持っていた袋から書類を取り出して、彼に差し出す。


「……ええっと、ニカ。何かな? これは」


 ラファエルは、戸惑いながらも目を通している。それはフィルベールから送られてきた手紙で、誘拐事件の証拠品。なぜか待ち合わせ場所の地図が紛失していたので、代わりに私のメモを渡す。ソフィアの誘拐を計画した私が、最初に書いたあのメモだ。


「何って、見ての通りよ? 私、フィルベールや彼の仲間と関係があったの」


 悪役っぽく偉そうに言ってみる。

 口に出して気づいた。今ちょっと、エッチっぽく聞こえなかった?

 ラファエルもそう思ったのか、彼の目に一瞬、強い光が灯る。


「誘拐された時のこと? まさか、無理強いでもされた?」


 だから違うってば! 

 そっちじゃなくって……

 彼は大して驚きもせず、淡々としている。私のことを好きじゃないからだろうけど、ここは一つ名誉のために訂正しておかなくちゃ。


「違うわ。変な意味じゃなくって、仲間って意味。私が彼らに頼んでソフィアを(さら)わせたの」


 仰天するかと思いきや、彼は軽く肩を(すく)めただけだった。


「それはそれは。君も攫われていたようだけど? でも、いたずらにしては度が過ぎているね」

「そうね」


 唇を噛んでラファエルを見た。

 私もそこは反省している。自分の欲のために、ソフィアを危険な目に遭わせたのだ。「愛するソフィアに何てことを!」と、なじられても仕方が無い。激しい叱責を覚悟した私は、思わず身構える。

 けれどラファエルの表情は穏やかで、いくら待っても反応がない。そんな彼に私は思わず問いかけた。


「ええっと……それだけ?」

「それだけ、とは?」

「いえ、別に。もっと責めるかと思って」

「せめる? まあ、せめるべきは今じゃない、かな」


 どういう意味だろう? 

 考えた私は、次の瞬間納得する。

 ――そうか! 大広間にいるみんなの前で私を責めないと、婚約を破棄できない。ラノベのストーリー通りなら、私は大勢いる貴族達の前で悪事を糾弾されるのだ。


「そう、楽しみにしているわ。それと、今までありがとう。貴方の婚約者というのも、案外悪くなかったわ」


 こんなセリフ『ブラノワ』には出てこなかった。けれど、さよならの代わりに私は告げる。

 どんなに離れ難くても、今日を限りにラファエルと会うことはない。捕まった私は牢獄でジルドと出会い、愛を深め合う。その後国外へ逃亡するから、この国には二度と戻らないのだ。


 紫色の瞳に静かな光を湛えたラファエルが、私をじっと見つめていた。その顔はどこか、悲しそうにも見えて。


「まだ諦めていなかったのか……。こちらこそ、今まで楽しかった。いや、苦しくもあったかな?」


 ラファエルが目を細める。

 そのつらそうな表情を、慰めてあげたい。

 けれど――


 伸ばしかけた手を下ろす。だって彼は、ソフィアのものだ。苦しいと言ったのは、彼女との関係を内緒にしていたせいだろう。彼の苦しみは今日で終わり。私との婚約がなくなれば、堂々とソフィアに求婚できる。それに比べて私は……


 いけない、良いことだけを考えよう。

 看守のジルドに会えたなら、私はすぐに惹かれるはず。水壁越しの恋、牢獄でのじれじれラブ。渋いイケメンの魅力にときめき、くらくらするだろう。その時私は本当の意味で、ラファエルを忘れられる。


「ねえ、ニカ。君に伝えておくことがある。実は……」


 彼が言いかけたところで、扉が勢いよく開く。女官の制止を、ソフィアはものともしないようだ。


「ふう、疲れた~。緊張したけど、上手くいったと思うわ。あら、お話中?」


 私は首を横に振る。だって、ラファエルがソフィアを好きなことはもうわかっている。わざわざ口にしなくても、邪魔しないから大丈夫。


「ヴェロニカ、これは私が預かっておく。じゃあ後で」


 ラファエルもこれ以上の話は諦めたのか、証拠品を手にしたまま部屋を出て行く。その後ろ姿を、私は黙って見つめた。この後いよいよ舞踏会。そこで本編での、私の出番は終わる。


 原作通りならヴェロニカが手引きをした悪党達がここで乱入し、ソフィアに破廉恥(はれんち)な行為をしようとする。怖くて声も出せずに震えるソフィアを、悪役令嬢ヴェロニカが柱の陰からこっそり(のぞ)く。けれど間一髪、王子が乗り込みソフィアを助けるのだ。


 でも今回、私は悪党達を手配した覚えがなく、そのシーンは当然カット。証拠品も既に提出済みだから、これ以上罪を重ねれば火宮の刑場送りとなってしまう。それだけは、避けねば。

 そこで私は、大変なことを思い出す。


 ラファエルに減刑をお願いするの忘れてた。連行先が、水宮の牢獄じゃなかったらどうしよう?


次からいよいよ……(`・ω・´)

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