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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第三章 本格的に悪事を働くつもりです
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悪役はつらいよ 15

いつもありがとうございます。

夕方の更新にしてみました('◇')。

 ――わけもなく。

 あてがわれた部屋の長椅子の上で、私は朝から頭を抱えていた。


「まだガンガンするわ! 二日酔いってこんなにキツイの?」

「ふつかよい? 大酔(おおよ)いのことですか?」

「こっちではそう言うのね」

「こっち、とおっしゃいますと?」

「いえ、何でもないの」


 私の担当女官は、すごくいい人だった。冷たい水を渡してくれたり、水に浸した布を目に当ててくれたり。こんなに酷い状態なのは、夕食でワインを飲み過ぎたせいだから、完全に私の落ち度だ。

 夕食の途中からほとんど記憶がなく、気づけば部屋にいた。そのため、自分で服を着替えたことも全く覚えていない。首元の虫刺されにしたってそう。赤くなっているけど(かゆ)くないのが幸いといえば幸いだ。

 唯一思い出せるのは、明日からまたいつもの自分でいようと言い聞かせたことだけ……って、既に無理だわ。


「うう、痛い。まろやかで美味しかったけど特産ワイン、恐ろしいわね」


 私は額に手を当てる。自力で部屋に戻れたくらいだから、酔って大暴れなんてしてないわよね? もう少しで偽婚約者としてのお役も御免なのに、最後に大ポカをやらかした感じだ。まあ、酔ったくらいで婚約破棄にはならないと思うんだけど。

 ノックの後、返事を待たずに誰かが部屋に入ってきた。


「もうすぐ出発だ。ニカ、具合はどう? おや、目の周りが赤いね」

「ラファエル! そんなはっきりと……」


 ()れぼったくなるほど深酒した自分が、非常に恥ずかしい。


「帰りは馬車をゆっくり走らせよう。何なら私と二人で、もう一泊していく?」

「しません!」


 女官もいるし、そういう冗談はやめてほしい。ただでさえ頭が痛くて、答える気力もないのに。


「まあいいか。弱ったニカもすごく可愛いかったし」

「なっ!」

「あら」


 ラファエルったら、何てことを言い出すの。女官を赤くさせてどうするつもり? 私と仲のいいフリなんかしたら、後が大変よ? 婚約者がソフィアに代わった時に言い訳するのは、貴方なんだから。

 それになんか今、聞き捨てならないセリフを聞いたような気が。


「ちょっと待った! 弱ったって?」

「秘密。でもニカを部屋に運んだのは、私だから」

「え? じゃあもしかして、着替えさせたのも……」

「さあ、どうだろう?」


 笑いながら部屋を出て行くラファエルは、何だか機嫌が良さそうだ。問いかけるような目を女官に向けたところ、微妙な感じで笑われた。ま、まさか!?

 冷静になって考えよう。ラファエルが、私の着替えごときで上機嫌になるはずはない。私のドレスを脱がせたのは女官で、彼が嬉しそうなのは、もうすぐソフィアに会えるから。きっとそうだ、そうに違いない。




 私達を乗せた馬車は、日暮れになってようやく天宮に到着した。いえ、二日酔いのせいではなく、休憩を多めに取っただけ……って、やっぱり私のせいなのね。

 ラファエルはぐったりしている私を見て、自分にもたれかかればいいと言ってくれた。本調子でない私は、彼の言葉に甘えて素直に肩を借りる。おかげでなんとなく回復したみたい。お酒はもう、飲み過ぎないように注意しよう。


 馬車を降りた私達は、国王に報告するため玉座の間に向かった。途中、廊下で待っていたソフィアが駆け寄って来る。


「ご無事のお戻り、何よりです。待ちきれなくて、来ちゃった!」


 ソフィアは今日も可愛らしい。

 秋に社交界デビューをする義妹は、花が(ほころ)ぶように綺麗に笑う。


「ただいま。クレマン、ソフィアの相手を頼む」


 ラファエルは片手を上げ、護衛を呼び寄せる。ベテランの護衛に頼むあたり、彼が義妹を大切に思っている証拠だ。ソフィアも王子の仕事の邪魔をしたと気づいたのか、頬を赤くして反省し、護衛に導かれるまま素直について行く。


「もう少しお話しても良かったのよ?」

「話す? どうして?」


 言葉は要らないということだろうか。それとも公務を優先しなくてはならないから、ソフィアとの時間は後でゆっくり取るってこと? 

 どちらにしろ私には関係がなく、これは二人の問題だ。胸の痛みは無視しよう。


 これから先『ブラノワ』では、王子と白薔薇のシーンが続く。白薔薇が義姉を不幸にするわけにはいかないと(なげ)き、王子はそんな彼女に心配は要らないと慰める。

 ヴェロニカが次に登場するのは、ソフィアの社交界デビュー当日。暴漢に襲わせたソフィアを、陰からこっそり眺めるのだ。その後、物語はクライマックスを迎える。


 だけどもう、そんな気はない。愚かな自分に気づいた私は、悪事をやめることにしたから。

 ストーリーを知る私でも誘拐は怖かった。ソフィアはさぞ恐ろしかったことだろう。ラノベでは平気でも、現実なら確実にトラウマレベルだ。


 自分もいじめられたことがあるくせに、ソフィアをいじめようとしていた私は、人として最低だった。悪役令嬢になりたいという、自分の欲だけを優先していたので。

 その考え方は、前世で私をいじめていた浅はかな連中と同じだ。気に入らないことがあったからとか、異質な者を排除したいという、自分勝手な欲求。そんな欲を満たすためだけの理由と、何ら変わりはなかった。


 自分がされて嫌なことを、他人にしてはいけない。逆に自分がされて嬉しかったことを、周りの人にしてあげたいと思う。私は南部の教会で、そのことにようやく気づいた。


 悪役令嬢が輝けるのは、本物のラノベの中でだけ。現実世界で同じことをすれば、ラファエルの言う通り、重犯罪者で火あぶりとなってもおかしくない。それに、王子が助けに来るとわかっていても、ソフィアを危険な目に遭わせるわけにはいかないのだ。


 婚約破棄まであと少し。

 ここまで来れば私が悪役にならなくても、二人はくっつくはず。ラファエルに会えて嬉しそうな顔をしたソフィアを見た時に、私は確信した。


 番外編で愛されたい。

 それが十年前からの私の願望だった。

 だけど私は自信がない。これから出会うジルドに私はときめくの? なぜなら、今の私が好きなのは――


「ヴェロニカ、いいかな? 今回のことは父も喜ぶと思う」

「ええ。行きましょう」


 考えごとをしている場合ではなかった。私はまだ彼の婚約者なのだ。最後の報告をするために、私は玉座の間に足を踏み入れる。


 理路整然と話すラファエルの隣で、頷くだけで良かった。大して時間もかからずに公務の報告を終える。ラファエルの言った通り、国王は満足そうだった。

 ただ一つだけ、「見せたのか?」という王の問いに、彼が「はい」と答えた意味がわからない。万一着替えのことだとしたら、見せたのは私だ。まあ、見たくもなかったでしょうけれど。だからたぶん別の話。彼は私の知らない所で、司祭様に重要書類を見せたのかもしれない。


 退室した私は、ほうっと息をはく。

『ブラノワ』では、当分ヴェロニカの出番はない。この後は王子と白薔薇が、愛を確かめ合う。寂しくもあるけれど、仕方のないこと。ソフィアが別室で、ラファエルを待っている。


「用事を思い出したの。もう帰るわね」

「疲れが取れていないのかな? ニカ、無理しないで」

「ありがとう、ラファエル。楽しかったわ。さようなら」


 想いを込めて口にする。

 最後くらいは笑顔で別れたい。

 次に会うのは舞踏会。彼はそこで私を棄てて、ソフィアを選ぶ。

 つらくなるので、見送りは断った。本物の悪役には程遠くても、ヴェロニカへの憧れが減ったわけではない。最後まで、泣かずにいたいから。




 一人で馬車に乗ろうとした瞬間、ふと考える。

 もし悪役令嬢をやめた私が、ただのヴェロニカとしてラファエルに好きだと打ち明けたら? 想われている可能性はゼロに等しいとしても、何か言ってくれるのではないだろうか?


 天宮に戻った私は、王子が執務室にいると聞き、慌てて向かった。仕事中だと悪いので、扉を静かに開ける。隙間から、こちらに背を向けて立つラファエルの姿が見えた。ドキドキしながら足を踏み出そうとしたところ、興奮したソフィアの声が聞こえてくる。


「どうして? どうしてまだなの?」

「言いたいことはわかるが、あと少し待ってほしい」

「もう、エルったらいつもそればっかり! なぜ私達のことをお父様に告げてはいけないの?」

「物事には順序がある。それでなくとも相手は……」

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