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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第三章 本格的に悪事を働くつもりです
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悪役はつらいよ 10

 魔法石を革紐から勢いよく引きちぎった私は、すごい速さで床に叩きつけた。割れた瞬間、大きな火柱が立ち昇り、辺りは赤に包まれる。

 火柱は徐々に私とソフィアを取り巻くと、炎の壁を形作った。私達は円の中心、男達は壁の外だ。


「くそっ火傷した。何だこれは、早く消せ!」

「熱くて近づけない」

「水だ、水がいる」

「早くしないと焼け死ぬぞ!」


 騒ぐ男達に比べて、私達は涼しい顔だ。魔法でできた炎だからか、こちら側はちっとも熱くない。赤い炎のせいで視界が悪くなるのが、難点と言えば難点だけど。


「びっくりしたわ。魔法の石に、こんなにスゴイ仕掛けがあったなんて」


 私を案じて叫び声を上げたソフィアが、今度は感心したように呟く。

 魔力を持つ本人がいなくても使えるなんて、よく考えればすごい仕掛けだ。だけどラファエルのこの魔法って、どのくらい保つのかしら。


 バタバタと走り回る男達。彼らが開け放した扉の向こうから、カラスの鳴き声が聞こえたような気がする。そういえば、捕まる前もカラスを見た。どこで見たんだっけ?


 私はふと、さっきの会話を思い出す。男の一人が『馬車を無駄に走らせろってどういうことなんだ? 今回に限ってボスは何でそんなことを』と言っていた。

 もしかして今、走らせる必要のなかった場所にいるのだとしたら?


 フィルは、待ち合わせ場所の地図を燃やすように手紙で指示してきた。でも、隠れ家の地図を処分しろとは一言も言っていない。普通は逆のはずよね? 

 目隠しをされていても、馬車がずっと石畳の上を走っていることはわかった。田舎だったら土の上を通るから、もっと揺れたに違いない。

 それに、郊外に行くには検問所を通るけれど、馬車は一度も止まらなかった。だったらここはまだ、地宮と呼ばれる王都の中。


 快適な郊外の隠れ家だなんて、とんでもない。私達がいるのは、カラスが飛び交う陰鬱な場所。攫われる直前に見た崩れた館だ!


「早くしろ、ぐずぐずするな」

「水をかけても消えねえ。何なんだ、これは」

「お前試しに飛び込んでみろ」

「はあ? 何で俺が」


 炎の向こうから男達の話し声が聞こえる。

 けれど助けは、当分期待できない。

 仮に誰かが私の仕業であると考えついたとしても、証拠は全て私の部屋の机の中だ。


 そこには鍵がかかっており、鍵を探すだけでも一苦労。無事に引き出しを開け、手紙や地図を調べたところで、きっとわからない。

 だって私は、郊外の隠れ家だと言われた方に花丸をつけていた。見た人はそっちを疑い、優先的に探すだろう。近くにいるとは気づかずに、ここはきっと後回し。


 いけない、火の勢いが弱まってきたような気がする。小さな魔法石では、やはり限界があるの?

 このままここにいるのは危険だ。ソフィアだけでも逃がそう。私が身体を張って彼らを引きつければ、義妹の足なら遠くへ行ける。


「ソフィア、よく聞いて。火が消えた瞬間、私が飛び出すわ。その隙に、貴女はここから急いで逃げなさい。外に出たら後ろを振り返らずに、建物を背にして走るのよ」

「そんな! ヴェロニカは?」

「私なら大丈夫。貴女には内緒にしていたけど、もう一つラファエルからお守りをもらっているの」


 もちろん嘘だ。魔法石は一つだけで、その一つも魔力が尽きかけている。

 囮になるのは考えただけで怖い。けれど、自分の不始末は自分で責任を取らなければ。悪役令嬢たるもの、自らの過失でヒロインを失うわけにはいかないのだ。

 私が悲壮な決意をしたその時――


 ドカドカと大勢の足音がして、人がなだれ込んで来た。まさか増援なの?


「何だ、お前ら」

「うわっ、待て。やめろ!」


 男達は慌てふためいているようで、椅子の倒れる音や必死に逃げ惑う声が聞こえてくる。後に響く声には、何だか聞き覚えがあるような。


「観念しろ! 他に潜伏していた者も既に捕えている」


 気分が悪くなるような鈍い音に続き、男達が(うめ)いた。音が止んで静かになったかと思うと、不意に炎が消える。

 目に映るのは横たわる犯人達で、その横で兵士が彼らを縛り上げている。指示を出すのは、傷一つない王子様――良かった、助けに来てくれたのね!


 私は安堵のあまり力が抜けて、ぺたんと床に座り込む。反対にソフィアは元気を取り戻し、はしゃいでいるようだ。ラファエルの護衛はソフィアに走り寄ると、彼女を腕に抱え上げた。


「怖かったわ。助けに来てくれてありがとう」


 ソフィアが可愛くお礼を言う。

 まあ、そうよね? ヒロインだから、もちろん一番最初に救出されなくっちゃ。でもソフィア、そこは護衛じゃなくって、王子に直接抱きつくところ……


 疲れて頭が回らない。

 とりあえず、王子が助けに来たからいいのかな? ソフィアもラファエルの護衛も、嬉しそうに笑っているし。


 だけどラファエル自身は、複雑な表情でこちらを見ている。もしかして、ソフィアを連れ出した私に怒っているの?

 再び目が合うと、ラファエルは大股で近づいて来た。床に膝をついた彼が、座ったままの私を抱きしめる。


「ニカ、君が無事で良かった」

「ラファエル……」


 怖い思いもしたけれど、彼の腕の中は安心する。ホッとしたようなその声に、ようやくもう大丈夫なのだと肩の力を抜く。ラファエルの魔法のおかげで、私とソフィアは命拾いをした。


 このドキドキは、気のせいだ。いわゆるつり橋効果で、ときめきなんてものじゃない。恐怖を感じた後なので、たまたま彼の顔を見て、胸が苦しくなったのだろう。ヒロインを危険な目に遭わせた私に、ときめく資格はないのだから。


 私はラファエルの肩に手を置いて、距離を取ろうとする。けれど彼は私を引き寄せると、私の髪に何度もキスを落とした。

 ねえ、ラファエル。それだとまるで、本物の婚約者みたいよ? どうしてこんな時にまで、演技をしようとしているの?

 こんな風にされたら、勘違いしてしまう。貴方がソフィアではなく、私の方を心配しているのだと。


「ラファエル、もう」

「ニカ、私は……」

「ソフィアは? どこにいるのかしら」


 私は彼の言葉を遮った。これ以上、王子と親しくするわけにはいかない。私を愛してくれるのは、看守のジルドと決まっているのだ。ヒロインの相手と必要以上にくっつくのは、精神的にも良くないと思う。


 辺りを見回した私は、本当にソフィアを探す。義妹の姿はどこにも見えず、代わりに縛られた犯人達が連行されて行くのが見えた。その中に、私を騙した人の姿はない。


「ソフィアもだけど、フィルもいないみたいね。彼はもう連れて行かれた?」

「ニカ、あいつのことが気になるの?」

「まさか、そんなわけないじゃない! でも、さっきまでここにいたのに……」

「そうなのか? 私が来た時には、姿が見えなかった。逃げたとしても、こちらには証拠がある。彼が捕まるのは時間の問題だろう」


 証拠って?

 それなら私も、一緒に捕まるということなのかしら。

すみません。体調不良のため、少しペースを落としますm(__)m。

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