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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第三章 本格的に悪事を働くつもりです
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悪役はつらいよ 9

 ところが、戻って来たソフィアの手首はきっちり縄で縛られている。今度は身体の前で。


「残念、失敗しちゃった」


 悪びれずに舌を出すソフィア。


「トイレの窓を探していたの。そしたら、見つかってしまって」

「ここから逃げ出そうとしたの? そんなことしたら、危ないじゃない」


 万一出られたとしても、ここがどこなのか全くわからないのだ。逃げ場もないし、走ってもすぐに追いつかれてしまう。


「何とかなるかなーって。だけどダメだったわ。窓がなかったから、ここは地下みたいね」

「え?」


 ソフィアなりに、現状を把握しようとしたのだろう。さっきまで泣いてばかりいた義妹も、どうやら諦めてはいないようだ。だったら私も頑張るわ。


「お願い、私もトイレに行きたいの」

「本当か? そっちの娘と同じように、逃げようとするんじゃねーだろうな? まあ、無駄だが」

「違うわ、ねえ、早く!」


 ソフィアの時はあっさりだったのに、私の時はなかなかほどいてくれないなんて、差別だと思う。『ブラノワ』では――って、そもそもヴェロニカは加害者側だった。攫われた経験などないから、私のラノベ知識は全く当てにはならないようだ。

 だけど、手が自由になったらこっちのもの。何が起こるかわからないけれど、とりあえず魔法石を投げつけよう。



 縄をほどくのを待つ間、私は油断させるために話しかけてみることにした。


「目隠ししていてわからなかったけれど、結構遠くまで来たのかしら?」

「さあな。答えると思うか?」

「無理でしょうね。でも、自分がどこにいるかわからないのってすごく不安で……」

「明日にはきれいさっぱり忘れるさ」

「どういうこと?」

「おおっと、変な動きをするんじゃねーぞ。硬いな、切らねーと無理か?」


 文句を言う男に気を取られていた私は、入って来た人物に気づくのが一瞬遅れた。


「いいよ、僕が代わろう」

「ボス!」

「お早いお戻りで」

「お疲れ様です」


 その人物を見た途端、私は言葉を失い後ずさる。こんなことって……


「どうしました、ヴェロニカ嬢。まさか僕の顔を忘れてしまった、とか?」


 嬉しそうにクスクス笑うのは、私のよく知る人物だった。


「なっ、でも……あれ、ええっ!?」


 どうして彼がここにいるの? 手配だけだったはずでは?

 彼は今、ボスって言われていた。信じたくはないけれど、それなら世間を騒がせている人攫いって……


「ふふ、驚いているようですね? でもまあ、仕方がありません。この僕も、まさか誘拐の手配を頼まれるとは思っていませんでしたし」

「フィル!」


 彼こそソフィアを誘拐するために手を貸してほしい、と私が頼んだ人物だった。可愛らしい顔をしているのに、悪党の仲間だったなんて。いえ、ボスだと言われていたから、彼は悪党の上に君臨しているのだ。


「ねえ、ヴェロニカ。彼とは知り合い?」


 ソフィアが不思議そうな顔をしている。それもそのはず。彼とは手紙でやり取りしていただけなので、ソフィアに引き合わせたことはない。それに私も彼のことを知っているようで、全くわかっていなかったのだ。


「ええ、一応」

「ひどいですね。綿密に打ち合わせた仲なのに」

「まあ!」


 いや、違うから。ソフィアったら、顔をキラキラさせてこちらを見るのはやめてほしい。


「それなら、助けてもらえるわね!」


 純粋なソフィアが(まぶ)しい。

 でもこれは、全て私が招いた結果だ。見せかけの悪事を頼んだ相手が、本物の悪人だったなんて……

 話を聞いた感じでは、攫うだけでなく売り飛ばすこともしているらしい。このままでは、私もソフィアも二度と家には戻れないだろう。私はよくてもヒロインがいなくなれば、父も義母もあの人もひどく悲しんでしまう。


「さあ、それはどうでしょう? 君のお義姉さん次第かもしれませんね」

「ヴェロニカ次第?」


 フィルはそう言い、唇を噛む私を面白そうに見ている。

 こんな時なのに、私はラファエルの同じような表情を思い浮かべてしまう。紫色の瞳は、もっと優しく温かかった。少なくとも人を見下すようなこんなに冷たい目を、したことがない。私は心の中で彼に語りかけた――ねえラファエル。ソフィアをお願いね?


 愚かな私に巻き込まれたソフィア。

 彼女だけは、絶対に助けないと。

 交渉次第で逃がしてくれると言うのなら、何でも聞こう。引き換えに命を差し出せと言われても、構わない。ソフィアさえ無事に帰れるのなら!

 深呼吸をした私は背筋を伸ばし、フィルの瞳をまっすぐ見つめた。


「いいわ。貴方は私に何を望むの? 言ってちょうだい」


 悪役令嬢たるもの、悪人の前でびくびくしてはいけない。常に堂々としなければならないのだ。


「さすがだね、美しい人。僕が見込んだ通りだ」

「はぐらかさないで。要求は何?」


 身代金? 命? それとも悪役として仲間になれ、とか?


「相変わらず手厳しい。いつもこうなのかな? それでは婚約者の王子も可哀想……」

「彼は関係ないでしょう? まさか、自分の望みもわからないの?」

「僕にそんな口を聞いていいとでも? まあ、強気な貴女も十分魅力的だけど」


 褒められてもまったく嬉しくない。

 怒りを(こら)えるので精一杯だ。


「睨まないで。綺麗な顔が台無しだよ。そうだな、貴女が僕のものになるのなら。それなら、大事な義妹さんを今すぐ解放してあげよう」

「へっ?」


 予想していなかった答えのため、素っ頓狂な声が出る。自分で言うのも何だけど、ソフィアではなく私を欲しがるなんて悪趣味だ。


「まさか、私のことが好き……」


 驚きのあまり言葉が先に出る。

 失言に気づいたのは、口から出た後のこと。


「そうかもね。僕は貴女のことが、好きなのかも」

「なっ」


 まさか本物の悪人から、愛の告白をされるとは思わなかった。こんなの、ラノベのどこにも載っていない。

 だけどダメ。私の心はジルドのものだから。っていうより、義妹の解放と引き換えに脅すなんて、人としてどうかと思う。けれどここで私が頷かなければ、ソフィアは逃げられないのだ。それなら当然、答えは一つ。


「そう。だったら貴方のものになるわ。ソフィアをすぐに解放してあげて」

「喜んで」


 フィルは言うなり、なぜか懐に手を入れる。薄ら笑いを浮かべた彼は、ナイフを取り出した。どうして!


「おや、どうしたの? 美しい人。納得がいかないような顔をしていますが、解放してほしいんでしょう? 魂を」

「違うっ!」


 私は驚きソフィアの前に走り出た。いざとなれば、身体を張って彼女を守ろう。手は動かなくても、足は自由だ。

 フィルは一歩ずつ、私達の方ににじり寄って来る。ソフィアは私の背中に隠れると、一生懸命手を動かしているみたい。そうか、そういうことね?


「邪魔ですよ。どかないと貴女が傷つきます」

「待って。一つだけ聞かせてほしいの。なぜ貴方は、こんなことをしているの?」


 間に合ってほしいと思いつつ、無理な時は義妹だけでも助けようと心に決める。


「なぜ? それは、女性が嘘をつくからですよ。迎えに来ると言ったのに……」


 寂しそうに笑うフィルは、こちらを向きながら遠くを見ているようだ。彼は誰のことを言っているのだろう。もしかして、大事な(ひと)のこと?


「ああ、貴女は彼女に似ているかも。嘘つきな赤い唇がそっくりだ。気が変わりました。貴女を僕のものにしましょう。永遠に――」


 縄が外れた!

 彼がナイフを振り上げるのと、私が魔法石に手をかけるのは同時だった。


「いやーーー!」


 ソフィアの絶叫が聞こえる。

 辺りは赤に包まれた。

 

まさかのサスペンス回Σ(・□・;)。

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