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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第三章 本格的に悪事を働くつもりです
40/66

悪役はつらいよ 8

 *****


 何をどう間違えたのかしら?

 私は冷たい石の床に転がって一生懸命考えていた。


 ソフィアと私が目隠しをされたまま馬車に乗せられ、連れて来られた場所。それは快適と言うには程遠く、じめじめしていてかび臭い。石の壁はひび割れているし、天井もくすんで所々水が滴っているようだ。申し訳程度に敷かれた絨毯(じゅうたん)は、()り切れてボロボロだった。私達はそんな場所に、二人だけで置き去りにされている。

 快適な郊外の隠れ家、どこに行った?


 目隠しは外されたけど、両手と両足の自由は奪われたまま。麻のような縄で背中側に回した手首、それと足首を固く結ばれている。チクチクするし、動かせそうで動かせない。手を引き抜こうと試みるものの、ちっとも(ゆる)くならないし、擦れて手首の方が痛いのだ。


 ソフィアは、連れて来られた当初から泣いていた。現状を全く予想していなかった分、義妹の方が恐ろしい思いをしたのだろう。大きな青い目に涙をいっぱい浮かべて震えている姿は、見ている私の方が苦しくなった。泣き疲れたソフィアは眠ってしまったみたい。


 それにしても、これはいったいどういうことなの?

 フィルとの打ち合わせでは、ソフィアだけが攫われる。快適な隠れ家に監禁……というより軟禁されて、VIP待遇で王子の助けを待つはずだったのに。隠れ場所の地図も貰ったし、間違えないように大きく花丸までつけておいた。だけどここは、どう見ても田舎の一軒家と言うより、忘れ去られた廃墟のようだ。

 男達の声が聞こえて来たので、私も咄嗟(とっさ)に寝たふりをする。


「馬車を無駄に走らせろってどういうことなんだ? 今回に限ってボスは何でそんなことを」

「しっ、声が大きいぞ。聞こえたらどうする」

「心配ねぇ。二人共、泣き疲れて寝ているんだろうさ。まあ、黒髪の方はあんまり泣かずに固まっていただけだが」

「こいつらも売るのか? もったいないねーな。身代金を要求した方がよっぽど(もう)かるのに」

「ボスの方針だから、仕方がない。貴族にたんまり恨みがあるんだろう」


 聞こえてきた話によると、ボスはとんでもない人物らしい。家族に知らせてお金を手にするより、売り飛ばした方がいいと考えているなんて……ってことは、もしかして彼らは本物の人攫い!? 偶然同じ黒塗りの馬車で、偶然同じ所を指定してきた。私達は運悪く、巻き込まれてしまった……

 そんなわけはない。だとしたら、フィルは(ちまた)で騒がれている犯人に誘拐を依頼してしまったのかしら。だから私まで、ソフィアと一緒に攫われたの?


 前言撤回――フィルを有能だと言ったこと、無しで。最後の最後で本物に頼むというミスを犯すなんて、悪役令嬢の協力者の風上にも置けないわね!


 とにかく、何とか逃げ出す方法を考え出さないと。このままここにいたら、いずれどこかに売り飛ばされてしまう。何よりソフィアが可哀想だ。彼女がいなくなったことに気づけば、ラファエルだってすごく悲しむ。

 彼のことを考えた時、私は魔法石の存在を思い出した。あれってお守りだって言ってたし、何かあれば叩き壊すように教えられてたわよね? 今がまさにその時なんじゃあ……


「うう……」


 いいことを思い出したと喜んだのもつかの間。自分の姿を見て絶望した私は、思わず呻いた。

 手と足を縛られているため、叩き壊すどころか取り出すことさえできない。それに、変な動きをすれば、たちまち見つかり取り上げられてしまうだろう。


「何だ、嬢ちゃん。目が覚めたのか?」

「よく見ればべっぴんさんだよな。そのまま売るのが惜しいくらいだ」

「こらこら。そんなことを言ってボスにバレたらどうする?」


 三人組の二人は体格が良く、一人は普通の体型だ。だけどもちろん、私が敵う相手では無い。彼らのボスは相当スゴイらしい。だって、頭巾を取った凶悪そうな顔の彼らが逆らわないくらいの人なのだ。フィルってば、どういうつてを使ったの?

 考えても仕方がないわね。まずは縄を早く外してほしい。


「ねえ、手が痛いの。お願い、これ外して下さる?」


 ラノベのヴェロニカが人を動かす時のように、一生懸命色っぽく言ってみた。考えてみれば、彼女は次々と男性を虜にして言いなりにしていた。けれど私はまだまだだ。協力者のフィルの詰めが甘かったのって、もしかして、私の色気が足りないせい!?

 

「それはできねえ相談だな」

「ボスが戻って来るまで、辛抱してくれ」

「足だけなら、まあ」


 だめか。やっぱり色気不足?

 でもまあ、この際何でもいいや。


「お願いするわ。あなたって優しいのね」


 足だけだと言った男に笑みを浮かべる。

 ここで妖艶に迫ったら、手まで外してくれるんだろうけど。色気ってどうすれば出るんだっけ? 起きたソフィアが可愛く頼んだら、あっさり外してくれたりして。

 このままだと、魔法石を取り出して壊すことができない。ラファエルの魔法も、永遠にわからないままだ。


 男が足首の縄をナイフで切った。

 刃物を持っているなら、下手な動きはしない方がいい。それなら、身体ごと床にぶつけて叩き割るのはどうかしら? ラファエルを喜ばせたくないので、魔法石はあれから肌に直接ではなく、ドレスと下着の間につけるようにしている。ちょっとくらいケガするかもしれないけれど、スライディングすればもしかして……




 首を倒した私が準備運動を終え、床に飛び込もうとしたまさにその時! むくりとソフィアが起き上がる。


「夢じゃなかった。こんな所嫌だわ、帰りたい」

「気持ちはわかるわ。でもソフィア、私達は攫われてしまったみたいなの。だから、変な動きで犯人を刺激しないでね?」


 私は小声で義妹を(たしな)める。

 だけどソフィアはわかっていないのか、私を責め始めた。


「だいたい、ヴェロニカが道を間違えるから! 間違えたって素直に認めれば良かったのに」

「いえ、それは……」


 驚いた。ソフィアったら、誘拐を私が仕組んだとは考えないの?


「こんな汚い所は嫌~。(のど)が渇いたしお腹も空いた。トイレにも行きたい。ねえ、これ外してよ」


 無理よ、ソフィア。私もさっき言ったけど、ダメだったんだもの。


「トイレか。それならあっちだ。その間だけなら外すから、逃げるんじゃねーぞ」


 え、いいの?

 見ればソフィアは、あっさり足と手の縄をほどかれている。手首をさすりながら顔をしかめているけれど、やっぱり可愛らしい。って、感心している場合ではなかったわね。それなら今だわ!

 私はソフィアに身体をくっつけると、彼女の耳に小声で囁く。


「ソフィア、今よ。魔法石を取り出して、思いっきり床に投げつけて」


 ところがソフィアは、信じられない言葉を放つ。


「前に渡されたあれ? ドレスに合わないし、家に置いてあるけど」

「はあ!?」


 どうして、ソフィア。

 貴重な物だって言ったでしょう? ヒロインなのに、ヒーローからもらったものを身につけてないの?


「何をコソコソしてるんだ。行くのか行かねーのか」

「もちろん行くわ。もう漏れそう!」


 いろいろヒロインらしからぬ言動に、どっと疲れたような気がする。いいや、ソフィアが帰ってきたら、私の分を投げつけてもらおう。

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