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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第三章 本格的に悪事を働くつもりです
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悪役はつらいよ 4

 咀嚼(そしゃく)するけど恥ずかしくって、味などほとんどわからない。


「どう? タルトは君も好きだろう?」


 あろうことかラファエルは、自分の指を口に含んだ。ジャムか生地の欠片が付いていたのだろうけれど、私の口に入った指をそのまま()めている! 


「な……舐め、舐め!」


 彼の伏し目がちな仕草は、妙な色気に(あふ)れていた。おかげで私の顔は熱くなり、心臓は爆発寸前だ。


「あら」

「まあ」

「お熱いこと」


 同席する令嬢達も顔が赤い。彼女達の視線が、生温かいような気がする。

 違うの、ラファエルは単にふざけているだけだから!


 困っているのは、このことだ。

 一足先に十七歳となったラファエルは、人並み外れた容姿に加え、色香をまき散らすようにもなってきた。なまじ顔がいいだけに、どんな仕草でも様になってしまう。そういうのはヒロインだけにすればいいものを、私を相手に練習して面白がっているのだ。


「ヴェロニカは奥ゆかしいね。感想を素直に言っていいんだよ?」

「それどころじゃないわ! 人前でこういうのはちょっとって、いつも言っているのに」

「ああ、二人きりの方がいいと、そういうわけだね?」


 だから、髪をかき上げながら言うのはやめてほしい。普通にして、普通に!


「違っ……」

「ヴェロニカ様が羨ましいですわ。こんなに愛されて」

「本当。美男美女でお似合いです」

「王子様は、ヴェロニカ様を大切にされていらっしゃいますものね」


 反論さえも、かき消されてしまう。

 (だま)される彼女達も彼女達だ。

 悪役令嬢の私が、王子の過剰な演技のせいで周りに()されっぱなしというのは、いかがなものか?


 調子に乗ったラファエルは、花瓶から白薔薇を一本引き抜くと、香りを()いだ。(まぶた)を伏せるわざとらしい仕草にも、みんなが見惚(みと)れてため息をついている。これってやっぱり、ラノベのヒーローだからなの?


「残念なことに最近、私の大事な薔薇に悪い虫がついているようでね」


 目を開いた彼は、話題を変えたようだ。

 そんな話は初耳だけど、薔薇の病気でも流行っているのだろうか? 我が家にもたくさんの品種があるから、帰って早速庭師に報告しなければ。


「駆除したいがそうもいかない。悩ましい限りだ」


 病気なのに放っておくの? 

 それなら、本物の薔薇じゃないのかしら。

 もしかして、薔薇とはソフィアのこと? そうか、だから白薔薇なのね! それにしても、悪い虫とはどういうことだろう?


「私の思い過ごしであればいいけれど。大切な薔薇には、元気よく育ってほしい」


 この頃、ソフィアに元気がないことを言っているのね? だったら悪い虫とは……私だわ。


「びっくりしました。本物の薔薇のことをおっしゃっていらしたんですのね」

「そうよ! ヴェロニカ様に限ってそんなこと」


 ラファエルが突然変なことを言い出したので、薔薇が私のことだと大きな勘違いをされてしまった。けれど、薔薇はソフィアで虫が私。彼は私に釘を刺したのだと思う。


「駆除したい」とまで言い出すってことは、あまりやり過ぎると、虫のようにあっさり潰すぞ、ということなのかもしれない。だからといって、誘拐をやめるつもりはないけれど。


「そうそう、悪いといえばお聞きになりまして? 事件のこと」

「ええ。例の人攫(ひとさら)いでしょう? 何でも、貴族令嬢ばかりがいなくなるのだとか」

「怖いわね。何もわからないなんて」


 私もその噂は耳にした。

 最近貴族の若い女性、それも箱入りの綺麗な女性ばかりがいなくなっているのだとか。そのために人攫いの仕業だと、まことしやかに囁かれている。

 身代金が目的の誘拐とも、ただの家出だとも言われているけれど、誰も戻って来ないのでよくわからないそうだ。


「人攫いだとしたら、怖いわね」


 私も同調した。自分も企んではいるが、本物はやっぱり怖い。だって、私の計画している誘拐は、ソフィア限定なので至って健全だ。計画に穴がないかもう一度確認しておこう。




 他の令嬢達と一緒に部屋を出ようとしたところ、ラファエルに呼び止められた。何だろう。計画のことは、バレていないはずだし。

 もしかして、さっきの態度を注意をされるの? それとも、ソフィアの様子を知りたいのかしら。


「ニカ、私の贈ったペンダントは、きちんと身につけている?」


 なんだ、そのことね。

 魔法石が気になるみたい。


「ええ。肌身離さず持っているわ。ほら」


 私はドレスの中から引っ張り出した。考えてみれば、家族以外からの初めての贈り物なのだ。嬉しくないわけがない。まあ、家族は近頃冷たくて、贈り合ったりしないけど。


「良かった。外出する時も忘れずにね」


 確認するなんて、可愛いじゃない。帰ったらソフィアにも伝えてあげよう。

 のん気にそんなことを考えていたら、彼は私の胸に……じゃなかった、魔法石に触れた。そのまま持ち上げると、なんと、自分の唇に当てている!


 抗議しようとしたけれど、怖いくらいに綺麗な紫色の瞳に魅入られて、声が出ない。ラファエルは、私の顔を見ながら真剣な表情をしている。一瞬、彼が知らない人のようにも見えて――


 魔法石を放したラファエルは、いつもの柔らかな表情に戻っていた。我に返った私は、慌てて口を開く。


「な……何で!?」

「何でって、何? 魔力を供給しただけだけど?」


 彼は平気な顔をしているけれど、それは今まで私の肌に触れていたものだ。革紐はドレスと合わないために、わざと服の下につけている。魔法石はちょうど私の心臓の上、つまり胸の谷間にくる。私が中から取り出すところを、見ていたはずなのに。


 いや、深く考えてはいけない。

 ソフィアならまだしも、ラファエルは私が相手だと、全く何も感じないのだろう。一方的に恥ずかしがっている場合ではなかった。私にはジルドが……そう、牢獄でジルドが待っているのだ。


「何でもない。そろそろ帰るわね」

「ああ、気をつけて。それからニカ、今後も肌から離さないようにね」


 腕を組み、少しだけ首を傾けたラファエルが、私に声をかける。その姿は、まるでモデルのようだ。


「どうして? そうしないと、お守りの効果が出ないの?」

「ん? いや、その方が私が嬉しいから」

「なっ……」


 開いた口が(ふさ)がらないとは、このことだ。てっきり、気づかれていないと思っていたのに……

 王子がセクハラしてくる。早くヒロインとくっつけないと、悪役令嬢の私の身が()たない。

あー、またイチャイチャしてる〜。

(=´∀`)人(´∀`=)

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