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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第三章 本格的に悪事を働くつもりです
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悪役はつらいよ 2

「それよりニカ。せっかくだから、つけて見せてほしい」

「え、これ?」


 悪党うんぬんはひとまず置いておこう。

 助けに入る本人に、この段階でバレてはいけない。

 それにしても、ラファエルったら心配性なのね? 確認しなくても、もう壊す気はないのに。

 私は言われた通り、ペンダントを首からかけてみた。途端に石に描かれた魔法陣が、ポウッと赤く光ったような気がする。


「革紐は調節できるようにしておいたから」


 ラファエルがソファから立ち上がると、私の背後に回った。どうやら紐の長さを直してくれるみたいだ。私は自分の髪を一つに束ね、前に回して片手で握る。首に触れる彼の指がくすぐったいような気もしたけれど、ここは耐えねば。


「これでいい」


 最後に私の肩に手を置いたラファエルが、首筋にサッとキスを落とした。


「え? 何今の……」


 彼の唇が触れた場所を手で隠しながら、慌てて振り向く。すると、面白そうな光を紫色の瞳に(たた)えた彼が、私を見ていた。

 

「何って……白いうなじを見せつけるから、どうぞってことかと思って」

「はあ!?」


 何なの、それは! 髪の毛が邪魔かと思って、どかしただけじゃない。

 ヒロイン一筋の王子が、チャラ……浮気性では困るのだ。やはり一刻も早く、何とかしなければ。私は悪事への決意を新たにしたのだった。


 ラファエルが帰った後で、早速ソフィアの部屋に行く。魔法石のペンダントを渡すためだ。義妹の大好きなエルからのプレゼントなので、大喜びするかと思っていたら意外にそうでもない。目の前にかざして眺めたソフィアは、すぐに興味を失った。


「どうせヴェロニカの方が、もっといい物をもらっているんでしょ? 安そうだし、壊すためにある物なんて要らないわ」


 あれ? 私の説明が良くなかったのかも。


「いいえ、全く同じ物をもらったわ。貴女のついでに私の分もくれたみたい。それと、魔法石は宝石よりも貴重で、なかなか手に入らないのよ? お守りだと言っていたから、持っているだけでも効果があるんじゃないかしら」

「そう。だったら、気が向いた時にでもつけてみるわ。で、話はそれだけ?」


 ええっと……おかしいわね?

 ソフィアが私を嫌っていることは知っているけど、王子に対してその態度は違うような。感動して涙を流せ、とまでは言わないけれど、もっとこう嬉しそうなリアクションがあってもいいと思う。ソフィアったら、あんなにエルにベッタリだったくせに……


「ええ、まあ」

「そう。それなら、勉強したいから出て行って」


 勉強? ソフィアの口から『勉強』と言う言葉が出るなんて! 

 いえいえ、感動している場合じゃないわね。大嫌いな学問の方がマシだと思うほど、二人の仲はこじれにこじれているらしい。それならなおさら、急がなければ!




 それから三日後のこと。

 私は街に行ったついでに、誘拐の下見をしようと思い立った。馴染みの本屋を何軒か訪ねた帰りに、人けのいない手頃な場所はないかと探す。

 ちなみに地宮に出掛ける時の私の服装は、目立たない地味な物。商人の娘と同じような質素な服を着ている。一緒に行く侍女のサラも同様だけど、女性同士なので危険な地域に行くことはできない。そのために、誘拐できる下見の範囲が限定されるし、どの場所も人目があって、これといった決め手に欠ける。


「困ったわね。どうしよう?」

「お嬢様、どうかなさいましたか」

「いえ、別に」


 何も知らない侍女に、義妹を(さら)おうとしているなどと、明かすわけにはいかない。優しい彼女を巻き込みたくないし、悪役令嬢は身近な者には頼らないのだ。

 途方に暮れていたところ、身なりのいい男性に不意に声をかけられた。


「失礼ですが。もしかして貴女は、ローゼス家のヴェロニカ様では?」


 誰だろう? 街に男性の知り合いはいないはずなのに。

 不思議に思って見上げると、ある人物と目が合った。柔らかそうな茶色の髪に青い瞳で、可愛らしい顔立ちの若い男性……そうか。この方はあの時の、タルト君! 

 先日の舞踏会で、美味しいタルトがあると私に教えてくれた親切な人だ。ジルドが渋め、ラファエルが正統派だとすると、彼はアイドル系のイケメンといったところかな? 


「あら、奇遇ですこと」


 こんな場所で会うなんて、偶然って恐ろしい。それとも、この近くに美味しい店でもあるのだろうか?


「ああ、やはりそうでしたか。ご挨拶が遅れましたね、美しい人。僕の名はフィルベール。二十一歳になったばかりです。バルビエ伯爵が、私の伯父に当たりまして……」

「ご丁寧にどうも。私のことはご存知のようですし、紹介は要りませんわね?」


 言いながら、ちょっと驚く。

 随分若く見えるけど、五歳も上だったのね? 伯爵家の甥っ子らしいけど、私には身分なんて関係ない。名前を聞いても覚える必要はないので、やっぱりタルト君で。

 そのタルト君。街には何度も通っているらしく、良ければ案内しようと言ってきた。だったらもしかして、誘拐できそうなスポットや悪党達にも詳しいの? 


「この先に、クグロフの美味しい店があります。お連れの方とご一緒にいかがですか?」


 本来なら断るべきだ。

 でも、待って? ラファエルに突っかかられていた彼は、私が婚約中であることを知っている。だから私を、女性としては見ないはず。それに、私も町娘にしか見えない恰好だ。万一共にいるところを他の貴族に目撃されても、他人の空似でごまかせる。「ふしだらだ」と言われても、知らないフリをするつもり。


 そもそも、これから悪さをしようという悪役令嬢が、男性の誘いを受けたくらいでビクビクしてはいけない。悪事を引き受けてくれる()()があるかどうかも、本気で聞いておきたいし。


「ありがとうございます。喜んで」


 驚く表情のサラをよそに、タルト君お薦めの店に向かう。彼は伴も連れずに一人のため、当然のように私の腕を取る。慣れない私は、触られただけでうわっとなってしまう。軽く手を添えるくらい我慢だ。嫌そうな顔をしてはいけない。


 案内されたのは表通りから一歩入った所にある、感じのいいカフェだった。私も侍女も美味しいお茶と焼菓子に舌鼓を打つ。考えてみれば、こんな恰好の私に気がつき声をかけてくれるとは、とってもいい人だ。そのいい人が悪党を知っているかどうかとなると、(はなは)だ疑問だけれど。

 天候の会話が途切れたことをきっかけに、私はそれとなく聞いてみることにした。


「いろんなことをご存知で、羨ましいわ。もしかしてその……秘密、なことも?」

「秘密? どういった(たぐい)のものでしょう」


 困ったわ。サラも聞いているから、はっきり『悪党』と口にすることはできないし。何より彼に怪訝(けげん)な顔をされた時に、勘違いだと言い訳できるくらいでなくっちゃ。


日本ではクリスマスに多く出回るクグロフですが、一年中食べるところもあるようです(´▽`*)。

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