悪役はつらいよ 1
いつも読んで下さってありがとうございます。
夜に更新した方がいいのかな?
どうしよう……(-ω-;)。
「要らないわ。どれだかわからないし、そんなに食べられないもの。それに、私に手間とお金をかけるのもどうかと思う」
「君は私から、何も受け取ろうとはしないね」
先日のドレスのことだろうか?
そんなの当たり前だ。悪役令嬢が王子からプレゼントをもらってどうする。そんな記述は一切なかったし、第一私は牢獄に入る身だ。贈られたとしても、無駄になってしまう。
けれどラファエルは、悲しそうな顔をしている。王子からの申し出を断るって、対外的にも良くなかったのかしら?
「それなら一つだけ。ソフィアと同じ物ならもらってあげるわ。高価な物はダメだから」
「わかった。楽しみにしていてくれ」
もらうくせに偉そうだと、自分でも思う。だけど私は悪役だから、間違っても嬉しそうな顔をしてはいけない。もう一度踊ろうと言われたけれど、できればパスで。そろそろソフィアと合流したいし。
「そんなに踊りたいなら、別の人を誘ってもいいのよ?」
「いや、君以外の人と踊るつもりはない。じゃあ、外に出ようか。今夜は月が綺麗だ」
「食後の運動ってこと? ねえ、それよりソフィアは? ずっと姿が見えないのも、却って気になるんだけど……」
「私といるのにソフィアの心配? ニカは優しいね」
ヒロインを泣かせておいて何を言う。
やっぱりケンカしたらしい。
そんな描写、どこにもなかったはずなのに。
「いいよ。それなら探しに行こうか」
そう言ってラファエルが、私と手を繋ぐ。子供の頃とは違う指を絡める繋ぎ方は、まるで恋人と接しているかのようだ。意識してはいけないのに、どうにも調子が狂う。
探し出したソフィアは、ラファエルの護衛と二人で外にいた。小さな頃から顔馴染みの、金色の髪を短く刈り込んだいかめしい顔つきの男性だ。ソフィアはラファエルに相手にされなかったことが余程不満だったらしく、「つまらないからすぐに帰りたい」と王子の顔も見ずに言う。大好きなダンスができずに、庭の散歩だけでは退屈だったみたい。護衛も、困ったような顔をしていた。
ラファエルはあっさりしたもので「気をつけて」と口にするだけ。じゃあまたねも、次はいつ会える? も、何もなし。ラノベの中の「薔薇を見るたび君を想うよ」の台詞はどこ? いくら今日会うはずでなかったとはいえ、王子のヒロインへの態度が冷たすぎると思う。
これはあれかな? 私の悪事が圧倒的に足りず、王子と白薔薇が互いへの愛を自覚できていないせいかもしれない。
社交界デビューから数日後、私は部屋で悪事のプランを練っていた。そろそろ本格的な悪役として活動しないと、マズいような気がする。だって、密かに愛を育んでいるはずのソフィアとラファエルが、二人共よそよそしかったのだ。このままでは、二年後の婚約破棄に間に合わなくなってしまう。
ヒロインとヒーローを仲直りさせるためにも、私は悪役として頑張らなければいけない。危機的状況を作り出し、ソフィアをラファエルに助け出させないと。
『ブラノワ』に出てきたヴェロニカの悪行を真似ればいいから、自分のすることはよくわかっている。まずは誘拐。街に買い物に出たソフィアを悪党に攫わせて、監禁する。そこへ王子が部下を連れて助けに来る、というオチだ。ありがちと言えばありがちだけど、ライトノベルなんだから仕方がない。
けれど、一人でできることには限界があって、悪いことをするにも人手がいる。ポスターを作ってバイトを募集するわけにもいかないし、どうしよう?
そこで私は、誘拐の必要事項を紙に書き出していくことにした。この後、大体の予算案も立てるつもり。今書いている紙も、最終的には悪事の証拠の一つとなるから、綺麗に清書しておかないと。悪役令嬢たるもの、ミミズの這ったような走り書きが証拠品では、恥ずかしいのだ。
1.悪党2~3名募集
2.馬車の手配
3.監禁場所の用意
4.王子への連絡係(子供が望ましい)
「こんなところかしら?」
書き出した紙を前に首を傾げていると、後ろから声がかかった。
「お嬢様? ラファエル様がお見えです。応接室でお待ちですので」
「うわっと」
机全体を身体で覆って、慌てて隠す。侍女のサラは部屋の入口にいたのでセーフだ。計画が、家の者にバレてはいけない。
「わかったわ。すぐに行くと伝えておいてね?」
社交界デビューを済ませた後は、成人として扱われる。そのために婚約者といえども男性は、淑女の部屋には気軽に入れない。おかげでラファエルに後ろから覗き込まれることもなく、悪い計画立て放題だ。あの日以来急におとなしくなったソフィアも、この頃は私の部屋に飛び込んで来ることがなくなった。
身支度を整えて、階段を下りる。この前会ったばかりだというのに、ラファエルったら何の用かしら?
応接室に入るなり、彼は立ち上がって私を出迎えた。なんだか大人の男性みたい……ってそうだったっけ。
「やあ、ニカ。早速持ってきたよ」
「ごきげんよう、ラファエル。持ってきたって何のこと?」
「プレゼントだ。高価な物ではダメなんだろう? その分たっぷり愛情を込めておいたから」
「愛情?」
本日のラファエルは機嫌がいいのか、変な冗談を言う。そのまますぐにソファに腰を下ろした彼は、懐から薄紫色の布を取り出した。その中に包まれていたのは、透明な水晶のようなもの。前世でいうと五百円玉くらいの大きさだけど、魔法陣が描かれている……ということは、魔法石ね!
魔法石は、茶色い革紐と組み合わされてペンダントのようになっていた。二つだから、ソフィアだけでなく私の分もあるみたい。
「お守りだ。君と……ソフィアに」
「わざわざありがとう」
「困った時に使うものだ。叩きつけて壊せばいい」
「壊したら、何が起こるの?」
「それはお楽しみ。そんな機会が訪れないことを祈るよ」
いえ、教えてくれないんじゃあ楽しめない。それに、魔法石って非常に希少だ。小さな物でも高値で取引きされると聞いている。
「ラファエル、こんなに高価な物は受け取れないわ」
「高価? いや、タダだけど」
「タダ?」
「ああ。石と革紐は用意したけど、中の魔法は私のものだ。案じなくていい」
すぐに石を手に取り眺めてみる。
彼の魔法って何だろう?
叩き割れば、すぐに答えが……
「でもまあ、大変だったかな? 同じ物を作るには、魔力と時間を要する。ニカ、まさかここで確認したりはしないよね?」
ラファエルが、からかうように私を見る。
考えていたことが、すっかり読まれているようだ。叩きつける前で良かったと思う。
「せ、せっかくのプレゼントをいきなり壊すわけないじゃない。ソフィアも喜ぶわ。待ってて、今呼んで来るから」
「いや、いい。会わない方がいいだろう」
ラファエルが、急に真面目な顔をする。
「そんなに激しく仲違いしているなんて……」
私は小声で呟いた。
やはり、早急に悪事を働く必要がありそうだ。二人の仲が修復不可能になってからでは遅い。ラファエルに、悪党の知り合いはいないのかしら……って、ダメね。それだとすぐにバレてしまう。




