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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第三章 本格的に悪事を働くつもりです
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王子、相手が違います 7

 だって、私の相手は看守だもの。あと二年待てば、私はジルドと両想いになれるのだ。変なことを考えるのはやめよう。

 そして、彼が好きなのはソフィア。ヒロインに夢中にならないヒーローがいるはずはないし、さっき二人で想いを確かめ合ってもいた。私の戻るタイミングが遅ければ、その先のキ……キスまで進んでいたかもしれない。それはまだ早いから、きちんと邪魔しなければ。

 義妹のことを思い出した私は、先ほど彼女のいた方角に目を向けた。人混みでよくわからないけれど、どこにいるのだろう?


「ソフィアが見当たらないわ」

「心配ない。彼女のことは、別の者に頼んでいる」

「迷惑をかけていないといいけれど……」

「ヴェロニカ、今は私に集中して?」

「でも……」


 王子なのに、ヒロイン放置でいいのかしら? 

 問いかけるようにラファエルを見ると、何を勘違いしたのかにっこり微笑まれてしまった。余計な事を考えるなってこと? それとも婚約者として振る舞えと、そういう意味なの?

 まあ元々、ソフィアはここに来てはいけなかったのだ。公の場で王子とヒロインが踊るのは、私が捕まった後のこと。ここで二人がくっつけば、私は番外編に進めなくなってしまう。


 ラノベの王子はヒロインを気にかけていたのに、現実では結構冷静なようだ。さっきもソフィアの涙を見たくせに、あっさり部屋を後にした。今も彼女のことは心配ないと言う。


 ――はっ、まさか二人はケンカしたのでは!?


 それならつじつまが合う。

 ラファエルは、ソフィアへの当てつけとばかりに私と踊ろうとしているのかも。「私の薔薇」というのも、本当はソフィアに言いたかったに違いない。だから悔し紛れに、私で練習したのだろう。「こんな時に言うつもりではなかったのに」とは、そういう意味だ。ソフィアに見せつけて、彼女の愛を取り戻そうとしているのね!




 舞踏会は大盛況で、人が多い。社交界デビューは若い女性のお披露目の意味もあるので、独身男性が大勢詰めかけているせいだ。ぶつからないように気をつけて、と彼の胸に何度も引き寄せられてしまう。その近さに私は戸惑い、固まった。


「待って。これはちょっと、密着しすぎのような気が……」

「そんなことはない。周りを見てごらん? パートナーなら当然だ」


 確かに踊るスペースが狭いため、男性側が上手くリードしている。中にはベッタリくっついたままのカップルも。だけど私達は、正式ではなく形だけの婚約者。くっつくとやっぱり恥ずかしいし、これではソフィアにだって誤解されてしまう。

 なるべく離れようと変に力を入れたため、気づけば背中がバキバキに。肩も凝って腰も痛いような気がする。十六を過ぎたばかりの私は、まだ若いというのに。


「そんな顔してどうした。さすがに疲れたのかな? いいよ、それなら休憩しよう」

「ええ、お願い」


 待ってました! 

 ようやく彼から解放されそう。

 ラファエルとは結局、四曲続けて踊った。テンポがゆっくりな曲に合わせて踊るのは、優雅に見えて結構きつい。さらに「王子なのに他を相手にしなくていいのか」と私の方がやきもきしたし、曲が変わる度に女性達の突き刺さるような視線を浴びて、気まずい思いをした。体力も気力もすり減り、今の私はかなりへとへと。たぶん今日一日で、私のダンスの腕前は相当上がったと思う。


 ところが、安心したのもつかの間。ラファエルが、なぜか側から離れてくれない。

 ビュッフェでは、自分で取れると言うのに料理をお皿に取り分けてくれるし、飲み物も私の分まで持っている。これだと、王子をこき使っている悪女そのもので……あ、いいのか。ヴェロニカは、悪役令嬢だから。

 彼は婚約者に夢中な王子を演じると決めたらしく、さっきから私だけを相手にしている。令嬢達からのお誘いも、完全ブロックしているようだ。


「ごめんね。別の女性と踊ると、ヴェロニカが可愛く()ねるんだ」

「他の人とは踊らないと約束している。婚約中だしわかってくれるよね?」


 おかしい。そんな約束、身に覚えがない。

 もしかして、ソフィアと間違えている?

 ならば私が移動して、彼を自由にしてあげよう。そうすれば、ラファエルはソフィアの所に戻れるはず。ちょうど声をかけてきた若い男性がいたので、その人と一緒に料理を取りに行こうということになった。すると目ざとく見つけたラファエルが、行く手を(ふさ)ぐ。


「名を聞こうか。私の相手と知りながら、彼女を誘った君の名を」

「そんな、大げさだわ!」


 美味しいタルトがあると言うから、教えてもらおうとしただけじゃない。自分は女の子達とたくさん話していたくせに。いくら婚約者同士でも、ベッタリし過ぎは良くないわ。


「失礼致しました。あまりに美しい方でしたので、つい。ごめんなさい、僕はこれで」


 男性は一礼すると、そそくさと去ってしまう。初めてドレス以外を褒められたというのに、残念だ。彼が言っていたタルトがどれかも、非常に気になる。


「もう! ラファエルったら。彼に教えてもらうはずだったのに……」


 食べ物の恨みは怖いのだ。

 大人気でなくなってしまったら、どうしてくれるの?


「何を? 君は彼から何を教わるつもりだったの?」


 真顔のラファエルは、かなり迫力がある。突然怒り出すなんて、いったいどうしたのだろう。


「え? 何ってタルトだけど。今まで食べた中で一番美味しい物が、奥にあると言うから……」

「そんな嘘を信じたの? 君を狙う男を前にして?」

「どういうこと? 狙われるようなことをした覚えはないわ」


 まだ悪事だって働いていない。

 嫌がらせ程度なら繰り返したけど、ソフィアもやり返してくるから五分五分だ。いえ、私の方が負け越している。


「ニカ、危機感を持った方がいい。私と婚約中だと知りつつ、君に近づきたい男はいっぱいいるんだ」


 あ、何だそういう意味ね。命を狙うってことじゃなく、好ましいと思われているってこと……私が?


「まさか、ソフィアじゃあるまいし。ラファエルったら心配性ね。タルトを取りに行こうとしただけじゃない」

 

 ヒロインならまだわかる。だけど悪役令嬢の相手をしたいと願う男性が、どこにいると言うのだろう?


「そうだね、君とソフィアは全く違う。だから、誘いに乗るのは承服しかねる。気になるなら別の日に作らせるから、全て味わうといい」


 ほらね? ソフィアと私とでは、大きな差があるのだ。みんなから愛されるのは、義妹のソフィア。一方私は、番外編に入るまで誰にも愛されない。


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