表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第三章 本格的に悪事を働くつもりです
30/66

王子、相手が違います 5

「ソフィア、これは規則なの。貴女は十四歳だから、まだダメなのよ」


 私が注意をすると、ソフィアが大声でワアワア泣き出した。続々と到着する令嬢達が、怪訝(けげん)な表情で私達の前を通り過ぎていく。非常に目立つし、恥ずかしい。このままでは王子であるラファエルにも、恥をかかせてしまう。


「いい加減になさいっ!」

「ヴェロニカのバカ、意地悪、嫌いっ」


 義母にも困ったものだ。甘やかして育てるから、ヒロインなのに我儘(わがまま)になってしまった。本当はとてもいい子だから、早くラノベ通りに戻ってほしい。

 てこでも動きそうにないので、覚悟を決めた私はラファエルに謝る。


「ごめんなさい、このまま連れて一旦帰るわね」

「それは困る。仕方がない、とりあえずこちらへ」

「やっぱりエルは優しいわ。大好き!」


 途端に泣き止んだソフィアが、嬉しそうな声を出す。引き留める間もなく、彼女はラファエルと腕を組み、先に立って歩き出す。まあね、二人が想い合うのは最初からわかっていたけれど、それにしては堂々とし過ぎのような……

 密かに愛を育むっていうの、どこにいった?


 王子の婚約者は特別扱いをされるのか、控室まで豪華。テーブルの上には軽食や飲み物、瑞々(みずみず)しい赤い薔薇の花まで用意されていた。ラファエルは仕事を抜け出して来たらしく、私の頬にキスを落とすと「また後で」と、すぐに戻ってしまう。流れるような自然な仕草に、避けることすら思いつかなかった。ソフィアに見られていなかったことだけが救いだ。

 そのソフィア、ソファで楽しそうに飛び()ねている。


「うわー、ふっかふかー」


 義妹をどうしよう? 頭を抱える私には、社交界デビューだと緊張している暇もない。


「あのね、ソフィア。何をどう教えられたか知らないけれど、本当は十六歳になるまで、舞踏会に参加してはいけないの。だから、貴女はここでお留守番。勝手に動くと貴女の大好きなエルに迷惑がかかるのよ?」


 何が悲しくて、ヒロインに淑女(レディ)の基礎の基礎を教えなければならないのだろう? 本来ならば奔放(ほんぽう)なのはヴェロニカの方で、ソフィアがその身を案じていたはずなのに。


「だけど、お母様は言ってたわ。うかうかしていると、大切な人をとられてしまうからねって」

「まあ!」


 間違いだと言い切れないところがつらい。確かにラファエルは、かなりモテる。あのルックスに加えて頭も良く、さらに王子だ。今日も(すき)あらば彼と踊ろうと狙う令嬢達が、わんさかいるはず。だからって、ヒロイン自ら直接乗り込んで来なくても……

 いけないわ、悪役令嬢たるもの主人公に()されている場合ではない。私はソフィアに向かってわざと偉そうに言い放つ。


「彼は()()婚約者よ。貴女ごときを相手にするとでも思って?」


 いい感じだ。

 ラノベにもこの台詞は出てきたし……待てよ、もっと後の方じゃなかったっけ? 

 私の言葉に青ざめるソフィア。でも大丈夫。実際に相手にされないのは私で、王子と貴女は秘密の逢瀬(おうせ)を重ねる。そして、互いが特別な存在であると確信するのだ。

 盛り上がるのは、ヴェロニカが社交界にデビューした後の話。まずは無事にデビューしないと。


「ニカ、時間だ。玉座の間に向かってくれ」

「ええ。ソフィアをお願いね」


 わざわざラファエルが、呼びに来てくれた。

 ソフィアを彼に託し、急いで部屋を出る。

 舞踏会に行く前に、形式に(のっと)り国王ご夫妻に謁見しなければならない。デビューさえ済めばこっちのもの。主役二人が密会しようといちゃつこうと、どうってことはない。


 順番を待つ時間が長いので、私は残してきた二人に想いを巡らせる。

 今頃、互いの好意を確認し合っているのかしら? それとも、「さっきはきつく言ってごめんね。形だけの婚約だから安心して」と、ラファエルがソフィアにバラしていたりして。あら? それなら私、この後婚約を破棄されてもおかしくないんじゃあ……


 計画が狂うかもしれないと心配していたために、いざ自分の番が来ても全く緊張しなかった。覚えてきた文言をロボットのように淡々と口にする。おかげで堂々としていて立派だと、逆に褒められてしまう。王妃様は慈愛に満ちて温かい。彼女の息子であるラファエルを、本気で羨ましく思うのはこんな時だ。




 挨拶を終えた私は、控室の扉を開ける。

 私を目にした瞬間、抱き合う二人がパッと離れた。ソフィアの頬には涙の跡まであるような……って、まさかもうその場面なの?


 それは、一緒にいられなくてつらいとソフィアが泣き、王子が(なぐさ)めるシーンだ。悪役令嬢びいきの私でさえ、切なく感じた。義姉の幸せを壊すことはできないと、ヒロインが自らの気持ちを封印する。王子はそこで、ヴェロニカの悪事を暴こうと決意を新たに――

 犯罪まがいの悪いことが何一つできていないのに、展開だけが早いみたい。一瞬ドキリとしたのは、きっとそのせいだ。


「お帰り、ニカ。準備ができたら行こうか」

「え、ええ」


 何気ない声を出すラファエル。

 本当は、ソフィアと離れ難いに違いない。だけど、今だけは私も譲れないのだ。

 ラノベに社交界デビューの細かい描写はなかったけれど、ヴェロニカのパートナーはもちろんラファエル。婚約中だし、何より私は彼以外とまともに踊れる気がしない。あくまでも、仲睦(なかむつ)まじいフリをしなくっちゃ。


 けれど、ソフィアを思うと胸が痛む。大好きな人をとられたら、私だって悲しい……って、なぜかジルドではなくラファエルの顔が頭に浮かんだ。悪役なのに、ヒロインに感情移入し過ぎたかもしれないわね。罪悪感を抱かないよう、気をつけなければ。


「行ってくるから。おとなしくしているのよ」


 暗い顔のソフィアを残し、私とラファエルは部屋を出た。そのまま大広間に向かうのかと思いきや、彼は少しだけ話をしたいと小さな部屋に私を導く。


「ニカ、聞いてほしいことがあるんだ」


 何かしら? やはり好きなのはソフィアだから、婚約を続けられないとでも言うつもり? 私は焦って頭が真っ白に。


「ごめんね、ニカ。お父上の公爵は、この場に来られない。詳しくは教えられないけれど、大きな仕事をお任せしているんだ」


 あ、なんだ。そのことね?

 父が私に関心がないのは知っていたし、期待もしていなかった。ただ、もしかしてここにいるのではないかと、さっき少しだけキョロキョロしてしまったのだ。そんな私の様子を彼は気にかけてくれたらしい。


「別にいいの、いつものことだもの。それより急がないと、皆さんお待ちかねなのではなくて?」


 婚約破棄を言い出されなくてホッとした。まずは舞踏会。王子が遅れるわけにはいかない。それに早くしないと、必死に覚えたステップを忘れてしまいそう。

 ラファエルと腕を組んだ私は、会場に足を踏み入れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ