表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第二章 婚約者は腹黒いようです
21/66

僕の可愛い婚約者 1

エル(ラファエル)視点です。

 赤くなる様子が可愛くて、偉そうな表情を崩したくて、わざと彼女に触れた。途端におろおろするニカは、本当に見ていて飽きない。


 ことの発端(ほったん)は、僕――ラファエルの八歳の誕生日。

 国王である父が、突然こんなことを言い出したのだ。


「ラファエル、そろそろ話しておこう。お前には婚約者の候補が何人かいる。既に顔馴染みのお嬢さんもいるが、筆頭はここに来たことのないローゼス公爵の長女だ。十歳になったら彼女を含め、そのうちの誰かと婚約してもらう」


 政略結婚が当たり前の世の中だから、不本意ではあるが異議を申し立てるつもりはない。でも、顔も知らない相手が一番目の候補というのは意外だった。ところ構わず話しかけ、騒ぐだけの女の子達よりマシだといいのに。頭が良くて話が合えば、なお嬉しい。容姿は……はっきり言ってそこまで重要ではないと思う。人並みであれば十分だ。一度くらい会っておくのもいいかもしれない。


 絵姿を取り寄せ、確認してみた。その子の名前はヴェロニカ=ローゼスといい、肩より長い真っ直ぐな黒髪と赤い瞳が印象的だ。実物よりうんと可愛く描くのが画家の常だから、あまり期待はしていない。この半分でも似ているなら、子供にしては綺麗な方だろう。もちろん、ローゼス公爵の貢献度や資産状況、家族構成も頭に入れる。

 僕は幸い、一度見たものはすぐに理解することができる。そのため、今まで勉学や剣術、馬術のレッスンで困ったことはない。皆そういうものだと思っていたが、どうやら人とは少し違うらしいと最近知った。


 ヴェロニカと会う機会は、案外早く訪れる。

 小さな頃から僕を可愛がってくれた父の妹――侯爵夫人となった叔母の出産祝いを届けた帰りに、公爵家に立ち寄ることになったのだ。僕は魔力があるため狙われやすく、十歳になるまで外出時には女の子の恰好をしなければならない。その時も当然、女の子の姿だった。

 事情を知る叔母に相談してみたところ、「このまま、帰りに寄ってみてはどうかしら?」と提案された。その方が、婚約者候補の普段の姿を見られると言うのだ。


 慣れてはいても、初めて会うのにこの恰好だと恥ずかしい。だから、こっそり様子を見たらすぐに帰ろうと、そう考えていた。僕の身分は叔母が保証してくれる。ローゼス公爵と叔母は昔から親交があったため、紹介状を書いて持たせてくれたのだ。


「女の子の恰好をしているから、私の(めい)っ子ということでいいわね?」


 どうやら叔母の方が乗り気で面白がっているのでは、と後悔したことを覚えている。


  


 第一印象は衝撃的だった。

 ローゼス公爵家の庭の一画で、まず目に飛び込んできたのは黒髪の女の子……のお尻。植え込みに頭を半分突っ込み、向こうの様子を(うかが)っているようだ。


「ねぇ、何してるの?」


 思わず声をかけた。焦ったように顔を出して振り向く彼女は、ハッとするほど綺麗な顔立ちで瞳がルビーのように濃く赤い。

 ――ああ、この子がヴェロニカか。絵姿よりも美しく、大人びている僕の婚約者。まだ候補ではあるけれど、王宮を訪ねて来る同い年の女の子達より賢そうだ。吸い込まれそうな瞳に、僕は一瞬言葉を失う。再び口を開こうとしたところ、彼女が先に答えた。


「何って……ちょっとね。忙しいから、邪魔しないでくれる?」


 偉そうな言い方にたじろぐ。もちろん、態度には出さないように気をつけた。大人っぽく見えたのは気のせいで、中身はやはり子供だ。礼儀を知らず、幼稚(ようち)(しゃべ)り方しかできないのだろう。


「ふうん?」


 でも、せっかく来たのだ。僕は取り()えず、彼女を観察することにした。不思議な動きをするその子は、僕に向き直るとまたもや威張(いば)った言い方をする。


「あのねえ、これには重要な意味があるの。後々壮大な話に発展していくんだから」


 自宅の庭を(のぞ)くだけの行為に、どんな意味があると言うのだろう。壮大な話とは? その日は彼女の誕生日。見たことがないほど大きなプレゼントが届く、という意味なのかもしれない。


 けれどその子の真剣な表情を見て、僕はふと考えてしまう。もし彼女の言うことが本当で、重要なことが起こる前触れだとすれば――?

 未知の世界はいつだってワクワクする。既に高等知識まで習得している僕にとっては、いい暇つぶしになりそうだ。そう思い、彼女の言葉に感心したフリをする。


「そうなの? すごい!」


すると彼女は気を良くしたのか、自ら名乗った。


「私の名前はヴェロニカ。この家の長女よ。貴女は? なんてお名前?」


 うん、知っていたよ?

 だって君は、僕の婚約者候補だ。

 予想通りで良かったと、どこかでホッとしている自分がいる。だけどまだ決まったわけではないから、外に出たこの恰好のまま正式名を告げることはできない。僕は考えた末、小さな頃の愛称を教えることにした。

 

「「じゃあ、エルで!」」


 驚くことに言葉が重なり合う。

 君はどうして、僕の名前がわかったの?


 わかったわけではないらしい。たまたま思いついたのが、その名前だったようだ。

 だから目の前のヴェロニカは、大きな目を見開いてびっくりしている。その様子が年相応で可愛くて、気づけば僕は笑っていた。ヴェロニカも、同じように笑う。

 その笑顔がとても綺麗だから、僕は思わず見惚(みと)れていた。


 ――ねえ、ヴェロニカ。まずは友達になろう。

 そう言おうとした矢先、彼女が先に口を開く。


「いいわ、エル。貴女、私の弟子にしてあげる。これからは、私を手伝いなさい」


 まったく予期せぬ言葉に、僕は一瞬自分が女の子の姿であることを忘れる。


「……え、弟子? そこは普通、友達じゃないの? まあ、空いている時なら別にいいけど」


 素の声で、つい本音を()らしてしまう。身分を明かしたわけではないから、僕のぞんざいな物言いに公爵令嬢の彼女は怒るかと思われた。ところがヴェロニカは、ムッとしながらも怒りを飲み込む。そして、早速自分の義妹を監視してくれと言い出したのだ。

 ソフィアという名で銀髪に青い目だと特徴を説明するけれど、とっくに調べて知っている。だが、背伸びをして見たところで、屋敷近くの庭には誰もいない。

 

 ヴェロニカは、自分の義妹がいないと知るや急に慌て出した。よりにもよってそのことを、王子の――この僕のせいにするのだ。彼女の言っている意味が全くわからない。こんなにも理解できない状況は初めてだ。好奇心を刺激され、僕は彼女に質問してみる。


「ねぇ、どうして王子が出て来るの?」


 それに対する答えも、ますます予想外のもので――

 ヴェロニカは、自分には過去の……ここに生まれ変わる前の記憶があると、真顔で語り出したのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ