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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第二章 婚約者は腹黒いようです
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王子の正体 6

いつも読んで下さって、ありがとうございますヾ(*´∀`*)ノ

 もちろんエル相手にときめくはずはなく、私は手をゆっくり引き抜いた。彼はそんな私を見ながら、肩を(すく)める。


「ああ、それから――」


 エルが再び口を開く。

 何、まだ何かあるの?


「ソフィアへの意地悪を少なくしてほしい。あまり頻繁(ひんぱん)だと、僕達の婚約話が流れてしまう」


 そうか、それで……

 エルの言葉で納得した。

 自分を犠牲にしてまで、エルが私と婚約する理由。それはきっと、ソフィアを守るためだ。婚約者という立場を利用して、一番近くで私を見張るつもりなのだろう。


 話を知っているのに黒薔薇と婚約するなんて、おかしいと思った。お人好しだなんてとんでもない! 私との婚約は、エルにとってもちゃんとメリットがある。

 私がソフィアをいじめても、今はまだ子供のいたずらで済まされる。白薔薇に悪さをするかもしれないという疑いだけで、黒薔薇である私を排除することもできない。


 遠ざけられないのなら、(ふところ)へ飛び込もう。ソフィアと一緒にいるより、ヴェロニカと婚約して目を光らせていた方が安心だ。側にいれば、好きな子へのいじめも未然に防ぐことができる――エルはそう考えたのだろう。

 なるほどね? 王子は結構頭がいい。


 それなのに私は、予定通り婚約すると言われただけでホッとして、エルがソフィアより自分の方を優先してくれたのだと勘違いをしてしまった。物語のヒーローが、ヒロインよりも悪役令嬢の方を大事にするわけがない。


 能天気な自分に呆れてしまう。

 番外編になるまで、私は誰にも愛されないのに……

 感情が顔に出ないよう、私は表情を消す。

 

「どうしたの、ニカ。もしかして僕と婚約したくない?」


 ほらね? エルはきっと、婚約を(たて)に自分の意見を押し通すつもりだ。ショックなんて受けている場合ではない。仲良くなろうと期待してはダメ。悪役が、これしきのことで(くじ)けてどうするの?


 エルの目的ははっきりしている。

『この婚約は形だけ』――それはきっとソフィアを守るためだ。そして私は、ジルドに会うため。いいわ、それならお互い協力しましょう。


「そう言われたら、困るわね。善処する」

「ありがとう」


 嬉しそうに笑うエル。

 その顔を見ながら、気がついた。

 悪役令嬢たるもの、王子に主導権を握らせるわけにはいかない。


 考えたら、そもそもの原因はエルにあるのだ。彼が女装したままうちに様子を見に来なければ、私が勘違いして弟子にすることも、ラノベの内容を話すこともなかった。ラファエル王子は話通りに、黒薔薇とすんなり婚約しただろう。

 あ、なんかちょっとだけ腹が立ってきた。


「それなら、私からもいいかしら」

「もちろん、何でも言って?」


 悪びれないエルは、相当大物だと思う。だいたい十歳にして婚約を『形だけ』と言い出すあたり、末恐ろしい。それも全てはヒロインのため。愛するソフィアを無事に手に入れるまで、王子も諦めないと決めたのかも。


「女の子の恰好はもうやめて。いくらお似合いでも、おかしいわ」


 本当は女の子の姿のエルといる方が、話しやすい。けれど悪役っぽくわざとバカにしてみた。案の定、エルは傷ついた表情をしている。可哀想だと思ってはいけない。だって、王子が女装好きなんて記述はどこにもなかったし……って、まさか好きなの!?


「ニカったら、僕の話を聞いてなかったんだね」


 何のことだろう?

 王子の恰好もそうだけど、エルが『僕』と言うのにもまだ違和感がある。


「僕はさっき、女の子の恰好をさせられるのは十歳になるまで、と言った。これからは、普段通りの姿で出歩けるんだ」

「ずっと男の子の恰好ってこと?」

「恰好も何も、僕は男だよ」


 綺麗な顔をして男だと言い張るエルを、ちょっと可愛いと思ってしまった。確かに王子の恰好だと、ちゃんと男の子に見える。けれど、中学生の記憶がある私からすれば、まだまだ子供だ。

 ムッとしたのか下りた前髪をかき上げながら、エルが私をジトっと見ている。

 

「そういえば、そんなことを言っていたわね。自分の身を守れるまでとか何とか……あ、魔法!」


 そうそう、魔法のことをまだ聞いていなかった。魔力があって魔法が使えるなんて、すごいと思う。


 この世界に魔法使いはいるけれど、極端に数が少ない。魔力を持つ者は稀少な存在で、大事にされている。彼らは成長すると、魔法が使えるようになるのだ。

 攻撃などもできるけれど、主な仕事は魔法石に得意な属性の魔法陣を描き、自分の魔力を(そそ)ぎ込んで増幅させることだ。


 水量の調節や光源、()の温度管理など魔法石はかなり役に立つ。だから、魔法を使える人の扱いは国家公務員総合職並み……宮殿内の魔法研究所勤務となり、名誉ある仕事とされている。


 とはいえ、魔力がある者全員を発見できるわけではない。さらに増幅した魔法石は闇で高値で取引されるため、『魔力があるかもしれない』と疑われるだけで、誘拐に繋がることもある。ましてや王家なら、どんなすごい魔法が……って、だから女装したって言ってたっけ。魔力持ちは大変みたいね。


 でも私は、ラファエル王子がどんな魔法を使えるのか、実は知らないのだ。『ブラノワ』のそのページは破れていて、読めなかったから。自分の身を守れるということは、防御魔法? それとも攻撃は最大の防御なり、で攻撃魔法?


「ねえ、エルはどの属性が得意なの?」


 防御なら土か水。

 派手な攻撃なら火か風。

 攻撃はできないけれど、光という可能性もある。


「何だと思う?」

「火か風、かしら。イメージ的に」

「イメージ的? そう、そのことは本に書かれていなかったんだ」

「書かれてないというよりも、破れていたの。ちょうど読めなくって……」

「いつかわかるよ」

「あれ、教えてくれないの? さっき何でも言ってって、そう聞こえたけど」

「言ってとは言ったけど、答えるとは言っていない。ニカの好奇心を満たすには、隣で見ているしかないようだね?」


 エルったら、敵に塩を送らない作戦だろうか。手の内を見せると、いざという時私を攻撃できないからかしら? でも、王子が黒薔薇を魔法で()らしめる、というシーンはなかった。それなら防御魔法が得意なのかも。あれ? だったら王子はソフィアの(そば)にいた方がいいのでは?


 考え込む私を、エルが見ている。

 その顔が一瞬、ニヤリとしたような。

 この婚約が前途多難のように思えるのは……たぶん私の気のせい、だよね?


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