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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第二章 婚約者は腹黒いようです
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王子の正体 5

お待たせしました(*´꒳`*)

 ビクビクしながら尋ねた。魔法のことも気になるけれど、今はとにかく婚約だ。

 私はエルが王子であると気づかずに、物語を熱く語ってしまった。エルは将来、自分がソフィアとくっつくことを知っている。

 彼にとって悪役令嬢である私は、邪魔者以外の何者でもない。エルが、ストーリーをすっかり忘れていたらいいのに。


「どうして? 僕とニカは十歳の時に婚約する、だったよね?」

「覚えてたの! その、できることならこのまま……」


「婚約してほしい」と言おうとした。けれど、無理だと悟って語尾を(にご)す。

 しっかり覚えているのなら、私が婚約破棄を望んでいて、看守のジルドと恋に落ちることもわかっているはずだ。


『ブラノワ』では、王子と黒薔薇との婚約が重要な意味を持つ。二人の婚約破棄のシーンで物語はクライマックスを迎えるし、黒薔薇ざまぁ白薔薇良かったね、と読者が胸を撫で下ろすのもその時だ。王子の命令で拘束された黒薔薇は、そのまま牢獄に連行される。


 エルからすれば、別れる前提で婚約するのは時間の無駄だし意味がない。黒薔薇の横暴に我慢するくらいなら、今ここで縁を切っておいた方がスッキリする。むしろラノベの通りにしない方が、ソフィアと早くいちゃつけるのだ。この先の展開を知るエルが、私との婚約に踏み切るわけがない。


「失敗したわ〜」


 出会いを間違えてしまったせいで、私の望みは絶たれた。本編が始まりもせずに終わってしまうなんて、あんまりだ。つらいことがあるたびに、唇を噛む癖。そんな癖も気にならないほど、今の私はがっかりしている。

 うつむく私を、エルが下から(のぞ)き込む。突然迫った綺麗な顔に、私は思わずうろたえる。


「ニカは僕と婚約したいの?」

「当たり前じゃない!」

「……それは将来、大好きな看守と出会うため?」


 だめだ。忘れていたらと期待したけれど、鮮明に記憶に残っているらしい。ごまかしても無駄なので、正直に答えることにする。


「ええ、そう。『水宮の牢獄』に行かないと、ジルドとじれじれラブができないもの」


 触れ合う手と手、看守と囚人という禁断の恋。ジルドだけが与えてくれる私への愛情……憧れていた世界!


 でもそれは、私の都合だ。王子側にこの婚約によるメリットは何もない。しかも私は、エルをモブだと思い込み、かなり邪険に扱った。あろうことか、ヒロインの相手であるエルに、ヒロインいじめを手伝わせようとしていたのだ。


 完全にイタい。私の動機は不純だし、王子であるエルに失礼な態度をとっていた時点でアウトだ。エルは私を選ばずに、ソフィアを婚約者にと望むだろう。


「ごめんなさい、忘れて。貴方の嫌がることを、強要するつもりはないの」


 (すが)りつき、土下座してまでお願いしようとは思わない。ヴェロニカは、何者にもへつらわないからこそ美しい。エルが王子だとわかった途端に、頭を下げたり媚びたりするのは絶対に嫌だ。

 けれど、続くエルの言葉に私は動揺してしまう。


「ねえ、ニカ。それでもいいと言ったら? 予定通り婚約しよう。ずっと一緒にいて、十八歳になったら婚約破棄、だっけ?」

「ええ。だけど貴方は私でいいの?」

「僕との婚約が、ニカの望みでしょう?」


 にわかには信じられない。


『他の男性が好きだから、貴方とソフィアとの仲を邪魔するわ。悪事にも手を染めるけど、婚約はしたいの。十八歳で破棄してくれる?』


 私の希望はそういうことだ。そうと知りながら、エルは了承してくれるのだという。


「あの、途中解約受け付けてないんだけど……」


 婚約した後で、やっぱり無理だと後悔されても困る。そもそもこの世界には、お試し期間もクーリングオフの制度もない。


「何それ? ニカの方が嫌がっているみたいだね」

「そんなわけないじゃない! 嬉しくって泣きそうよ。でもエル、本物じゃないってわかってる?」

「うん。形だけの婚約で構わない。ニカといると気が楽だし、面白いから」


 エルったら、私の願いを聞き届けようとするなんて、お人好しにもほどがあるわ。まるで天使ね! ソフィアより、私を優先してくれるとは思わなかった。ラノベの話をした時は、あまり信じてなさそうだったのに……


 もしかしたら私に、(あらが)いがたいほどの魅力があるとか?


 エルと視線がかち合った。私の反応を探るように見るその顔は、目や鼻、唇や顎などのパーツが全て整っていて、作り物のように美しい。繊細な造形に加えて金色の髪と白磁の肌、紫色の瞳が芸術的で、意識しなくても目を奪われてしまう。


 ――ごめんなさい、調子に乗りました。圧倒的な美を前にしながら、図々しくってすみません。

 反省した私が脳内ツッコミを入れていたところ、エルが口を開いた。


「だけど、周りには本物らしく見えるように振る舞わないとね? 人前ではラファエルと呼んでもらうし、婚約者としての(つと)めもきちんと果たしてもらう」


 務めっていっても時々お茶会に参加するとか、大きくなってからパーティーに同伴するとかそういうのよね? お安い御用だ。


「わかった。精一杯頑張るわ」


 婚約を望んだのは私だから、十八になるまで壊すつもりはない。淑女教育には今後も熱心に取り組むし、第一王子の婚約者として猫を被り続けろと言うなら、そうする。

 どうせあと八年という期限付きなのだ。看守のジルドと国外へ逃亡する私は、その後は貴族のマナーなど関係なく、楽に過ごせる。


 問題はソフィアだ――地理と歴史、一般常識の学習をもう少し頑張らせないと、未来の王太子妃として非常に危険な気がする。


「それならニカ、約束だ」


 エルが私の手を持ち上げて、甲にキスをした。その優雅な仕草はとても自然で、逆らおうと考える暇もない。

 さすがは本物の王子様。ラノベのヒーローになるだけのことはあるなと、私は妙なところで感心してしまった。

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