表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第二章 婚約者は腹黒いようです
16/66

王子の正体 4

 エルの話はこうだった。


 ――王家の人間には、生まれつき魔力がある。大きくなると魔法を使えるが、幼いうちは魔力のせいで成長が遅れるため、自分の身も守れない。

 地位や魔法を利用しようと企む者達に狙われやすく、外に出ると誘拐(ゆうかい)される危険がある。

 だから王家の……特に王位を継ぐ者は、十歳になるまで外出時には、女の子の恰好をさせられるのだという。


 そんなある日、自分には同い年の婚約者候補がいると聞かされた。ローゼス公爵家の令嬢で、決定してはいないために、今ならまだ断れるのだとか。

 おとなしくて、自分の意見が言えないような子は苦手だ。王子である自分を相手に遠慮したり、逆に機嫌を取ろうとする子も。

 どんな相手なのか気になったため、外出した帰りにこっそりその子を見に行くことにした。


「宮殿内では王子として振る舞うんだけどね? 女の子の恰好は一部の者しか知らないから、自由に動き回れるんだ。まさか会うなり、弟子になれと言われるとは思ってもみなかったけど……」

「ご、ごめんなさい。だって、茶色い髪の女の子なんて、本には出てこなかったんだもの」


 エルにはラノベのことを話してあるから安心だ。『ブラノワ』に、綺麗な顔立ちの小さな女の子の記述はない。だから私は、エルのことをただのモブだと思っていた。

 白いドレスがよく似合っていたし、不自然な所作もない。女の子だと信じて疑わなかったのは、そのせいだ。


「あら? でも髪の色って……」

「髪はかつらで、ドレスも外出用のものだ。十歳になって自分で自分の身を守れるようになるまで、正体を明かすわけにはいかなかった。そうはいっても、さすがに公爵にはきちんと話しておいたけどね?」

「な、なんですってーー! お父様ったら、そんなことひとっ言も……」

「もちろん固く口止めしておいたから。ニカのお母さんだって知らないはずだ」


 お母さん……義母のことね?

 もし知っていたらエルとソフィアを積極的に遊ばせて、私は隔離(かくり)されていたかもしれない。


「秘密を知る人間は少ない方がいい。本当は王宮の外に出ないのが一番なんだけど、それだと君に会えないし」

「君にっていうより、ソフィアに会えないのがつらかったのでしょう?」


 エルは私が顔を出さなくなってからも、うちに通い続けた。それはソフィアに会うためで、ついでに私に会いたいと口にしたんだと思う。

 確かに今のソフィアなら、王子の好みにぴったりだ。おとなしいというより騒がしいし、周りに遠慮せず、上手く自分の意見を押し通す。可愛らしくて優しいから、誰もが彼女に夢中になる。


「ソフィア? 今はニカの話をしているんだけど」


 エルが困ったように首を(かし)げる。

 そんな姿も(さま)になっていて、まるで本物の王子様のようだ……って、王子だった。


「それなら最初から、私を見に来たってこと?」

「そう。綺麗な子だと聞いてはいたけど、想像以上で驚いた」

「はい?」


 おかしいわ。たった今、幻聴が聞こえたような。綺麗というのは、エルのような子をさすの。もしくはソフィアとか。

 将来ヴェロニカは美人になる予定だけれど、発展途上の今はまだまだだ。それなのに、私にそんなことを言うなんて……


 そうか、王子だからなのね?

『ブラノワ』の王子は優しくて、みんなから好かれていた。女性は全員()めるものだと思っているのかもしれない。


 ただちょっと待って!

 原作通りなら女装はダメだし、私と初めて会う前に、ソフィアを目にしていなければ。

 そして婚約者だと私を紹介されたら、がっかりしないといけないのだ。


 見たところ、がっかりしてはいないよね? それに大事なことを忘れていたけど、私はヒロインの相手であるエル……ラファエル王子にストーリーのほとんどを教えてしまっている!


「ねえ、エル。もしかして、私と庭で初めて話した時、ソフィアのことも知っていた?」

「そりゃあね、もちろん」


 それなら良かった。

 第一関門はクリアだ。


「正直に答えてね。ソフィアのことは好き?」

「ああ。どうしてそんなことを? 君のことも好きだよ、ニカ」

「いえ、そういうのいいから」


 王子が悪役令嬢を好きだと言ってどうするの。変な気は遣わないでほしい。

 あとは、婚約者として紹介されたのがソフィアでなく、私で気落ちしているのか聞いてみないと。


「もしかしてエル、今がっかりしている?」

「そうだね。冷たい婚約者で泣きそうだ」


 冗談のように言うけれど、これは非常にいい兆候だ。冷たい私より、ソフィアと婚約したかったってことでしょう?


「優しい婚約者の方がいいのよね?」

「まあね。一緒に過ごすなら、優しい方がいいかな」


 良かった。やっぱりエルは、ソフィアのことが好きみたい。出会いのシーンはおかしくても、途中で軌道修正されたようだ。それならこのまま無事に婚約……って、それには無理がある!


 話の内容を知りながら、王子が黒薔薇の私を近づけるわけがないのだ。一年前もエルは私がソフィアをいじめると、嫌な顔をしていた。


 それならエルは、私じゃなくって始めから義妹と婚約したいと言い出すのでは? エルには私の意地悪の理由も、番外編に行きたいという思いも全部話してある。もし彼が、「そんなまどろっこしいことをせず、直接白薔薇と婚約したい」と言い出したらどうしよう?


「あの……一応聞くけれど、私との婚約嫌だったりする?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ