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めざせ牢獄!〜悪役令嬢は番外編で愛されたい〜  作者: きゃる
第二章 婚約者は腹黒いようです
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王子の正体 1

 全ては番外編のために――

 私は、悪役としてもっと頑張ることに決めた。ぬるいいたずらをしている場合ではない。誰にどう思われようと、もっともっと意地悪をしてみんなから嫌われなければ。

 

 黒薔薇の白薔薇に対する嫌がらせは、幼少期の分はあまり記述がない。少ない中でも考え出し、張り切ってはみた。失敗はドジなエルのせいだと思っていたけれど、一人になってからもなかなか上手くできないようだ。

 逃げ足が速くなり、仕返しすることを覚えたソフィア。彼女の持っていた手紙にいたずら書きをしようとしたら、お返しにインクを倒された。廊下でぶつかれば、わざと足を踏まれてしまう。このままではいけない。


 それにしても、ソフィアったら。

『ブラノワ』に出てくる白薔薇はちょっとつつけばすぐ泣いたのに、現実のソフィアは滅多(めった)に泣かない。大泣きしたのは、デザートの中で一番好きなチョコレートケーキを私にとられた時くらいかしら? でも、横取りしても私はそんなに食べられないから、困ってしまう。結局部屋に持ち帰り、後から食べた。チョコレートケーキは少しだと濃厚で美味しいけれど、たくさんだと胸やけする。このままだと甘い物が嫌いになりそうだから、別の意地悪にしよう。


 そこで私は、壊れた絵本をわざとソフィアに貸すことにした。私が小さい頃に、まだ優しかった父が読んでくれたものだ。紐が古くて切れてしまったから、直さなければいけないと思いつつ、そのままにしていた。だから一旦ソフィアに貸して、返してもらう時に「壊した」と言って責めるつもり。そうすれば、ソフィアは戸惑い「違う」と言って泣き出すだろう。

 二日前に貸したので、そろそろいい頃よね?


「ソフィア、この前貸してあげた絵本だけど。読み終わったの?」

「お姉様! あれはちょっと……読みにくいんだけど」

「そう。それならもう、返してくれる?」


 昼食の後で言ってみた。

 父は外出しているし、義母はまだ寝ているらしく二人きりだ。暖炉の前はポカポカしていて気持ちがいい。早くしないと、今日の意地悪を忘れて眠ってしまいそう。

 素直なソフィアは急いで絵本を取りに行く。手渡されて確信する。バラバラになるから諦めたのか、読んだ形跡(けいせき)はない。


「ごめんなさい。借りたけど、読んでない」

「ごめんなさいって、貴女っ」


 すかさず私は義妹をなじる。

 意地悪が、今日はまともに成功しそうな予感。


「ひどいじゃない。こんなに壊して!」

「え? でもこれって、最初から……」

「私が壊れた本を貸したとでも? 嘘つき。ソフィアのせいで、もう読めないわ」


 もちろん嘘をついているのは私。

 悪いと思ってはいけないのに、泣きそうな義妹を見て、喜ぶより申し訳ないという気持ちが先に来てしまう。けれど私は悪役だから、感情を表に出さないようぐっと(こら)える。


「違う、私じゃない!」


 ソフィアが叫ぶ。あともうひと押しで、ラノベの記述にある『ヴェロニカの数々の嫌がらせに、ソフィアは泣いてばかり』が実現しそうだ。

 ところがタイミングの悪いことに、丁度そこへ義母が入って来てしまう。


「あら、二人ともどうしたの?」


 最近義母はだらしない。父は仕事で何日も王宮に泊まることがあるから、その時は平気で昼過ぎまで寝ているのだ。今も寝衣(パジャマ)にガウンを羽織(はお)っただけの、はしたない姿で歩き回っている。白薔薇の母親だけど、淑女(レディ)としては恥ずかしい行いだ。ソフィアには絶対に見習ってほしくない。 


 初めて会った時の義母は、温かな陽だまりのようで優しかったのに。残念ながらそれは、よそ行きの顔だったらしい。この頃は我が物顔で振る舞うし、私に冷たい。


「お姉様に、本を壊したって言われて……」


 ソフィアが義母に訴える。

 面倒くさい状況に、私は心の中で舌打ちをした。

 また失敗? あともう少しで、泣きそうだったのに。


「そう。ヴェロニカったら、言いがかり? この子はそんなことをする子じゃないわ。壊れているってこれのこと?」

「あっ」


 言うなり義母は、私の手から古い絵本を取り上げた。バカにしたように眺めると、ポンと放り投げる。本が向かったその先は――


 私は驚き、息を()む。

 暖炉に投げ入れられた私の本。

 古びた紙に火の回りは早く、あっという間に燃えてしまった。


「そんな! どうしてっ」

「どうせ壊れているのでしょう? 大きくなったし、そんなものを読む歳でもないのだから」


 読む読まないは関係ない。

 あれは、思い出がいっぱい詰まった絵本だ!

 悲しくて悔しくて、涙が出そう。

 私は我慢するために、下唇を強く噛む。

 悪役令嬢が、こんなところで泣くわけにはいかない。


「なあに? その反抗的な目は。親に逆らうなんて、とんでもない子ね。性格が悪いったらありゃしない」


 肩を(すく)めた義母はソフィアの腕を引き、さっさと部屋を出ていこうとする。ソフィアは後ろを振り返り、私のことを気にしてくれているようだ。白薔薇は優しい。だからみんなに愛されて、大事にされるのね。


 二人が部屋を出た後で、一人残った私は灰をかき集める。燃えカスすら見つからなかった。いじめの罰があたったのかもしれない。因果応報(いんがおうほう)という言葉が、ふと頭に浮かぶ。


 それでも、と私は首を横に振る。

 迷っている場合じゃないでしょう?

 意地悪をすると決めたじゃない。

 全ては番外編のため。

 私は黒薔薇として、徹底的に嫌われなければならないの。

 



 そんなある日、ソフィアがエルから「もうすぐ婚約する」という話を聞き出してくる。まさか、エルの相手って王子なのでは!

 焦った私は、自分に王子との婚約の話は来ていないかと、父に確認しに行くことにした。


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