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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

猫ヶ洞千種は突撃猟兵で巨人狩りになる様です

作者: はち

「ヒャッホォ!!」

「ヒィィィッ!!」

「ウェェェエェィィッ!!!」


 1台のバイクが泥濘と化した戦場をかっ飛ばしていた。サイドカー付きのバイクで、サイドカーの後部には担架が付けられている。

 担架には一人の怪我人が縛着されており、唯一動く首と口を盛大に動かしていた。運転席には左頬に大きな傷跡がある30代の筋肉ダルマと称するに正しい男が座り、その隣には巨大なライフル銃、対機動甲冑用小銃と呼ばれ、口径は13ミリ。重量は10キロで有効射程は1800メートルだが、それは人間の様な脆弱存在に対してである。本来の標的たる機動甲冑には射程は800メートルまで落ちてしまうし、確実な距離を取るなら遠くても300メートル、否、200から150メートルは近付きたい。

 弾種は様々な種類があるが、基本的な物だと対機動甲冑用のWCAP、魔術解除型徹甲弾、やWCHE、魔術解除型榴弾があり、通常の装甲目標用のAMAP、対物徹甲弾、AMHE、対物榴弾等もある。


 そして、そんな銃を抱えているのはこの物語の主人公、そう、私だ。前世は猫ヶ洞千種と言い生粋の日本男児。前世の職業は自衛官。陸上自衛隊第二師団第六中隊第三小隊小隊長車操縦手。

 階級は陸士長だった。享年22歳で翌年に履修前行く予定だった。死因は一酸化炭素中毒による中毒死。冬季検閲でマイナス20度を下回る極寒の北海道大演習場で、ハッチを閉めた操縦席にて毛布に包まりだるまストーブを焚いていたら普通に死んだ。

 訓練中の事故死として片付けられ、今後の注意喚起として各戦車連隊、大隊に事故報告が回るだろう。恥だ。


「砲撃注意!!」


 遠くでドーンドーンと音がしたので空を見上げれば白い線を引いて様々な口径の榴弾が飛んで来ている。

 勿論、機銃弾や魔術も飛んでくる。

 この世界は私の知る世界では無い。第一次世界大戦より後で第二次世界大戦よりも前の時代、そして何より魔法が、正確には魔術があり、そして、それは女しか使えない。

 男尊女卑な世界で、戦場は女の世界。そう言われているが唯一男が幅を利かせてのがこの猟兵科だ。対機動甲冑部隊でその八割が男性兵士で構成されている。

 一言で言えばレンジャー集団。


「ナビしろやぁ!」

「左に切って!」


 私の指示にハンドルを握る男、ルーデンドルフ軍曹はクラッチとアクセルワークで砲弾孔だらけの戦場を巧みに駆けて砲弾を避けていく。

 この世界での私の名前はマガト、パトリック・マガトだ。階級は伍長。前世よりも体力と筋力はある。なんせ娯楽が無い。筋トレと駆け足を毎日やっていたらそれが趣味になった、とでも言っておこう。マジで。

 因みに後ろに寝てるのはどっかの歩兵連隊で足撃たれて中間地帯に取り残されていた兵卒。私達の中隊が突撃に突撃を噛まして戦線ぐちゃぐちゃにした隙に助け出したのだ。

 バイクに乗って。

 味方の前線に近付くに従って援護射撃も入る。


「ヘイお待ちぃ!!」


 バイクは盛大にドリフトして味方の塹壕に飛び込んだ。


「ウーラー!見たか穴あき共!コレが猟兵流の味方の救助だ!」


 ルーデンドルフ軍曹が近くに居たの士官や下士官に怒鳴り付けた。荷台で泡を吹いて気絶している兵卒の上官で私達に助けを求めてきた士官達である。

 すると中隊伝令の兵卒が走って来た。


「ルーデンドルフ軍曹!

 中隊本部が敵の第二警戒線突破しました!」

「何ぃ!パック!行くぞ!中隊本部の爺共に遅れを取るな!

 大砲を担げ!」


 ルーデンドルフ軍曹が近くに居た兵卒から手榴弾を奪い取り、序に水筒と携行食も奪うと走り出す。因みに猟兵は二人一組が最低限での行動単位で、私が射手で彼は弾薬手兼観測手だ。

 武器は短機関銃と手榴弾によく研いだスコップを持っている。私はソードオフのダブルバレルショットガンと手榴弾によく研いだスコップだ。


「了解軍曹。

 それでは失礼します」


 士官に敬礼をして対機動甲冑用ライフル銃を担ぎ軍曹の後を追う。

 このライフル銃はクラインカーノンとかルストゥントゥーテン、ゴーサトゥープとか呼んでおり、どちらも小さな大砲とか鎧殺し、凄い奴とかだ。

 まぁ、そんな可愛らしい事を言っているがまさに小さな大砲。大きなボルトアクションライフル銃で重量低減の為に被筒に当たる場所には針金と分厚い布が巻いてあるだけだ。撃つ際は基本的に伏せて撃ち、左手には分厚い革製の手袋を履いている。

 そんなクソ重たい相棒を背負って猛ダッシュに近い速さで狭い塹壕をかけて行くんだから大変なのだ。軍曹は伝令を怒鳴り付けながら走っていく。


「中隊本部まで案内しろ!何ちんたら走ってやがる!テメェそれでも伝令かクソ穴開きが!」

「す、すいません!」


 伝令は折り返しで中隊本部の場所まで私達の前を先導していく。


「邪魔だ邪魔だ!!

 猟兵中隊に道を開けろ!」


 伝令は塹壕内で屯している兵卒や下士官、士官に分別なく怒鳴りつけて叫ぶ。伝令の階級は二等兵。魔術を持って体力強化をしているが、その後ろから追い掛けると言うよりも追い立てているに近い軍曹は伝令の倍以上の声を張上げながら走っている。

 まるで新兵の訓練だ。軍曹に置いていかれない様に私も必死に走るが、後ろから見ていると前の二人は実に可笑しい。


「フフフ……」


 思わず笑いが出てしまう。


「退けこの腐れ穴開き共がァァ!!

 中隊本部のジジイ共に遅れちまうだろうがァァァ!!!」


 周りの兵卒や下士官、士官達はドン引きだ。ゴツい重装の男が二人全速力で塹壕内部を怒鳴りながら走っているのだ。引かないほうが無理というものだろう。なんて事を考えていたら軍曹は前方の伝令を後方からタックルをかます。私も手身近な兵卒の襟と腕を掴んで押し倒す。

 直後ドパッと上空で何かが爆発した。敵の魔力反応型炸裂弾である。コイツは人間の持つ魔力に反応して爆発する榴弾で前世の磁気反応式や電波反応式榴弾、つまりVT信管に似たものだ。

 まぁ、防ぐ方法は魔力をその戦域に散布させるだけでその砲弾は使えなくなる。


「さっさと起きんかボケェ!!

 パァックッッ!!怪我はないか!」

「武器装具健康状態共に異常なし!」


 素早く体と銃に装備を確かめて報告。


「よぉぉし!」


 軍曹が立ち上がろうとして周りにいた兵卒や下士官が塹壕の縁に取り付く。そして機関銃や小銃を撃ち始めた。何事か?と見れば、敵の歩兵部隊が機動甲冑を引き連れて前進してきている。

 事前砲撃もなしに突撃を開始する事はままある。今の榴散弾で敵の目を一時的に潰し、その隙に歩兵部隊と機動甲冑部隊を塹壕から出すのだ。


「パック!

 予定変更!目の前の処女共を破瓜してやるぞ!」

「ヤー軍曹!」


 軍曹が近くに居たの兵卒と下士官に場所を開けろとむりやり引き剥がすと、スコップと小さな土嚢で手早く即席の射撃掩体を構築した。

 私はそこにゴーサトゥープを設置して射界の確認をする。


「軍曹、彼処のこぶ邪魔です」

「アレだな?」


 軍曹は手榴弾をコブに向かって投げると吹き飛ばしてしまった。


「射界の確保良し」

「よし。お前の好きなタイミングで撃て。処女は3匹。股座にドデカイのぶちこんでやれ」

「ヤーヴォール」


 槓桿を引いて薬室を開放。軍曹がWCAP弾を差し出すのでそれを装填した。距離は800だ。この距離でも関節部に当てれば一撃で破壊が出来る。

 勿論、それは敵も分かっているので関節の、特に股関節や膝、肩、肘の装甲は厚い。もちろん、可動域の為にその制限はあるし、穴もある。

 機動甲冑は股関節を守る為にスカート状に編まれた鎖と鉄板の鎧を付けている。それは大体膝上程で歩く際にその行動を阻害しない程度の長さになっている。

 そして、大腿部は人間に似せるためか湾曲している。


「撃ちまーす」


 宣言してから軽く息を吸い、少し吐いてから止めて撃つ。ドンと衝撃が私の肩を襲う。次の瞬間には眼前を歩く機動甲冑の左股関節に弾が吸い込まれる様に飛び込み、一瞬遅れて炸裂する。

 機動甲冑はそのまま左脚を根本から折って倒れ込む。敵はあまりに早過ぎる機動甲冑の擱座に動揺していた。この隙にリロードさせて貰おう。

 馬鹿でっかい槓桿を押し上げて、手前に引く。原型となったボルトアクションはこの槓桿が直線であったが動きが15度もあるので、ゴーザドゥープでは曲げられて居り余り上体を動かさなくても槓桿操作が出来る様になっている。聞いた噂ではストレートプルボルトタイプも開発されている様だが、構造の欠点から故障しやすいとか。

 他にもセミオートタイプも作られたが重量と反動のデカさで射手の肩が逝かれたとか何とか。


「装填よし」

「あのツノ付き狙えや」


 ツノ付き、甲冑の兜に当たる場所に生えているアンテナだ指揮官用の機動甲冑は魔術による通信を確保増大させる為にアンテナを付けているのだ。

 部隊長の車両はアンテナが沢山って奴だね。しかし、私が装填を完了し、狙いを定める頃には手にした大盾を構えている。右手に持った重機関銃をコチラに突き出してドッドッドッと凄まじい勢いで撃ってきていた。


「取り敢えず頭潰しますね」


 大盾のスリットに狙いを定めて引き金を引く。空かさず槓桿操作。カィィンと甲高い音と共に人間の親指ほどもある薬莢が宙を舞う。

 素早くWCHE弾を装填し薬室を閉鎖。撃発。ワンホール。敵の指揮官機の兜は拉げてその場で停止した。敵は残り3体。


「よし、移動だ」

「はい軍曹」


 素早く銃を担ぎ、今まで銃を撃っていた場所から離れると若い歩兵達がその場所に入り込んで小銃を構える。あーあ、馬鹿なのかな?

 彼女達が入った瞬間、凄まじい量の鉛玉が降り注いでアッという間に彼女達を肉片に変えた。7.7mm口径弾とは言え軽機関銃とは比べ物にならない連射力で撃たれたら最早恐怖だ。更に、ドガンと小爆発。見れば1体の機動甲冑の腕には37ミリ狙撃砲が付けられていた。


「目標はあの梅毒だ!」


 37ミリ狙撃砲はその形状からのサック、つまりはコンドームと呼ばれ、それを装備している=性病、性病=梅毒と言う構図から37ミリ狙撃砲装備型の機動甲冑は梅毒と呼ばれているのだ。

 実に下品な話であるが、まぁ、しょうが無い。


「はいはい。陣地選定は彼処で良いですよね?」

「おうよ!退け穴あき共!」


 軍曹が素早く歩兵を退かし、円匙にて即席銃座を構築。私はそこに取り付いて、狙撃砲装備の機動甲冑に狙いを定める。

 機動甲冑は基本的に射撃武器は持たない。偶に腕に250発の弾帯を取り付けたり、狙撃砲を取り付けたタイプが登場するが殆どが剣や槍と言った古風な武器を持った者が多い。

 と、言うのも未だに騎士道精神が根付いており、我が帝国にしても複数の貴族領からその領主の軍隊としての帝国軍を出しているのが背景にある。更に言えば、敵もまた同じ感じだ。

 兵士の質は均一化しているが士気はバラバラだし、装備も細部はかなり違う。連隊が最大規模の単位であり師団という概念はほぼない。勿論、帝国軍として外面を保つべく皇帝を大元帥と置き、その下に各師団があるのだが、師団の内訳は皇帝の支配下に収まる貴族達の軍隊なのだ。


「狙撃砲は露出してるからね」


 WCHEで腕に複数本纏めてある狙撃砲を狙い撃つ。見事薬室に直撃して連鎖的に爆発。腕を吹き飛ばす事に成功したのだった。

 話を戻そう。

 師団長にはその地方を治める皇帝に縁のある貴族が収まり、師団長たる貴族が治める地方にいる貴族達が持つ各軍隊が連隊になる。

 連隊隷下の部隊は基本的に騎士達が指揮運用するので結果的に上の方は騎士道精神や貴族的愛国心に厚いのだ。まぁ、現場規模では平民が多いので機動甲冑乗りたる騎士以外は泥沼の塹壕戦を繰り広げている訳だ。


「お、漸く砲兵共の熱烈歓迎が始まったな!」


 軍曹は後方を見やりドーンドーンと聞こえだした重砲の砲声に笑みを浮かべた。


「はい、軍曹」


 私も軍曹に笑みを返し、適当に攻撃をして足止めを狙った。

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