冒頭部SS - 7 / 9
……それから、期間で言うと一ヶ月があっという間に過ぎていった。
それもそのはず、旅に出る以前にこの世界で生活するため、会話や文字の読み方、通貨や道具の使い方、ルールやマナーといった、粗方の常識を改めて身に付ける必要があった。
幸いにも根幹の概念や法則が元の世界と同じくしているので、理解するのは容易い。それに"ノル"という新しい自分として生きるため、固定観念を意識していたこと、フィルとルミアに付きっきりで教わったことで、二週間程で覚えることが出来た。
そして残りの二週間は……何度思い返しても苦笑いが出るほど、過酷な訓練だった。
「……それじゃあギルドに登録するために、キミの役割職を決めましょうか?」
……役割職とは、いわゆる戦士や魔法使いに盗賊といった戦闘系、鍛治師や行商に芸人といった商業系などがあるが、一言でその者の特徴を表す分類のことだ。
「それじゃあ、まずは右手を出して?キミの適性を改めて調べるわ」
ルミアの指示に従い右手を差し出すと、両手でノルの右手を握る。……これは、この間フィルに行ってもらった魔素適性を調べる方法のようだ。
……ノル、ルミア、周囲の魔素が呼応して高ぶる
ルミアは時々誰かと話すように小さく呟く、次第に鎮まると、ふぅ、と艶っぽく一息つき、口を開いた。
「……お疲れ様!……そうね、魔力門の影響はあるけど、キミの魔素の性質はかなり高いわ、高位職とか副職付とか、よっぽどの無茶を言わなきゃ認められるわ、……何か希望はあるかしら?」
(……ある程度は決めてはいるけど、この先付き合うことも考えると助言を聞いた方が良いだろうか)
「ええと、一応オススメの役割職を聞いても良いでしょうか?」
そう聞くとルミアはさほど考えずに答えた
「そうねぇ、目的を考えると戦闘系であった方が良いわね、……例えばフィルを守る騎士とかね?……けど、大体は元々決めているか、適性からフィーリングで決めたもので良いと思うわ?」
ルミアの助言を踏まえノルは自分の考えを伝える
「……それじゃあ、身軽に戦うことが出来る役割職にしたいです、レンジャーとかどうでしょうか。」
ルミアはそこでふと何かを思い出した。
「……そう、だったらキミにちょうど良いのがあるわ」
そう言ってルミアは少し離れる、本棚から古い図鑑の様な分厚い本を取り出すとペラペラとめくり、戻ってくるとページを開きノルに見せて話始める。
「……キミには、この珍しい役割職が相応しいと思う。……詠唱魔法猟戦士、詠唱魔法術を合わせて扱える身軽な戦闘系の役割職よ?」
改めて薦められた役割職にノルは困惑を見せる。
「……え?でも僕は、詠唱魔法術が使えないんじゃ?」
「……そうね、ごめんなさい、少し誤解させてしまったわね」
一言ノルに詫びると、改めてノルの状態について説明を始めた。
「……今のキミの魔力門は、言わば鍵が壊れて扉が閉じることのままならない状態なのよね、……でもそれは詠唱魔法術が使えない訳じゃないわ、むしろ必要以上に引き出してしまうのが問題なの。……改めてキミの中に宿せる魔素の性質を確かめてみたら、多くの属性に対応出来ることが分かったの。そしてこれは異世界の人間の特性かしら、その属性の中には、悪意に反応しやすい"闇"の属性にも、高く反応していたわ。」
「……禁術の多くは、強大な闇属性が起因だと聞いているわ、君が初めて使った詠唱魔法術が禁術だったのは、偶然というよりも発動条件が揃ってしまったからでしょう。」
ルミアの真剣な説明を聞き、ノルは息を飲むが、ルミアは明るく告げる
「……フフッ!そう考え込む必要はないわ、要は制御の問題よ!過剰に魔素を使わないよう訓練すれば良いのよ?……魔力門が不安定だからこそ、意識して扱うためにも私はこの役割職をキミに薦めるわ。」
……確か、魔素の扱い方は、詠唱により放つだけでなく、身体能力の向上にも扱えると聞いた。
「キミは魔力門の制御を人一倍鍛えなくちゃいけないわ、その覚悟はあるかしら?」
(……ルミアの言葉はもっともだ、せっかく教えてくれたんだ、これから始まる旅は生半可な力じゃ進めない。)
「……はい、これに決めます!」
ノルの力強い返事に、どこか色っぽく笑む
「うん、良い返事でよろしいわ、……それじゃあ早速訓練を始めましょうか?」




