冒頭部SS - 2 / 9
青年"ノル"は、少女"フィル"と共に森を歩き、街を目指す。
道中、少女と話を続けていて、青年が会話の中に感じた違和感に察しがつく。
例えるならば方言や訛りだろうか、大筋の会話は通じているが、青年の元の世界とこの世界では、細かいニュアンスに齟齬があるようだ。
「……にしても、貴方って不思議な人、記憶が無いこともそうだけど、こんな森の深い所なのに、傷も汚れも無いし珍しい服装で、魔物に対する装備も無い」
最後の単語にノルは反応する。
「……魔物、ここには魔物がいるのか。」
「うん、そうだよ?その様子だとまだ遭遇してないみたいね」
「色々聞きたい、ここの魔物はどの位の強さだ?素手で何とかなるのか?出没頻度はどの位だ」
ノルの続けざまの質問にフィルは整理しながら答えた。
「あ、えっと、まず魔物の強さね、そこまで詳しくないけど……、小さな子供でもやっつけられる魔物から、大人二人でやっと倒せる位の魔物かな。」
「ふむ」
「素手での戦いは……普通の人なら何とかなるかなぁ、格闘家の人なら今言った強い魔物も一人で倒せそうだけどね」
「魔物の遭遇は、森を通るなら一回は必ず遭う位かな、種類は多いみたいだけど数はそんなにいないみたい。」
「なるほど、参考になった」
ノルはフィルに礼を言うと、フィルはクスリと笑う
「素手でなんて話、あまり聞かないよ?普通は武器を使うー」
フィルが話していると、目先の茂みから大きな音をたて一つの影が姿を現す。
ノルの見たことの生物、サッカーボール大の毛玉から小さな手足と円らな瞳と牙を持つ。
「……魔物か、こいつの強さは?」
初めて見る生物、魔物だが、見慣れたように冷静な様子を見せる
「うんと、まあまあかな?」
「そうか、……近付いてくるが……やるか?」
「もちろん!」
ノルとフィルは、魔物と対峙した。
ノルが前に出ると魔物が飛び掛かる、フィルに向かわないよう引き付けつつ、体型に合わない軽快さで魔物へ素手で対抗する。
ノルが魔物を蹴り飛ばし距離が開いたとき……
「詠唱!輝きて闇を振り払う火球よ、汝に立ち阻む困難を打ち破り焼き焦がせ!」
その言葉に呼応するように、大気がフィルへと流れると、指先に拳大の火の玉が生み出される
「ヒートエッジ!」
動きが緩んだ魔物へと、火の玉は高速で指先から離れ魔物へと衝突する。
ほんの一瞬だが魔物を包むように炎上し、火の玉と共に消え去る。
魔物は呻き声を上げ、非常に弱り果てていた。
しかし、フィルの方へ飛び掛かろうと走り出す……が、ノルの足が魔物を捉え蹴り飛ばされると、木に衝突しやがて静かになった。
ノルはフィルへ駆け寄り声を掛ける。
「……大丈夫か?フィル……さん」
初めて少女の名前を呼ぶが、思わずさん付けをしてしまい、フィルはクスクスと笑う
「私は大丈夫!ノル……クンは?」
仕返しをするかのように、悪戯に笑みながら君付けでフィルを呼ぶ
「……ああ、どうやら右手が魔物の手先で引っ掻いたようだが……問題無い、かすり傷だ」
かすり傷だが、傷という言葉にフィルは反応する
「ちょっと見せて」
ノルが右手を差し出すと、その手首を両手で掴みと傷口をよく見る。
かすり傷と言ったが、皮膚が切り裂かれており、じわりと血が滲んでいた。
フィルは傷口に右手をかざし言葉を唱える。
「詠唱、私は願う、私は祈る、大いなる魔素よ私の言葉に応えたまえ、生命の安らぎ、魂の癒し、輝ける女神の祝福と加護を与えたまえ……ヒール」
フィルの言葉に呼応するように大気が集まる、かざした右手には柔らかく揺れ惑う光が現れる。
その光に包まれた傷口はまるで幻のように透き通り、次第に綺麗に無くなった。
「……よし、これで大丈夫だよノルくん!……魔物には毒を持つのもいるし、微かな血の臭いに嗅ぎ付けるものもいるから、かすり傷でもちゃんと治さなきゃダメだよ!」
ノルは今の出来事に追及する。
「……凄いな、さっきの戦いといい、今の治療といい、……これは魔法というやつか?」
その言葉にフィルはきょとんとした表情をした
「……………、もしかして知らない?魔法なんて言葉、すごく久しぶりに聞いた、そんな言い方するのは、お爺ちゃんお婆ちゃんくらいだよ」
「私が使っていたのは、最近の呼び方だと詠唱魔法術って言うんだよ」
「マテリアル、……それは俺でも使えるものなのか?」
「ええと……」
ノルの疑問にフィルは少し困惑するが、真面目な表情で返答した。
「まずは適性かな?マナの適性がないと使える詠唱の種類も限られるし」
そう言うな否やフィルは、ノルの手首から右手へと手を握り、目を閉じた。
思わぬ握手、柔らかな手の感触にフィルは顔を赤らめる。
ふとノルは大気の流れを感じた、それだけでなく身体中に何かが駆け巡るような感覚が走る。
そしてフィルに握られた右手から、人肌とは異なる、柔らかな温かさを感じ右手に目をやると、微かな光に右手が包まれていた……。
そしてフィルは再び目を開き、静かに手を離した。
「……うん、大丈夫!ノルくんのマナ適性は十分あるね!……ただ、まだ魔力門が開いて無いから、今すぐには使えないかなぁ」
フィルからまた新たな単語が出る。
「ゲート?それは一体…………」




