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復讐の狼煙 3

異世界については第二章から詳しく明かされるので、成り行きだけ把握してもらえると嬉しいです。


「……」


 優希が気が付くと、そこに立っていた。

 そこは、暗闇の空間でもビルが建ちの並ぶ街でもなかった。

 レンガ造りの家、初めて見る馬車、民族衣装のような服、店には見覚えがあるものが売られているが、中には見たことのないものも売られている。


 突然現れた2年3組生徒たちを、珍しいもののように、通り過ぎる人は見ている。

 だが、あまり騒ぎにはならなかった。

 注目の的になりそわそわしている生徒たちの前に、若い男が来た。

 ドルトンと同じ格好をしており、生徒たちににっこりと笑いかけて、


「ようこそ、新しい眷属様。わたくしは、案内役を務めさせていただく、司祭のアランと申します」


 礼儀正しくお辞儀するアランに、何人かの生徒はつられるようにお辞儀を返していた。

 

「では、ここは騒がしいので、移動しましょうか」


 アランはそう言って歩き出した。生徒たちはどうしようか分からず、お互いに顔を合わせる。

 その中を、逢沢が足を動かし、アランについていこうとすると、他の生徒もつられるように移動した。

 優希も最後尾を縮こまってついていく。




 ********************




「着きました。みなさん、ゆっくりとおくつろぎくださいませ」


 アランに案内されたのは、教会だった。

 長椅子が並び、間に赤いカーペットが敷かれている。奥には、大きい絵画が飾られていた。

 その絵画に、生徒全員苦い笑みを浮かべた。


「やっぱ神だったんだ……」


「あれで神だったんだ……」


「この絵みたいな神々しさが一切なかったよな……」


 生徒からそんな言葉が呟かれる。

 高さ10メートル、横7メートルのその絵には、キトンを身にまとい、背景は黄色い色調に包まれたエンスベルだった。

 生徒がその絵を見ていると、アランは両手を組んで話し出す。


「このお方は、エンスベル様。大陸中から信仰されている神様です」


 アランの話に生徒全員が、あれが? と言いたげな表情を浮かべた。

 アランが話している表情から、この世界でのエンスベルは真っ当な神と思っているらしい。実際はふざけた男なのだが。


「では、皆さんも疲れたでしょう。どうぞご自由におくつろぎください」

 

 アランは、生徒全員に休むよう勧める。

 生徒全員、長椅子に腰を掛け、アランの方を向く。


「では、聞きたいことがたくさんあるでしょう。なんでも聞いてください」


 進行に偉く手馴れているあたり、この世界には同じように転送された人もいるようだ。

 アランの言葉に、複数の生徒が勢いよく手を挙げるが、このままでは収集がつかないと判断した逢沢が代表して質問することになった。

 この世界の説明を受けながら、それぞれペンダントをかける。優希もペンダントを首にかけ、プレートを見た。さっきまで絵にしか見えなかった文字が読める。エンスベルの言っていたことは本当だった。


 同じようにプレートを見ながら、笑う生徒もいれば、困惑する生徒もいた。


 アランの説明によると、職業は剣士以外にも種類があるらしい。

 剣士、弓兵、槍兵、獣使、魔導士、武闘家、筆写師、易者、鑑定士の9種類がある。

 前半は何となく想像がつくが、後半は意味が分からないという質問が飛んできたので、アランは説明した。


「獣使 《じゅうし》はモンスターや動物を飼いならして戦う職業です。メリットは操れる種類で多彩な応用力や連携を繰り出すことができますが、獣使本人は剣士のような職業と比べて、直接の戦闘は弱いことにあります」


 アランの説明に喜ぶものもいればいい表情をしない者もいる。反応するってことは、おそらく獣使だったのだろう。

 だが、獣使はまだ戦闘において実用的だ。問題は残りの筆写師、易者、鑑定士なのだが……


「その3種類は戦闘よりもサポートが主になります。例えば、筆写師なら地図の作成や絵の作成が得意になります。地味な力ですが、完全に記録できるのは今後何かと必要になってきますので」


 戦闘向きではないのがデメリットだが、地図を作成すれば、筆写師の記憶に叩き込まれるらしい。ダンジョンの捜索などには必須のようだ。


「易者は占い師です。占いの種類は複数ありますが、練度を高めればどんな占いでもすることができます。凄腕の易者なら未来予知も可能だそうです」


 宝の在りか、モンスターの位置などを把握できる易者は、下準備にもってこいの上、連れて行けば分かれ道などに遭遇しても大丈夫らしい。


「鑑定士は言葉のまま、鑑定が得意です。武器やアイテムの名称、価値、効果などを知ることができます。まぁ、アイテムは持ち帰ったりできるので、基本的に鑑定士を連れている人はいませんが」


 優希はアランの説明の後、あたりを見渡した。他の職業の紹介をしているときとは違って、誰一人表情の変化が見られなかった。

 それを知った途端、急に不安になった。優希のプレートにはこう書かれていたからだ。


 名前 サクラギ ユウキ

 職業 鑑定士 

 練度 1

 所属 ――


 戦闘に連れていかれることはなく、街の武器商人や鍛冶職人のほとんどは鑑定士だ。つまり、いまさら鑑定士など彼らには必要ないのだ。


 テストで0点を取った時のようにプレートを隠す。しかし、背後からプレートをのぞき込む奴が居た。


「ブッハハハハ……お前鑑定士かよ。どこの世界でも地味だな、」


 げらげらと竜崎は笑う。優希は何の反論もせず下を向く。竜崎の言葉を聞いていたのか、他の生徒もくすくすと笑っている。


 

 そういう竜崎は武闘家らしい。ボクシングの経験もある彼にはお似合いだ。

 それぞれ、プレートを確認したのち、アランの説明を懸命に聞く。

 説明が終わるころには日が暮れそうになっていた。




 ********************




 転送されてから数日たった今、生徒たちは自由行動だ。それぞれグループになり、街で情報を集めるなり、観光するなりしていた。金や装備は最初にある程度支給されていた。

 どのグループにも入れずにいる優希は街を歩いていた。戦闘など出来るはずのない優希は、この世界では商人などして過ごそうかと考えていたその時、優希の背後から、近づき方を組んでくるやつが居た。毎度のこと竜崎は何で僕に構うのかと思いながら、竜崎の方を向く。


「な、何……」


 少し怯えながら優希は聞く。竜崎は笑みを浮かべながら答えた。

 

「さっきさぁ、面白い話を聞いたんだけど、こっから南に魔物が出る森があるらしくて、ちょっと行こうかなって思ってるんだけどお前も来いよ?」


「そ、そんなの危ないんじゃ」

 

 竜崎を心配しているわけではない。単に自分が行きたくないのだ。まぁ、優希の言葉など一切聞かないのが竜崎なのだが。


「大丈夫だって。奥の方に行かなければそれほど強いモンスターは出ないらしいし、それに、俺はこの通りだぜ」


 そう言って、竜崎は自分のプレートを見せてきた。

 竜崎の職業練度は30になっており、優希は目を疑った。

 たった数日でこんなに上がるのかと思ったが、話を聞くに、竜崎は話していた森にちょくちょく行っていたらしい。今回は少し奥に行くのに優希を連れて行こうとしているのだ。モンスターから逃げ回る優希をを見たいのか、単に森の中でご自慢の職業を披露したいのかは知らないが、どのみち優希にとっては嫌な話だ。しかし、断ることは出来ず、優希は半ば強引に連れていかれた。今の竜崎に殴られては前の世界よりも痛いだろうと思い、嫌々ながら足を進めた。




 ********************




 森に来たのは竜崎と優希だけではなかった。よく、竜崎と一緒におり、優希を殴っていた葉倉はくら 冬馬とうま水上みずかみ 慎二しんじだ。

 葉倉も竜崎と同じ武闘家で、水上は剣士だ。普通、戦闘に行くには、魔導士のような戦闘要員が一名は欲しいのだが、完全に近接戦闘系が集まっている。練度は竜崎ほどではないが、それなりに高い。今だ練度1の優希なら片手でひねることができる。



「うわぁぁぁぁぁぁぁ」


 優希の予想どうり、自分が逃げる光景を竜崎たちは楽しんでおり、


「ア~ハッハッハ、こいつは面白れぇ。おい桜木逃げるんじゃなくてこうするんだよ!」


 竜崎はオオカミのようなモンスターを蹴り一発で吹き飛ばした。

 吹き飛んだオオカミは倒れた後、砕け散りその場には鉱石が残っている。


 これは魔石と言われる、この世界のエネルギー源だ。元の世界の石油や石炭、電機などは魔石が対応している。

 魔石には属性があり、単体で使う物もあれば、複数の属性の魔石を混ぜ、別の力を発揮したりできる。

 竜崎たちは、魔石を袋に入れて回収する。それなりの金になるようだ。

 そして、ある程度たった時、竜崎から聞きたくなかった言葉が出た。


「じゃあ、そろそろ奥に進むか」


 もともと、奥には進む予定だったのだが、優希は行きたくなかった。そのまま忘れてくれないかなと淡い希望を抱いていたが、それは儚く散った。

 優希は先に進もうとする竜崎に背後から声をかける。


「ぼ、僕はここで……」 


「あぁん!?」


 優希の言葉を竜崎の眼力がかき消す。

 小動物のように震えている優希は、竜崎の元にゆっくりと近づき、竜崎の早くしろや! の一言に早足になった。

 優希はこの森に入ったから、いやな予感しかしない。それは、自分が無力からか、この森がやばいのかはわからない。しかし、この森に来たことを、今後優希は後悔することはなかった。




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